第二十五話

 俺は、何も言えなかった。

「うっ、うううう……」


 だが、疑問に思っていることを聞いた。

「それにしてもお前、よく敵キャラの後ろに回り込めたな?」


 すると伊留美いるみは、またため息をついた。

「はあ……。今、自分がいる場所の地形ちけい把握はあくしておくのは、FPSの基本でしょ? あんた本当に、第二回戦で全ての敵キャラをたおしたの?」


 俺はまた、何も言えなかった。

「う……。そ、それは……」


 すると伊留美は、ツッコんできた。

「それは、何?」


 俺は、やっと答えた。

「それは彩華あやかさんと景和けいわに、協力してもらって……」


 伊留美は少し、あきれたようだった。

「はあ。まだヌルい第二回戦で、他人に協力してもらうなんて……」


 俺は少し、イラついた。

「そういうお前はどうなんだよ?! 第二回戦で一人で敵キャラを全員、倒した訳じゃねえんだろ?!」


 すると伊留美もちょっとイラつきながら、答えた。

「あれは配置はいちが悪かったの! アタシと離れたところに配置された敵キャラを一人、味方の他の奴が倒しちゃったの! 言っとくけどアタシは、一人で五人の敵キャラを倒したんだからね! ボスも含めて!」


 なるほど。確かにそれは、ちょっと運が悪かっただけか。伊留美が味方よりも先に敵キャラを見つけていれば、おそらく伊留美が一人で全ての敵キャラを倒しただろう。


 それにしてもマシンガンを持ったボスキャラを、一人で倒したのか。俺はあんなに苦労くろうしたのに……。しかもライフは一つも減らしていない。さすがは『スコーピオン』の国内ランキングの一位か……。そう考えていると、銃声じゅうせいがした。

『ドウ……』

『ドウ、ドウ……』


 弾丸だんがん軌跡きせきから、通路の向こうに敵キャラがいるのが分かった。しかも、二人だ。更にこの銃声と、距離があるここまで攻撃が届くということは、二人の敵キャラが持っている武器がライフルだと分かった。伊留美は、舌打したうちをした。

「ちっ、アタシとしたことが、攻撃を喰らうなんて!」


 そして伊留美は自分のキャラを、俺のキャラの後ろにかくした。俺は思わず、ツッコんだ。

「あ! おい、てめえ! 人のキャラをたてにすんな!」


 すると伊留美は、反論はんろんした。

「うるさいわね、アタシは攻撃を喰らっちゃったの! あんたとくだらない話をしていたせいで! だから責任、取ってよ!」


 俺は少し、納得がいかなかった。責任って……。俺と話をしててスキを作った、自分の責任はどうなるんだよ……。だが今は、そんなことを考えてる場合じゃない。俺は伊留美に、告げた。

「とにかく今は、攻撃をかわすぞ。横の脇道わきみちに入れ」


 俺と伊留美は、自分たちのキャラを通路の左にある脇道に隠した。すると、敵キャラの攻撃も止んだ。


 俺は伊留美に、命令した。

「おい! さっきみてえにこの脇道を通って、あいつらの後ろに回り込め!」

「無理よ!敵キャラの位置からするとこの脇道を通ると、敵キャラの前に出るわ! 集中攻撃を喰らっちゃうわ!」


 くっ、なら、どうすればいい……。少し考えた俺は、提案した。

「なら、敵キャラを前進させればどうだ?! それならさっきみたいに敵キャラの後ろに回り込めるだろ?!」

「そりゃそうだけど、一体どうやって?!」

「おれが敵キャラを引きつけて、前進させる! それならどうだ?!」


 伊留美も少し、考えた。

「そうね、それならイケるかも……」


 そして、小さな声で続けた。

「でも、無理はしないで。あんたがやられて二対一になったら、ちょっと困るから……」


 俺は、聞き返した。

「あ?! 何だって?!」


 すると伊留美は、叫んだ。

「死ぬなって、言ってんの! ほら早く、敵キャラを引きつけて!」

「分かってる!」


 俺は脇道を出ると、二人の敵キャラに攻撃した。

『ドウ、ドウ、ドウ、ドウ、ドウ……』

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