第四話

 俺は思わず、左右を見た。すると右側には太った男が一人、左側には男女三人がパイプ椅子いすに座っていた。なるほど。俺も含めて五人か。それじゃあ、『ENEMYエネミー』(敵)を五人倒せばいいんだな。ゲームのシステムが分かると、俺は俄然がぜんやる気になった。よーし! どんどん敵を倒して優勝して、賞金の一億円を手に入れてやるぜ!


 そして俺は敵をさがして、どんどん前進した。俺たちがいるのはどうやら、まちの中のようだ。それもテレビで見た戦争中の街のようで、全体的に激しくくずれていた。ガレキがいだ。まあこれは戦争ゲームみたいなものだから、ふさわしいグラフィックだと思った。


 そうして敵を探して前進していると左隣の長髪の男が、「うっ」と声を出した。


 すると『れる』の大きな声が、響いた。

「あー! 一つ、言い忘れてました! 敵に攻撃されると武器におうじて、画面の右上にあるライフが一つづつ減っていきます! 

 一つ減ると左脚が、二つ減ると右脚が、三つ減ると左腕が、四つ減ると右腕が皆さんの後ろにいる、ペナルティ・スナイパーに撃たれます!

 そして五つ減ってライフがゼロになると、頭を撃ち抜かれるので注意してください!」


 俺はそれを聞いて、わめいた。

「ふざけんな! そういう大事なことは、先に言え! ライフがゼロになると、頭を撃ち抜かれる?!」


 するとこの場にふさわしくない、『れる』の陽気ようきな声が、かえってきた。

「ほら私って、おっちょこちょいだから、言うの忘れちゃった。てへ」


 俺はツッコんでいる場合じゃないのに、ツッコんでしまった。

「うるせー! 『てへ』じゃねえんだよー!」


 俺はすぐに、画面の右上を見た。するとスマホのバッテリ表示のように緑色のバーが、五つに分かれていた。俺は取りあえず、『ほっ』とした。良かった。ライフはまだ、一つも減っていない。そして後ろをり返った。すると今まで気づかなかったが、ライフルのような銃を構えている迷彩服を着た男が五メートルくらい離れたところに立っていた。


 俺を含む五人の後ろに一人づつ五人、立っていた。俺は、いつの間にか下手へたをしたら俺の頭を撃ち抜こうとしている奴がいることに気づいて、恐怖きょうふした。


 冗談じゃねえぞ、頭を撃ち抜かれる? それって確実に死ぬだろ? そういえばゲームの募集ぼしゅうツイートに、『命知いのちしらずの方を希望します』って書いてたけど、まさか本当に命がけとは! 冗談じゃねえ、こんなゲーム、やってられっか!


 そう俺がこのゲームに参加したことを後悔こうかいしていると、左脚に痛みが走った。うん? 何だ? と思って痛んでいるところを左手で触ってみると、血が付いた。まさかと思って画面を見ると、『ENEMY』と頭上に表示されたキャラが、ピストルをこちらに向けて立っていた。画面の右上を見ると、ライフが一つ減っていた。


 くそっ、ヤバい! と俺はSボタンを押して、後退した。敵キャラはそれでもピストルを撃ってきたが俺のキャラが後退しているせいか、当たらない。俺はとにかく敵キャラが見えなくなるまで、俺のキャラを後退させた。


 取りあえず『ほっ』としたが次の瞬間、俺のひざはガクガクとふるえ出した。左隣のパイプ椅子に座っていた長髪の男が、パソコンのキーボードに倒れこんだからだ。よく見ると、後頭部から血が流れていて、ピクリとも動かない。どう考えても、死んだとしか思えない。しかも即死そくしだろう。おそらく俺のように攻撃されて、そしてライフがゼロになったんだろう。それで頭を撃ち抜かれたんだろう。


 俺は、逃げることにした。こんなゲーム、やってられっか?! 一億円より命が大事だ! 


 すると右隣の太った男もそう考えたんだろう、立ち上がると叫んだ。

「じょ、冗談じょうだんじゃない! 本当に死ぬなんて聞いてないぞ! こんなゲーム、やってられるか!」


 そして後方に走り出した。すると『パアン』とかわいた音がして、太った男は仰向あおむけに倒れた。男の顔を見てみると、ひたいから血が流れていた。どうやら額を撃ち抜かれたようだ。


 すると『れる』の大きな声が、再び会場に響いた。

「あ! そういえばこれも言い忘れてたけど、ゲームを途中で止めて逃げ出した場合、敵前逃亡てきぜんとうぼうとしてやっぱり後ろにいるペナルティ・スナイパーに頭を撃ち抜かれます!」


 それを聞いた俺は、やっぱり大声でわめいた。

「ふざけんな、テメー! そういう説明はゲームが始まる前に、ちゃんと言えってんだよ!」


 するとやはりこの場にふさわしくない、『れる』の陽気な声が再び、かえってきた。

「ほら私って、おっちょこちょいだから、また説明を忘れちゃった! てへ」


 俺は再びツッコんでいる場合じゃないのに、ツッコんでしまった。

「だから、『てへ』じゃねえんだよーー!!」


 俺は必死に考えた。とにかく、このゲームから逃げることができないことは分かった。つまり生きびるためには、このゲームをクリアするしかないってことだ。そしてこれが、とんでもねえクソゲーだってことも分かった。


 俺は撃たれた左脚の痛みをこらえながら、一昨日おとといの自分のバカさ加減かげん嫌気いやけがさした。世の中うまい話が転がっているわけ、ねえんだよーー!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る