第五十一話

 そしてそれぞれの用紙を、四つの段ボール箱に入れた。すると二千万円、残ったことに気づいた。これは、どうしようか……。だが俺はこの二千万円を、自分のモノにする気にはならなかった。


 優勝賞金の一億円は死んだ四人のために使われるべきだと、考えたからだ。すると、思い出した。彩華さんには病気で治療中ちりょうちゅうの、妹さんがいたことを。彩華さんはそのために、ゲームに参加して戦ったことを。なのでノートパソコンで文章を書いて、プリンターで印刷した。

『この二千万円は、彩華さんの妹さんの病気の治療に使ってください』


 そしてこの用紙と二千万円を、彩華さんの住所に送る予定の段ボール箱に入れた。だから彩華さんの段ボール箱には合計、四千万円入れた。


 それから四つの段ボール箱をガムテープでふうをするとコンビニに行き、それらを四人の住所に送る手続きをした。送り先は『れる』からもらった用紙を見て、書いた。そうして俺は、やっと一息ひといきついた。

「よし。それじゃあこれから、俺がやりたいことをやるか」


 そして俺は、バイト先のコンビニに向かった。店長は商品の、補充ほじゅうをしていた。俺が近づくと、店長は気づいた。

「あれ? 北村きたむら君、久しぶり。用事ようじは終わったのかい? またここで、バイトをしてくれるのかい?」


 俺はゲームに参加している間は、店長に『用事があるからバイトはできない』と連絡れんらくしていた。俺は店長と話そうとして、切り出した。

「えーと、そのことなんですが。ちょっとお話をしたいんですが今、いいですか?」


 すると店長はいつもの優しい笑顔を見せて、店のおくに入った。もちろん俺も、店長の後に続いて奥に入った。そして俺は取りあえず、頭を下げた。

「用事があるとはいえ一カ月もバイトを休んでしまい、すみませんでした!」


 すると店長は、両手を前でった。

「いやいや、いいよ。用事があるんだったら、仕方ないよ。で、これからバイトを続けてくれるのかい?」


「そのことなんですが……」と俺は、切り出した。俺は用事は終わったが、これからやりたいことがあるので、バイトはめたいとげた。すると店長は、ため息をついた。

「そうか……。仕方しかたないね。辞めたいっていうんなら、止めることはできないよ。で、これからやりたいことって何?」


 俺は、答えられなかった。答えたら店長に、止められると思ったからだ。だから俺は再び、頭を下げた。

「すみません! それは答えられません!」


 しばらく頭を下げた後、俺は頭を上げた。すると店長は、俺の目をのぞんだ。

「ふーん、そうか。でも別に、悪いことをしようとしているわけでもなさそうだね」

「はい、もちろんです!」


 それを確認した店長は、店内の事務室に入った。そしてしばらくすると、封筒ふうとうを持ってきて俺に差し出した。疑問に思った俺は、聞いた。

「あの、これって何ですか?」


 すると店長は、やはり笑顔で答えた。

「十万円、入ってる。受け取ってくれるかな?」


 俺はもちろん、断った。

「じゅ、十万円?! ダメですよ、そんなの受け取れないですよ!」


 だが店長は、微笑ほほえんだ。

「北村君、君が何をするつもりか分からないが、やはりお金は必要だと思う。それに君は大学一年生の時から四年間、がんばってここでバイトをしてくれたから、これは退職金たいしょくきんだと思ってくれないかい?」


 それでも俺は、十万円は受け取れないと思った。だが、思い出した。今の俺には、貯金ちょきんがほとんど無いことを。デスゲームに参加して、一カ月もバイトをしていなかったからだ。


 財布さいふに入っている現金も、千円くらいしかない。それに俺がこれからやろうとしていることにも、やはり金がかかる……。そう考えた俺は、ありがたく十万円を受け取ることにした。

「ありがとうございます! この十万円は、大切に使います!」


 そして俺は、自分のアパートに戻った。それから俺は、出かける用意をした。スポーツバックに衣類いるいんで、冷蔵庫れいぞうこの中からまだ食べられそうな食品も押し込んだ。


 俺はX国に攻め込まれたY国に行って、戦場せんじょうカメラマンのようなことをするつもりだ。破壊はかいされた家々、恐怖きょうふにさらされている人々、そしてできれば最前線さいぜんせんで戦っている兵士へいしたちもスマホで写真をりたいと思っている。そしてその写真を、ツイッターでツイートするつもりだ。


 そうして今、Y国で起こっていることを世界中に知らせるつもりだ。残念ながらそうしても、X国とY国の戦争は終わらないだろう。なぜなら今まですでに何人もの戦場カメラマンがY国の悲惨ひさん現状げんじょうを世界に知らせたが、戦争は終わっていないからだ。


 だが俺は、やらずにはいられなかった。たとえ戦争を終わらせることができなくても、やらずにはいられなかった。デスゲームが始まるきっかけになった、X国とY国の戦争をだまって見ていることは俺にはできなかった。


 デスゲームに参加して人が死ぬということが、いやというほど思い知った俺なら世界に影響えいきょうを与える写真を撮れるのではないかとも考えた。だがこの戦争の、一番の被害者の写真を撮ることはできない。なぜなら一番の被害者はすでに戦争によって、くなった人だからだ。


 そして、こんな言葉を聞いたことがある。『戦争は命だけでなく、まともな心もうばう。攻撃する側も、される側も』。戦争という殺し合いで人が死ぬのは、当然とうぜんだ。だが殺し合いなどは、まともな心ではできないという意味らしい。


 今、俺は十万円と少ししか持っていない。Y国に行くだけで金は、無くなるだろう。だがそれでも、俺は行く気だ。Y国に行ったら住民の手伝いなどをして、食べ物を分けてもらうつもりだ。


 そう決心して部屋を出ようとした時ふと、ノートパソコンが視界しかいに入った。彩華あやかさん、景和けいわ伊留美いるみ建太けんたと『スコーピオン』で特訓とっくんしたことを思い出した。あの時はもちろん、こんなことになるとは思わなかった……。


 みんな、俺はもう、お前たちみたいに理不尽りふじんに殺される人をいなくするつもりだ。そのために、Y国に行く。戦争をしている国に行くんだから、何があるか分からない。でも、それも覚悟かくごしている。だが皆、見守みまもっててくれ。そして俺は成田国際空港に行くために、部屋を出た。


                            完結


   ●


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【完結済】ライフがゼロになると、頭を撃ち抜かれます 久坂裕介 @cbrate

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