第94話 今度は群れのお出ましですか
ナナシーとマリーは警戒を怠らなかった。
周囲一帯に目を配りつつ、次が来ないか探り続けていました。
「おいおいナナシー。警戒しすぎじゃね?」
「警戒しないよりはマシだ」
ナナシーはbotに言われつつも警戒を怠らなかった。
それだけゴブリンのことを甘く見ていなかった。
「マリーが嫌悪したのもそうだろ?」
「うん」
「如何いうことだよ?」
botは首を捻った。コメントでもはてながたくさん浮かんだ。
それを受けてマリーが短く伝えた。
「ゴブリンは数の暴力。一匹ずつは弱いけど、さっきみたいに知恵を付けられると厄介」
「知恵って……おいおい、アレは野生の勘だろ?」
「それならお前よりも早いわけが無い」
ナナシーはマリーの味方をした。
するとbotは「おいおい、それじゃあ俺がモンスターみたいじゃねえか?」と口走った。行動力は確かにモンスター級だった。
「そんで、実際は如何なん?」
「マリー、もう少し説明頼む」
「うん。つまりはゴブリンの上位種がいる可能性がある」
「「マジか」」
botは本気で驚いていた。しかしナナシーは何となく理解していた。
大抵RPGではゴブリンの上位種が出て来るからだ。
コメントでも気が付いていた。
“ホブゴブ的な?”
“武器とかもっと強くなったりしてw”
“デカいのかな?”
“勝てるんですか?”
コメントが不安を煽った。だけどナナシーは気にしなかった。
勝てる勝てないではないからだ。
「強いのか?」
「それは相手をしないと分からないから」
マリーは淡々と口ずさんでいた。
その姿にナナシーは「なるほどな」と口走った。しかしbotやコメントを書き込んでくれる視聴者は「何だそれ?」と半信半疑だった。
「でもやって来たらやって来たで倒せばいい」
「おお、頼もしいなマリーさん」
botはマリーを茶化した。
コメントでも煽るわけではないが、マリーのことを褒めちぎった。
“流石マリーさんだ!”
“頭良い……いや考えすぎ? でも好こ”
“場数が違いませんか? もしかしてマリーさん、ダンジョンに潜ってます?”
“どちらにせよ倒すとかかっけえ!”(1,000円)
マリーは褒められていた。だけど基本的に無視していた。
特に興味が無いのか、あまりにドライでナナシーのようだった。
「何かナナシーみたいだな」
「そう?」
「ドライなナナシーとあっさりなマリーとか、めっちゃ似てないか?」
「そうか?」
「そうだろ」
何故か高圧的な感じでまとめられてしまった。
ナナシーとマリーは互いに顔を見合わせたものの、「はぁ?」と首を捻っていた。
「それよりカエデは……何やっているんだ?」
「アルミラージの観察じゃね? ほら、あんなに近づいてるぞ?」
振り返って見てみると、カエデはアルミラージを観察していた。
ゆっくり近づくと、「おいでーおいでー」と語りかけていた。
“乙女ですね”
“カエデさんとアルミラージは合う”
“どっちも可愛いですよ”
コメントも流れた。だけどカエデの目に入ることはなかった。
ひたすらにアルミラージに声を掛け、コミュニケーションを取ろうと頑張っていた。
「こっちだよ。こっちこっち。怖くないよー」
「プギュ?」
アルミラージはカエデのことをジッと見ていた。
カエデもカエデも根気強く触れ合おうとしていた。
「カエデ諦めろ」
「如何してナナシー君?」
「相手はモンスターだ。一度警戒されたら無理だ」
「そんなことないよ。動物だってそうでしょ? 仲良くなりたい気持ちがあれば時間を掛ければ想いは通じ合うんだよ?」
「その理屈がモンスターにも通じる保証は無いだろ。とは言え否定はしない。それは駄目だからな」
ナナシーは否定まではしなかった。
だからカエデは諦めずに手を差し伸べ続けた。
「私は敵じゃないよー」
「プギュ?」
アルミラージは全くと言っていいほど動かなかった。
一点をただ見つめ続け、じーっと座っていた。
「うーん。もしかして私嫌われてるのかな? 何かしちゃったのかな?」
腕組をしてカエデは考えた。けれどここで落ち込んだりはしなかった。
むしろ俄然やる気を出していた。大したものだと、ナナシーは感心した。
「可愛いなー。やっぱり可愛いモンスターっていいよね」
「確かにな」
カエデはアルミラージを諦めずに待った。
するとアルミラージの耳がピクピクと動いていた。
もしかしたらまたしてもゴブリンが近づいているのではと、ナナシーは一瞬にして意識を切り替えた。
「マリー?」
「ううん。別に感じないけど」
如何やら違うようだ。では一体何かと思ったら、カエデが小さな声でメロディーを口ずさんでいた。
アルミラージにとって心地の良いメロディーだったためか、安心した様子でゆっくり近づいてきた。
「♪ふふふーん。ふんふふーん。ふふふーん、ふふ♪」
カエデは楽しそうだった。アルミラージはそんなカエデに近づくと、目の前に座り込んだ。
アルミラージは大人しくしていて、カエデは優しく背中を撫でていた。
アルミラージは気持ちよさそうにしていて、ゆっくり頭を地面に付けた。
「ふふっ。見てよみんな。こんなに可愛いんだよ。おまけに角もしっかりしてるよ」
「大人しいな。何をしたんだ?」
「まるでトリックがあるみたいに言わないでよ。でも答えは単純だよ。私の能力を使って、アルミラージの好きな音を奏でたんだ。えへへ、凄いでしょ」
凄いというか、恐ろしかった。
ナナシーは度肝を抜かされ、言葉を失った。
「大したもんだな。もしかしてその能力を応用すれば全てのモンスターと会話できんじゃね?」
「そう甘くないよ。言葉が通じない相手も居るでしょ?」
「ま、まあそうだけどよ……すげえな」
botは感心していた。カエデは笑みを浮かべてアルミラージの頭を撫でていた。
そんな時だった。一瞬のほんわかムードが解け出した。
アルミラージの耳がピクピクと動いていたからだ。
「キュピィィィィィィィィィィィィィィィ!」
けたたましい悲鳴をアルミラージが上げた。
突然のことで驚いたカエデは耳を塞ぎ、botは「何だ何だ!?」と慌てふためいた。
「マリー、これは……」
「ちょっと待って……一、二、三、四、五……それから大きい熱源を感知した」
マリーの目は熱源を感知していた。
しかしアルミラージの発狂と共に掻き消されかけたが、ナナシーも微かな音を聞いていた。
幾重にも重なった不協和音が草木をかき分けて、ナナシー達へと迫っていた。
如何やら今度は群れでお出ましのようで、ナナシー達は自然と警戒を強めていた。
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