第77話 この先強い敵が出てくる伏線

 名梨とヴラドは互いにダウンしていた。

 とりあえず力感覚としては、互角程度だった。


「ヴラドは満足したのか?」

「うん。満足」


 ヴラドは笑みを零していた。

 名梨は無表情だったが、ヴラドの笑みを見ることができて満足だった。


「とは言え、これで何が見えたんだ?」

「名梨なら分かるはず」

「まあな」


 ヴラドはたくさんの技を見せてくれた。

 いつもはナイフを見せてくれるが、今日は盾や剣を出してくれた。


 変幻自在に変化する血液。

 まさしく吸血鬼のためにあるような魔法で、しかも意思を拡張してドローンのように遠隔で操ることができるのは意外だった。


「それだけの精密性があれば、わざわざ行かなくても倒せるんじゃないのか?」

「そう甘くない」

「やっぱりか」

「うん。私の血液は私から直径でも、最大五メートル程度が限界」


 ヴラドは能力の詳細を少し教えてくれた。

 ヴラドは血液を遠隔で操ることも可能だが、それでも数秒で意識を離れてしまうそうだ。


 つまり多様性は高いものの、制限時間が極端に短かった。

 あまりに残念で、ヴラド自身が気にしていた。


 とは言え名梨は凄いと思った。

 だからこそ、ヴラドが気を落とさないようにした。


「気にするな。ヴラドは十分やっている」

「そう?」

「当たり前だ。ヴラドのおかげで今まで頑張れたんだ。そう自信を無くすな」

「うん」


 ヴラドは笑みを浮かべた。

 いつもよりも愛らしい笑みで、名梨は気持ちが軽くなった。


「他には何が作れるんだ?」

「他?」


 ヴラドは血液を軽く流した。

 すると血液の形が様々に変化した。


 例えば巨大なハンマーになった。当たったら痛そうだ。

 次は弓に変化した。矢はなかったが、弦の部分まで再現されていた。

 おまけに槍も出してくれた。あの部分が凄まじく長く、ツルツルの素材になっていた。


「凄いな。こんなこともできるのか?」

「うん。他にも血液で再現できるものなら大抵上手くいく。でも、輸血は駄目」

「駄目なのか?」

「私の方が死ぬ」


 とても分かりやすい理由だった。

 吸血鬼にとって血液は全てだ。

 故に人に輸血できない体質だった。


「それはそうと、聞いても良いか?」

「何?」


 もう一つ気になっていたことが名梨にはあった。

 突然のことだったから一旦置いてはおいたが、流石に今日が珍しかった。

 普段から家にいる名梨とヴラドがこうして二人で外に、しかもダンジョンのためのトレーニングを積むことになるとは、本人ですら想像もしていなかった。


「如何して今日、こんなトレーニングを積む必要があったんだ?」

「単純な理由」

「単純?」

この先勝てなくなる・・・・・・・・・可能性が高いから・・・・・・・・


 珍しく弱気な発言だった。

 しかしグリーンドラゴンが第二階層に現れたこともあってか、この先が侮れなくなった。


「霊龍の泉域はドラゴンの巣窟。しかも全部で十階層。相当なことがなければ、困難は避けられない」

「そうだな。万が一の時がある」

「実際危うかった」

 

 ヴラドは熱志の無茶な性格と行動力があまり好きではなかった。

 だからこそ、自分達の身は自分で守る必要があった。


「いくら死なないとは言え、痛みを伴う」

「現状、大怪我はしていないな」

「でもこの先は必ず出てくる。ダンジョンにはランクがあるから、侮っちゃ駄目。有名どころかもしれないけど、あのダンジョンは相当危険」

「ランクも高いわけだな」

「そう」


 名梨もヴラドと同意見だった。

 危険が常に付き纏うダンジョンで、生半可な覚悟は足手纏いになり、自分の足枷にしかならなかった。

 そんな状況では命がいくらあっても足りないのだ。


「だがヴラドの能力は汎用性に優れているだろ」

「だからこそ」

「なるほどな」


 名梨は一言で理解した。

 ヴラドの能力は汎用性に優れているため、常にアップデートすることは必須だった。


「自分の能力もまとも理解できない相手は、自分の能力に溺れて死ぬだけ」

「それがヴラドの知る世界なんだな」

「そう」


 なかなかに濃密な話だった。

 言葉の一つ一つは短くても、二人の間には壮絶な思考が空中戦を繰り広げていた。


「そうとなったら俺もやるか」

「名梨も?」

「ああ。痛みを耐える修行? だ」


 そういう時名梨は探検を取り出した。

 外では引っ込むおもちゃで、こっちでは本物になった。刃渡は短く、人を死に至らしめることは相当数不可能だった。


 だけどそれでよかった。

 小さいからこそ小回りが利き、片手でも万能に使えた。


「こうするんだ」


 名梨は自分の手の甲に刃先を突き立てた。

 すると頭が微かに遅い、ノイズが走った。


「とりあえずはこれくらいか」

「何があったの?」


 名梨は時間を吹き飛ばした。

 少し成長したので、物に干渉できた。

 気が付けばヴラドは困惑していた。

 サラサラの白い髪が、何故かツインテールにされていた。


「ツインテールが好きなの?」

「いいや」

「それじゃあ如何して?」

「たまたま髪留め用のゴムを二つ持っていたからな。邪魔だから付けた」


 前に実家に帰った際に押し付けられたやつだった。

 今思い出したので、ヴラドにあげた。

 遠回しのプレゼントを受け取ったヴラドは顔を赤らめていた。


「嬉しい」

「そうか」


 ヴラドは喜んでいたが、名梨はドライだった。

 とりあえず似合ってはいた。

 それだけで満足だった。

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