第40話 久々の実家です。
新幹線に乗り、名梨は久々の休日を利用して実家に帰ることにした。
都合よく席が取れたので名梨は席に腰を据え、肘を付いていた。
「変なものか。
今から十年前、突然ダンジョンが隆起した。
しかしダンジョンは今でも世界の歪みを起こして、その度に発生していた。
名梨が少し調べただけでも、一年で数箇所から数十箇所ほど、幅広い範囲とペースでダンジョンは隆起していた。
発生原因なども特に分かっていなかった。
名梨はとてもじゃないがうんざりしていた。
こんなよく分からないものだけでも大概なのに、その前後にこの国を自然災害が襲っていのだ。
「まあ、自然災害が発生原因の可能性も無くはないな」
不穏なことを名梨は考えた。
しかし終わったことを後悔しても仕方ないので、変わりゆく景色を見ながら、名梨は新幹線に緩やかに揺られていた。
※
名梨の実家は東海地方の内陸部にある。
とは言え海からもの凄く離れている訳ではなかった。
せいぜい海が見えない程度の陸地に実家があるだけだった。
「この辺りも何も変わらないな」
そもそもそう簡単に変わられてしまったら迷惑だ。
名梨は自分の言った言葉にツッコミを入れた。
名梨は駅から出ると、その足で実家に向かった。
駅周辺は栄えていたが、名梨の家は駅周辺ではないので二十分ほど歩かなければならなかった。
別に嫌いではなかった。
商店街の街並みを見回し、ふと視線を向ければそれなりに傾斜のある坂があった。
隣には生垣もあった。
和を思わせる屋敷が続き、この先に名梨の家はあった。
「まだ半年も経っていないのに懐かしく感じるな」
田舎から都会に初めて出たのなら興奮があるはずだ。
逆に都会から田舎に来ると何もないと思う反面、何もないことを楽しむはずだ。
しかし名梨にそんな面持ちは無かった。
ドライな性格は相変わらずだが、景色を見て懐かしむ感情はあった。
ただしそれ以上でもそれ以下でもなかった。
何故なら定期的に都会と田舎を行き来していた生活を送っていたので、違いがあやふやになっていた。
「まあ、この辺りは昔から綺麗だな」
坂の途中で振り返ってみると絶景だった。
ダンジョンの影響をほとんど受けなかった地域限定だが、コンクリートジャングルの残る東京とは比べ物にならないほど空気が澄んでいた。
田舎町だがそれなりに発展していた。
とは言え昔ながらの田園風景を残し、木製の橋もあり、綺麗な皮には鮎が生息したりしていた。
名梨はこの町が嫌いではなかった。
それなりに便利でそれなりに過ごしやすい。
有名な軽井沢ではないが、避暑地には持って来いの場所だった。
「さて、そんなことはさておき帰るか」
名梨はすぐに我に帰った。
ドライな表情を浮かべ直し、実家への帰路を急いだ。
多分菜迺が
「まあ、流石に胡座はかいてないだろうけど……」
「誰が胡座をかいてるってる?」
不意に声を掛けられた。
名梨の表情が強張り、足が止まった。
隣には少女が居て、頭の上腕を組んでいた。
「菜迺か?」
「そうよ。何? もしかして、たった数ヶ月で従姉妹の顔を忘れたの」
「いいや」
不敵な表情を浮かべていた。
そのニヤけ顔が名梨を上から目線で見ていた。
実際背丈としては菜迺は名梨と同じくらい高かった。
むしろそれ以上背丈があった。
恵まれた身長の高さに苦労することはあるが、女性からしてみれば羨ましいと思うモデル体型をしていた。胸は小さかったが、そんなもの大差なかった。
「何だ。俺に挑発か?」
「挑発なんてしないでしょ? 待っててあげたのよ」
「待ってた? 何故」
「何故って、間接的に呼びつけたのは私でしょ? 待ってないと駄目よね」
「そう言うものか」
「本当ドライね。そう言うものよ」
名梨にはあまり理解できなかった。
とは言え菜迺が言っていることは明白で、正しいことではあった。
実際に会ってみると分かるが名梨とはまるで性格が異なっていた。
これが如何して同じ血縁なのかと疑いたくなる程で、昔から犬猿と言うわけではないが、何か相入れないものもあった。
とは言え関係は悪くない。
むしろ良好な関係を気付けてはいた。
定期的に実家に帰っている菜迺やその家族に実家を任せられるぐらいには、信頼をしていた。
「大学は?」
「何? 私の話聞きたいの」
「いいや」
「じゃあ何で聞いたのよ」
「……コミュニケーション的な?」
「硬い。硬すぎるわよ!」
とは言え名梨は例えとして付き合い方は熱志と同じだった。
だからだろうか、凄く面倒で凄くやりやすかった。
「はぁー。そんなことより、実家に行くんでしょ?」
「もちろん」
「じゃあ私も付いて行くわ。流石に暇なのよ」
「好きにすればいい」
「そう。好きにするわね」
菜迺は名梨の隣を歩いた。
それから坂道を越え、田園風景を眺めたり川の上に掛かった橋を渡ると、生垣が見えてきた。
白壁の中、そこに大きな和の屋敷があった。
誰も澄んでいないので寂しかったが、名梨は特に思い入れもなかった。
「着いたな」
「そうね」
それこそが名梨の実家だった。
今は誰も住んでいない、明るさの感じられない大きいだけの屋敷であった。
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