第92話 やっと見つけたアルミラージ
ナナシー達は森の中をひたすら歩いていた。
と言うよりも周りが木々しかないため、完全に森の中に閉じ込められていた。
歩く道順は抉れた跡を追う形だった。
深さ三十センチ、横幅一メートルはある謎の抉れを線路のように見立てて歩いていた。
有名な小説のような展開だった。
「凄いね、こんな抉れたところの中にもミミズが生きているよ!」
「本当だな。ってか、この抉れよくよく見れば不自然だよな」
「確かにな」
「如何いうこと?」
カエデは首を捻った。それもそのはず良く周りを観察しなければ見えてこなかった。
しかしカエデも辺り一帯を見回してみると、確かに不自然さに気が付いた。
この抉れは溝のようだけど、曲がりくねっていた。しかも木々達を極力傷付けないように配慮されていた。
「本当だ! この地面の抉れ、全部木達から三十センチは離れているよ!」
「これだけの木々が群生しているのにな!」
「そうだな」
ナナシーは淡白な返しをした。
そんな中、マリーは木の表面にそっと手を触れた。
体温でも測るみたいにゆっくりと意識を集中させた。
「良い香り……それに飛び散った土の息吹を感じる」
「凄いねマリーちゃん、そんなことまで判るの!」
「うん」
マリーはダンジョンに詳しかった。
やはりこの世界の人間ではないからだろうとナナシーは思ったが、それと同時に気掛かりは余計に募った。この抉れを付けた相手は、間違いなくこの第三階層でも類を見ない強敵だと予測できたからだ。
「マリー……いや、流石に無理か」
「うん。モンスターの特定は無理」
マリーはナナシーの言おうとしていたことを瞬時に理解し、先に目で合図を送っていた。
その目からは口で言うよりも早く「無理」が強烈に突き付けられた。
そう甘いこともなかった。
「でも、小さい熱源は感知した」
「嘘っ!? マジかよ。バケモンじゃん」
「それは言いすぎだよ、bot君」
確かに褒め方にも限度はあった。
ナナシーも同じことを思い、botに冷たい視線を送った。
完全に立場が危うくなったので、「ごめん」と盛大に謝った。
「それで小さい熱源の正体は何だと思う?」
「多分目当てのもの」
「分かるのか! すっげえな」
「見たことあるから」
マリーはそう口走った。
それから振り返ると、ピシッと指を指した。
「多分あっち」
「ま、マジかよ。規格過ぎんだけど……」
botはあんぐりと口を開けていた。
コメントでも“本当な凄いけどな”と口走った。
「とりあえず行ってみたら分かるよね? それじゃあ行ってみようよ」
カエデが上手く話しを回した。
ナナシーも「そうだな」と短く呟くと、マリーを信じてアルミラージを捜しに向かった。
すると瞬く間に結果が出てくれた。
「あっ、居た」
「何処に居るの? 全然見えないよ」
「普通の人間には無理。だけど良く目を凝らせば見えるはず……ほら、あの花が咲いている辺りに居る」
マリーが指を指した先には花が咲いていた。
若葉色の短い草が生え広がり、その真ん中に白い塊がポツンとあぶれる形で眠っていた。
「もしかしてあの白い塊のことか?」
「そう。アレがアルミラージ」
初見だと白い毛玉にしか見えなかった。
だけど微かに動いているように見えるので、「ああ、確かに?」とナナシーは呟いていた。
「アレがアルミラージなのか?」
「うん」
「でもさ、角っぽいの見えねえけど?」
「この角度からじゃ見えないんじゃないかな? ちょっと反対側に回ってみようよ」
カエデの言う通り、決めつけるのは良くなかった。
ナナシー達はアルミラージの警戒されて起きないように、慎重に音を消して回り込んだ。
木の幹の裏から顔だけをトーテムポールの様に覗かせると、確かにアルミラージの特有の金色の角が真っ先に視界に飛び込んだ。
「本当に角が生えているよ、あの兎」
「本物のアルミラージだな」
「ゲームの中でしか見た事ねえけど、マジもん見るとすげえな」
ナナシーも「確かに」と同感だった。
RPGでしかアルミラージを見たことがなかったが、寝ている姿を見ると、普通の兎とは異なる節があった。
「綺麗な毛並みだね。しかも金色の角がカッコいいよ」
「アレが高値で取引されてる」
「そう言うこと言わない方が良いよ、マリーちゃん」
「ん?」
マリーは自分で言っていることに理解していなかった。
しかしながらアルミラージは良く眠っていた。
襲うにも襲えないのが、人間の性と言うやつだった。
“本当に可愛いですね”
“あの角が鹿みたいに落ちるのか……”
“それにしてもよく寝てんなーw”
“カエデさんやマリーちゃんの方が可愛いですよ!”(2,000円)
「ありがとう。良かったね、マリーちゃん」
「褒められたの?」
投げ銭付のコメントを貰ってカエデはマリーと喜びを共有しようとした。
しかしマリーは自分に興味がさなすぎてイマイチピンと来ていなかった。
それから視線をアルミラージへと再び向けると、いつまで経っても起きないのでついつい口走っていた。
「いつ起きるのかな?」
「流石に起きないだろ」
botは見立てを付けていた。
しかしその憶測は一瞬で崩壊した。
すると急にアルミラージが起き上がった。
何故だろうか、先程までゆっくり寝ているはずなのに、急に緊張感が走った。
「ど、如何したんだろう?」
「さあな……だが警戒はした方が良い」
ナナシーはカエデの不安になぞって、周囲へと警戒意識を強めた。
すると何処からか草を踏みしめる鈍い音が聞こえたような気がした。
あくまでも気のせいかもしれないが、次の瞬間急にアルミラージに異変が起こった。
「プキュプキュ!」
アルミラージが鳴いた。耳がピクピクと動いていた。
明らかに様子がおかしく、アルミラージの視線がナナシー達に向いていた。
「ちょっと待ってて。何でこっち向いてんだよ?」
「明らかにマズいな……」
ナナシーは嫌な予感に包まれた。
すると急にアルミラージが「キィーッキィーッ!」と叫び出した。
「な、何だよ急に!?」
「これは……はっ!」
全身に悪寒が走った。ピクピクと血流の流れが促進され、背後を振り返ろうとした。
けれどそれはできなかった。
視線の先に突然映り込んだのは、絶対にありえない物だった。
それは人工的に作られた、ゴツゴツした見た目の棍棒だった。
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