SS3章 botの本領発揮ってなに?

第78話 熱志の一人配信はあんまりな件

「嘘だろ」


 botこと、宮本熱志はスマホを見ながら固まった。

 瞳に映っていたのは、自分の個人チャンネルの登録者の推移と視聴率の推移だった。


「な、何で止まってんの?」


 熱志は高速瞬きを繰り返していた。

 最近になって登録者が九万人に到達したのだが、それ以降の推移が止まり、むしろ下降気味になっていた。


「ど、如何なってんだよ?」


 流石に理解できなかった。

 こんなに頑張っているのに、全然伸びないことにげんなりしていた。


 もちろんそんなことザラだった。

 熱志だって気にしたくて気にしているわけでなく、張り合いになる相手、つまりは名梨のチャンネル登録者が二十万人を余裕で超えたことによって焦りを感じていた。


「待ってくれよ。名梨なんて、ほとんど動画投稿も配信もしてないのに何でだよ……」


 毎週決まった日にしか投稿していなかった。

 しかもゲームという共通項はあるものの、ジャンルはまちまちで、リスナーのことを何にも考えていない。


 面白いも面白ないも関係ない。

 とにかく自分が好きなようにやっていた。


 それと比べて熱志はスポーツ企画を連チャンで投稿していた。

 編集もほとんど名梨に頼んでいるのでクオリティは高い。けれど熱志の登録者はあまり推移を見せない。何故なのか、コメントをチラチラ確認する。



“いや、凄いんだけどさ”


“面白いっていうか、異次元(笑)”


“レベル違うんですどぉー”


“凄いとしか形容し難いですね”


“ちょい違う。何がではなく、何か違う?”


“面白いを通り越してるwww”


“頑張れも言えないからなー。全部簡単そうにしちゃうもん”



 などなどたくさんだった。

 要するに人間離れしている超難易度なスポーツ企画ばかりをこなしていた。


 言ってしまえば誰にもできない。

 だからこそ共感性がもらえない。

 この多様性の時代さらに輪を掛けたような多様性は流石に人智を越え過ぎていた。


「なるほど。んじゃ如何してこっちは伸びてんの?」


 熱志には分からないことがあった。

 何故かスポーツ企画は伸びてないのに、筋トレ配信だけは爆発的に伸びていた。

 配信アーカイブは全部残しているけれど、何と登録者な推移に関与していたのは、筋トレ配信だった。



“良い筋肉してますねぇ〜”


“うおっ、体をいじめてんな”


“何その腹筋!”


“全身が薄い鎧の膜で覆われてる?”


“高校生にしては体力あると思ってたけど、まさかこんなことに……”


“体温が高い理由と汗がたくさん出る理由……流石の能力だな、おい! マジで惚れ惚れするぜ!”



「マジで意味が分からねぇ」


 悔しいとかじゃなく、意味が分からなくなる。

 どっちも同じようなものだと思い、熱志は真剣に動画や配信に取り組んでいた。

 だけどこんなことで伸びて、こっちは伸びない。頭を回してしまう。


「難いぜ、この世界は」


 熱志は腕を組んでしまう。

 一旦今日の配信は無しにして、ちょっと良いアイデアがないか如何か、足らない頭の引き出しを片っ端から開ける。


 ドコドン! ドコドン!


 頭の中でドラムの大合唱。

 和太鼓のような音を奏でるアイデアボックスから引っ張り出した答え。それはもう決まっていた。


「仕方ない。俺一人でダンジョンに行ってみるしかねぇな!」


 正直人気はそこまでない。

 だけどそれは名梨や楓、ヴラドの三人のキャラが立っているから。熱志は自分自身がモブキャラだと断言する……訳ではない。俺も主人公になれると、常に張り切る。


「迷ってたって始まんねぇからね。俺は俺らしく突っ走るっきゃねぇ!」


 バカみたいだと煽れば良い。

 熱志は全くで何にも気にしたりしない。


「んじゃ如何に行くか調べっかな」


 熱志は慣れないパソコンを操作する。

 今時こんなキャラが果たして受け入れらるのかと若干引き気味で熱志は思うものの、マウスをスクロールして適当なダンジョンを総洗い。


「えーっと、できるだけ近い所が良いんだけどな。えーっと、おっ!」


 熱志はピンと来た。頭に電流が走り、「これだ!」と脳が直結する。

 神経がピリリと走り、指先の汗が炎に変貌するイメージだ。


「ここしかねえ。このモンスターと戦ってみてぇ!」


 まだ誰も配信で倒していないモンスター。

 市役所でもお尋ね者リストに登録されている凶悪モンスターで、その詳細は未だ不明。燃えてくる超ヤバ展開に、熱志の心はボルテージを上げて燃え上がる。


「えーっと、何々。このダンジョンに入るには事前に許可がいるのか。ふむふむ、んじゃ明後日だな。明日には電話で許可を取って、そのまま電車でゴーってとこか。了解」


 熱志はベッドの上にダイブ。

 興奮が収まりきらない全身を奮い立たさて無理やり押さえ込むと、目をギュッと瞑る。


 電気を消し、目を瞑った先に見える暗闇。

 全然怖くない。むしろすぐに遠くなる。


「楽しみで仕方ねぇぜ!」


 そのまま瞬時に意識が消えた。

 「ガァーガァー」と寝息を立てると、熱志はあっという間に眠ってしまう。


 それから朝まで起きることはない。

 全身の筋肉達が常時筋肉痛の体を心地よく思いながら、今日もゆっくり休むのだった。

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