第99話 死を悟った瞬間

「はぁはぁはぁはぁ……何とか助かったな」

「……そうだな」


 熱志の言葉を受け、名梨も相槌を入れた。

 流石に逃げ切れなかったら精神障害は免れなかった。

 あんな化け物に襲われたとなれば、きっと相当の苦を背負うことになっていたはずだ。


「にしても何なんだよ、アレ!」

「分からないけど、多分第三階層のボス」

「アレが……マジでか」


 熱志は苦笑いを浮かべた。

 その見た目について楓が言及した。


「蛇みたいだったよね。怖かったぁ」


 確かに蛇のような姿をしていた。

 それにしてはあまりにも巨大で、この間の土壌の王に比べれば若干サイズダウンするが、獰猛性は規格外のものだった。


「仮に蛇龍だとして、あんなのが居たとなるとな」

「だが謎は解けたぞ」

「謎? ああ、地面の抉れな。アレは、あのモンスターが張って跡だった訳だ。ってちょい待ち!」


 熱志は目を見開いた。

 名梨も同じのことを思っていたが、こんな時だけ気が合っても仕方なかった。


「じゃあよ、あのモンスターの活動域って第三階層全部ってことか!」

「そうなるな。つまりあの階層を攻略にするためには、あのモンスターを倒すしかない」

「き、厳しいねぇ」


 熱志は汗を掻いていた。それだけの苦行が待っていた。

 とは言え名梨達が今後あの階層に到達し、攻略を進めたとしてもだ、どのみち鉢合う可能性は高い上に、障害になることは明白だった。


「けどよ、如何やって倒すんだ?」

「さあな」

「さあなって……んやもん、やっぱパワー系か?」

「お前が抑えて如何にかなるのか?」

「……無理でーす!」


 熱志は大見栄を切った。だけど何も頼りにならなかった。

 名梨は苦言を呈したが、誰にも反論の隙はなかった。


「にしてもよ、大丈夫か?」

「何がだ?」

「足だよ。半分持ってかれたろ?」


 熱志は名梨の足を見て口走った。

 すると名梨は「ああ」と短く答えた。


「やっぱな」

「だから如何した?」

「如何したじゃないだろ。なぁ、みんな!」


 熱志は同意を求めた。

 楓もヴラドも真剣そのもので、目を見開いて名梨に抗議を入れた。


「そうだよ名梨君! 本当に大丈夫なの?」

「問題はない。実際足はあるからな」

「良かったぁー。あの時、その、私、本気で動揺して……」

「そうだな」


 楓は確かに体が動かなくなっていた。

 口を開けたまま悲痛な顔をしていた。

 青ざめたまま全身が痙攣していたので、何もできなくて仕方なかった。


「あの時私達がもっと早く逃げてたら……」

「言っても仕方ないことだ。それに、そのおかげで能力が発動した」


 自分から自傷しなくて済んだ。

 今までにないくらいの痛みが全身を苦しめたのだが、痛みというのは一瞬だった。


(とは言え死にかけたな……あれが死の感覚か)


 今までは半信半疑だった。

 だけど実際に体感すると違って見えた。


 名梨は言葉を失った。

 それどころかダンジョンに対して微かに恐怖心を抱いた。もちろん微かにで、名梨のドライな性格が由来だった。


「何だよ名梨、怖気付いたのか?」

「まあな」

「んだよ。らしくねぇぞ!」


 熱志は名梨のことを煽った。

 すると楓とヴラドが熱志を威圧した。


「そんなこと言っちゃ駄目だよ、熱志君。本当に怖いんだから」

「そう。名梨が居なかったら間に合わなかった」


 ヴラドが言うのは名梨の能力だ。

 名梨のおかげで時間が吹き飛んだ。

 それによってあの蛇龍から逃げ切ることができたのだ。


「ポータルのことか。気にするな」

「気にする」


 ヴラドは真剣な目をしていた。

 名梨は「はぁ」と溜息を吐いた。

 それからそっと近付き頭に手を置いた。


「気にするな」

「……」


 ヴラドは無言だった。ただ頭を置かれるマシーンになっていた。

 楓が何故かプクッと頬を膨らませていた。

 意味が分からなかったが、名梨とヴラドは首を捻っていた。淡白でドライだった。


「んでよ、次は如何すんだ?」

「次とは?」

「何って、あのまんまじゃ終われねぇだろ」


 それは熱志の言い分だった。

 とは言えあのまま放置は流石にできないと思ったが、名梨達が対処する程ではない。


「知らない」

「そう」


 名梨とヴラドはとにかく冷たかった。

 淡白な返しに落胆した熱志だったが、「おいおい」としか言えなかった。


「あんなもんが第三階層を闊歩してんだったらよ、永久に進まねぇぞ?」

「それはそうだけど……難しいよ」


 霊龍の泉域の目の前でそれを言わないでほしかった。

 もの凄く虚しい気持ちに精神が駆られた。


 とは言え行こうとはしなかった。

 流石にそこまでの勇気は今は湧かないのだ。


 もっと深いところを突けば、行っても勝てなかった。

 武器も効かないような相手だと直感した。


「とにかく今日は帰るぞ。これで解散だ」

「そうだね。配信もだいぶ前に終わってるもんね」


 一度切り替えることにした。

 こんなところでウダウダ言っても仕方ないと気が付いたのだ。


 名梨は待っていかれた裾を睨んだ。

 無駄毛が処理された綺麗な足が露わになり、その後ろをヴラドが続いた。


 楓も隣に付いてくれた。

 完全に取り残されたのは熱志だけだった。


「ちょ、ちょいちょい待ってくれよ!」


 熱志も踵を返して走ってきた。

 名残惜しそうにダンジョンの方を見ていたが、流石に理解したようで安心した。


 とにかく今回は完全敗北だった。

 果たしてこれで配信としては良かったのかと、熱志は一人妄想を膨らませていた。


 残りの三人は興味なさそうだった。

 命あっての配信だからだ。




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 ここまでは前編です。

 後編はまだ書いていません。(そのうち書きます)

 多分投稿は11月くらいになります。それまではSSを投稿していくかと思います。



 他にもこう言う作品を投稿したいと思うので、是非読んでいただければ幸いです。



 タイトル:【悲報】私有地のダンジョンで撮影してたら間違って配信してました〜回避力特化スキルなのに何故かバズってしまった配信者


https://kakuyomu.jp/works/16817330658277838269


 コンセプトはいつもの配信者ストーリーとは少し違っていて、基本は明るい日常もの。だけどダンジョンは気を抜くと怖いとかはなんだよって感じです。


 あまりこのジャンルでは見かけませんが、女の子が主人公です。


 普段は内気な性格なんだけど、友達のために前に出られる子で、特殊な能力を活用しながら、ダンジョン配信者として頑張りながら、登録者を増やしていきます。



 明日には、コレクション(シリーズ)の部分から読めます。


 8月1日(多分16時20分過ぎに初回。それ以降は18時までには投稿予定です)から、9月の終わりまで毎日投稿します。


 それ以降は週に1〜2本投稿したいな。

 正直かなり書きたいと思った作品なので、読んでくれると嬉しいです。


 本作、次回作、及びコレクション投稿作品にも★やハート、レビューなどで応援してくれると嬉しいです。

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配信中は無言で顔出しNGのゲーム配信者はダンジョンで顔バレしました。おかげで登録者が爆増したのだが喜ぶべきだろうか? 水定ゆう @mizusadayou

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