第7話 ダンジョン調査課
熱志に連れられて名梨は仕方なく市役所にやって来た。
今更だけど何故市役所? と名梨は思ってしまう。
聞いてみても良いのか。それとも聞いても何も分からないのではないか。
名梨の中で様々な思考がグルグルと回り、気持ち悪くなる前に捨ててしまった。
「まあいいか、今更だ」
考えても今更なことは忘れてしまった方が良い。
名梨のドライな性格が活きる場面だった。
「何かさ、市役所って入り難くね?」
「高校生は普通行かないからな。俺は行くけど」
「マジで? あっそっか。お前は一人暮らしだったな」
「何か文句でもあるのか?」
「無いでーす」
熱志は名梨に睨まれたので話に乗らないことにした。
巻き込んだ責任のある熱志は名梨に何を言われても仕方のない立場だからだ。
そのため極力話を振らないし振られないように心がけていた。
名梨も熱志の魂胆には気が付いていて、これ以上何か言うのは可哀そうだと思ってしまう。
人付き合いは熱志の方が得意だが、読み合いでは常に名梨の方が一枚上手だった。
「いつまで市役所前に居るつもりだ?」
「そ、そうだな。うわぁ、緊張して来たぁ! 楽しぃ!」
「馬鹿か」
熱志は緊張しているのに楽しそうだった。
いつにもなく生き生きしているので、気味が悪かった。
名梨は少しだけ距離と取り、熱志に近寄らないようにする。
「ちょいちょいちょーい! 何で五メートルくらい離れてんの?」
「お前と同類扱いされたくないからだ」
「おいおい、親友にそんなこと言うんじゃねえよ。流石に傷付くぜ」
「お前が? 何言ってんだ」
「俺も何言ってんだろうな」
自分で否定したら意味がない。
名梨は熱志に溜息を吐きつつも、揃って市役所の中に入った。
あまり来て楽しいところではないので、すぐに目的の課の受付に向かった。
「市役所の中って意外に暗くないんだな。想像と違って何か新鮮だ」
「ご所望ならあっちに行って来い」
「あっち? ……うわぁ」
名梨は階段の方を指さし、熱志に階段の方へ視線誘導する。
薄暗く蛍光灯が白黒に点滅していた。
明らかに近づいてはいけない空気を感じ、熱志は意外にも喉を詰まらせる。
「ま、マジですか?」
「お前の求めていたものは向こうにある。何なら行って来い。俺は行かない」
「あっ、ごめんなさい。お願いです。見捨てないでください」
「……ウザいと俺は置いていくぞ」
別に否定しなかった。
名梨のドライな性格がまたしても
熱志は身震いして名梨の後に付いていき、ダンジョン課の受付を探した。
色々な課の名前が受付の上にボード状で吊るされていて分かりやすく、迷わずダンジョン課を見つけることができた。
隣にあったクリーン課の語呂合わせ感が気になる名梨だったが、先にダンジョン課で要件を済ませることにする。
「ほら着いたぞ」
「本当だな。それじゃあ早速……っておい。何で座ってんだよ名梨!」
名梨は椅子に座って待っていた。
熱志は名梨の腕を引っ張り立ち上がらせるが、「はっ?」と名梨は首を捻る。
「何だよ。約束通り付いて来てやったぞ」
「お前も受付するんだよ。ほら学生証出せって」
「おい、勝手なことするな!」
熱志は鞄から名梨の学生証を取り出す。
流石にこれは許せないと思い、名梨は噛みついた。
もちろん物理的にではなく言葉で噛み付いたのだがすぐに止めた。
周りには他にも市役所を使う人達がいて、騒がしさのあまり視線を引き付けてしまったからだ。
「これは居た堪れないな」
「そうだな。よし、それじゃあ早速受付に……って誰も居ないし」
受付には誰も居なかった。
それもそのはず、普段からダンジョン課を利用する人は当たり前だけど少ない。
だから他の人が兼任しているようで、銀色の呼び出しベルが置いてあった。
チリーン!
名梨は迷わずベルを押した。
すると受付を挟んだ奥の方から「はーい!」と可愛らしい女性の声が聞こえた。
「おっ、来た来た」
「意外に早いんだな」
普通ダンジョン課を呼ぶことなんてない。
そう思っていた名梨だったが、あまりのレスポンスの速さに驚愕した。
そしてやって来たのは案の定若い女性で、栗色の髪を上の方で結びポニーテールを作っている。
適度に焼けた肌やはっきりとした目付きから明るい人だと名梨は予想した。
「こちらダンジョン課の受付になります。本日はどのようなご用件でしょうか?」
マニュアルに沿った言い分を丁寧に口にする。
ハキハキとして元気が良く、熱志とは相性が良さそうだった。
だからだろうか。名梨が何か答える前に、素早く熱志は要件を口にした。
「
熱志はほぼノータイムでストレートに用件を伝えた。
名梨は付いてこなくても良かったのでは? と思った一方で、
まさか巻き込まれるんじゃないだろうな、名梨は
「まあダンジョンに行かれるのですね。そのためには色々と書類に手続して貰わないといけないんですけど、ちなみに年齢は?」
「俺達どっちも十五歳です。あっ、親の許可は貰ってます!」
「おい、肩を組むな。はっ、親の許可?」
そんなの貰ってない、と名梨は思った。
しかし名梨の両親はどちらも適当な人間で、この手に関しては命知らずに飛び込むタイプだ。
つまり名梨とは真逆の超アクティブな性格で、すぐに許可を出すに決まっている。
「それでは保険証か学生証の提示をお願いします」
身分証として学生証が必要だったらしい。
当たり前のことだとは思っていたが、まさかダンジョンに入るためには年齢制限があったとは。
名梨は知らなかったことを痛感した。
それと同時に何故か自分も許可証を貰う運びになってしまう。
「何で俺まで」
「まあいいだろ。貰えるもんは貰っとけって話だ」
「お前は勝手に……はぁ、ここで騒ぎになると後で学校側に通達が行くわけか」
つまり今さら拒否れない。
名梨は壮絶な罠に落ちてしまったらしく、げんなりして肩を落とした。
学生証を手渡し、渡された申請書に必要事項を書いていく。
名前、生年月日、血液型に住所。それから学校名や家族構成まで。
色々と手間だと思いつつ、最後に要求されたものが気になった。
「それでは血液を一滴採取させていただきますね」
「はっ?」
「ダンジョン内で適応できる人間か如何かを判断致します。それではこちらの瓶に血液をお願いしますね」
まさか用意されたのはちゃんとしたメモリの入った容器と針だった。
かなり原始的と思いつつ、本当にここは市役所なのかと疑いの目を名梨は向けた。
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