第83話 頭が落ちるなんてキショいだろ!

 オロチノコウベは何故か反撃してこなかった。

 まるでbotの動きを学んでいるみたいで、攻撃してきたのはbotが優勢に立った時だった。


「さあ、何処から来る!」


 botは常に反撃に警戒していた。

 しかし満を辞して攻撃してきたものの、何と普通に噛みつこうとしてきたのだ。舐められたなと思うところだが、ここは冷静に分析してbotは切れの良いパンチをお見舞いした。


「そんな単調な攻撃でやられるかよ!」


 ドカッ!


 パンチが思いっきりクリンヒットした。

 オロチノコウベはダメージを受け悲鳴を上げるが、その瞬間異様な切れ込みが首筋に入った。


「何だ?」


 botは嫌な予感がした。まさか取れるんじゃないよな?

 オロチノコウベがこのダンジョンのボスなことは予め調査済み。だけどこんな気色悪いことが起こるとは思わなかった。


「って、まさかな!」


 流石にそれはないと思い全力で振り切る。

 強烈な蹴りを喰らわせると、白い牙の一本に皹が入った。これはやったか。安堵した途端、急にオロチノコウベの首筋に赤い一筋の線が深く入り込んだ。


 ボトッ。


 オロチノコウベの首筋に赤い線が入ったかと思えば、その首が簡単に落ちてしまった。

 botは目を見開くも、莉乃と柚美梨は恐怖のあまり発狂した。


「「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


 botは耳を塞いだ。

 するとオロチノコウベの落ちた首が勝手に動き出して、botを標的と認めて襲い掛かった。


「嘘だろ!」


 流石にキモすぎる。botはガントレットをクロスに構えて攻撃を堪えようとするが、突然背後から強烈な一撃が入る。


「痛ってぇ!」


 botは目から血が出るかと思った。

 とんでもない頭に背中が震え、うつ伏せで倒れた。けれど動かないと死ぬと思い、全身を捻って痛みを堪えなが、転がって躱した。


「あっ、危ねぇ。死ぬかと思ったぜ」


 冷や汗がダラダラ流れた。

 まさか二つが独立して動けるなんて、botは意識の外側からの攻撃に対応が追いつかなかった。


 目の前には悠然とその姿を露わにするモンスターがいた。

 片方は蛇っぽくない平らな顔をしたオロチノコウベの頭。もう片方は発達した紫色の体躯をニョロニョロさせるオロチノコウベの体。

 どちらも強力で、お互いの意思が伝わっているのか、巧みな連携を取っていた。面倒な相手だが、これこそがオロチノコウベの真の実力だ。

 

「マジかよ。これちょっとヤバいな」


 botは何とか立ち上がった。

 膝を使って全身の重心を落とすと、ガントレットを構えた。

 その姿は滑稽だろう。しかしbotはカメラドローンに映されても、後ろにいる莉乃や柚美梨に心配されても気にも留めない。


「早く逃げましょう!」

「そうよ。こんな相手と戦ったら……」

「死ぬかもな。けどよ、俺は死ぬ気はねぇんだよ。全力で相手をして、全力で倒してやる。その方が面白いし盛り上がるだろ!」


 botはニヤニヤ笑みを浮かべた。

 全身から汗が込み上げ、拳を作ると両の拳が炎に燃えた。


「全力でぶっ飛ばす! 二対ならどっちと潰せばいいんだよ!」


 botは駆け出した。

 拳をまずは顔面に叩きつけようとするも、何故か宙に浮いていた。そのせいで空振りになってしまうが、botはすぐさま対応した。


「だったら突き上げればいいんだよ!」


 botは強烈なアッパーを放った。

 噛みつこうとしたオロチノコウベの頭が下から突き上げられて、大ダメージを受けた。

 痛みで目を閉じると、オロチノコウベは分離している体に訴えかけて、botに尻尾を叩き込もうとする。

 しかしbotはそれすら予期していた。


「だろうな。そう来ると思ってたよ!」


 botは後ろ蹴りを喰らわせた。

 オロチノコウベの体を蹴り飛ばすと、頭にもダメージが入った。

 如何やら片方を殴ることで両方にもダメージが入るらしく、ここは調べても出てこなかった。


「これがオロチノコウベの正体か!」


 オロチノコウベは体を二つにする。

 頭をいくら叩いてもダメージは入らず、体を攻撃することで初めてダメージを与えることができる。

 いくら攻撃を加えても、二つに分離できていなければ決して倒すことはできない。その圧倒的な生命力を武器にこのダンジョンで暮らしていた。まさしくボス級モンスター。


 しかしそのHP極振りモンスターはbotの圧倒的ラッシュを前に劣勢を強いられた。

 その理由は何か。オロチノコウベ最大の武器が通用しないからだ。


「おらおらおらおら! ほらほら、さっさと来いよ!」


 botはとにかく殴りまくった。

 全く怯える気配はなく、botを前にしたオロチノコウベは常に逃げ腰だった。


「ほらほら、如何したよ! この程度で終わりかよ!」


 オロチノコウベに逆転の隙はなかった。

 何故ならオロチノコウベは相手を恐怖させる・・・・・・・・ことでパワーアップする・・・・・・・・・・・から、botみたいな常に楽しんでいる奴には無害。むしろ弱くなってしまい、そのせいで動きが鈍くなっていた。

 その証拠に莉乃と柚美梨が発狂した時はパワーがみなぎっていたが、今は赤子の手をひねるみたいに簡単にダメージが入った。


 まさしく一方的な状況。

 その姿を目の当たりにした視聴者達はbotを見てこう思った。


“容赦ない”


 その一言が相応しかった。

 莉乃と柚美梨も恐怖することを忘れ、軽やかにパンチをキックをその応酬を繰り広げるbotに視線を奪われて、いつの間にかオロチノコウベが動かなくなるその瞬間まで、目を離すことができないのだった。


「こんなに強い探索者がいたなんて……」

「凄い……」


 二人のか細い声はbotには聞こえていなかった。

 振り上げた拳をオロチノコウベの腹に叩き込んだ。


「これで終わりだよぉ!」


 最後の一撃が深々と白いお腹に激突した。

 風船のように萎み一瞬にして粒子となって弾けた。

 綺麗な花火のように命が散り、儚くも大きめの魔石が転がった。botは勝利の余韻に浸るように、拳を天高く突き上げていた。


 

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