第66話 清水を汲みに行きました。

 ナナシーはそんな具合に話を無理やり締めた。

 しかしbotやカエデ、コメント欄の熱は冷めることはなく、ナナシー溜息を吐いた。


「そんなことよりも、リポップする前に行くぞ」


 ナナシーは少し多く喋った。

 するとマリーが間髪入れなかった。


「そうする」

「それじゃあ行くぞ……カエデ」

「な、何!?」


 カエデはナナシーに声を掛けられ緊張した。

 頬が赤らんでいたが、ナナシーは気が付かなかった。


 しかし何を勘違いしたのか、能力の話の続きだと思った。

 そこで最後に言い切っておいた。


「俺の能力は無敵でも何でもない。どんなの能力にも利点と欠点が存在する」

「そ、そうだけど……えっ?」

「そう言うことだ。いちいち気にするな」


 それにその方が面白いとも思った。

 ナナシーは表情を変えることはなく、カエデに質問した。


「それで何処にあるんだ?」

「何処って?」

「清水だ」

「清水? ……あっ! 向こうだよ! この先、第二階層の最奥に流れてるって言う小さな水溜りがあるんだって!」

「そうか。なら行くぞ」


 ナナシーは淡々としていた。

 しかしはっきりと呟くと、マリーと共に先に向かった。


 もちろんカメラドローンの画角から遠ざかるためだ。

 適当なタイミングで後ろに付ければ満足だった。


「あっ、もう待ってよ!」


 カエデは慌てて追いかけた。

 その間botはこう思ってしまった。


「いや、今日のナナシー元気だな」


 コメント欄も同じ反応だった。

 大体みんな同じコメントを残した。


“ナナシーさんって、カッコいいけど鈍感すぎね?”


 *


 ナナシー達は第二階層の奥を目指した。

 するとすると微かに水が流れる音が聞こえた気がした。


「ナナシー君、マリーちゃん、ちょっと待ってよ!」


 カエデがナナシー達を追いかけた。

 しかし追いついたと思った時には、ナナシー達の姿は無く、カエデは目を見開いてしまった。


「あ、あれ? 二人が居ないよ!」


 急にカエデの前から姿を消した。

 もちろん別の脇道に入っただけだった。


「おーいカエデ! って、如何したんだよ?」

「bot君。それがね、ナナシー君とマリーちゃんが居なくなっちゃって!」

「えっ!? まあその辺に居るんじゃねえの?」


 botは呑気だった。

 しかしカエデは本気で心配していて、可哀想に思った。


 botは睨みを利かせた。

 何処かに隠れているであろう二人を釣り出すことにした。


「おーい、カエデが泣いてるぞ! お前達はそんな奴なのか?」

「な、何言ってるの?」


 カエデは泣きそうではなかったが、突然のbotの発言に驚いた。

 その頃ナナシーとマリーは考えた。

 敵に回すと厄介だと、そんな反応になりながら仕方なく出て来た。

 もちろん、何も無しではなかった。


「ここに居るだろ」

「そう」


 ナナシーとマリーは平然とした顔で出て来た。

 少し湿った脇道から姿を現すと、カエデは目に涙を浮かべた。


 もちろん援護ではなかった。

 突然目の前から消えたので、モンスターに最速でやられたのかと思ったのだ。


「良かった。もう、二人とも隠れないでよ!」

「何故だ?」

「心配するからだよ!」

「……そうか」

「そうらしい」


 ナナシーとマリーは顔を見合わせた。

 とりあえず言いたいことは分かった。


「だが何もしていない訳じゃないぞ」

「如何いうことだよ?」

「見てみろ」


 botからの質問に視線で返した。

 するとナナシーの視線を追った二人は、壁から水が流れていることに気が付いた。


「おい、何で水が流れたんだよ?」

「多分地下から湧き上がるんだろ」

「ってことは、この先にあるのかな!」

「多分」


 カエデは目の色を変えた。

 如何やらお手柄だったらしく、ナナシーとマリーの手を掴んでブンブン振り回した。


「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

「お手柄だよ二人共! それじゃあ早速行こうよ!」


 ナナシーとマリーは変な声を出した。

 覇気が無く感情が篭っていなかった。


「「うわぁぁぁぁぁ……そう」

「気持ち悪っ!」


 しかしすぐに元に戻った。

 botは感情の無さと変わりように気持ち悪く思った。


「って、俺も行くって!」

「わかってるよ。だから待ってるんだよ」


 コメント欄ではbotのことを不憫ふびんに思うコメントがたくさん流れた。


「みんなで行かないと意味ないでしょ?」

「よ、良かった。俺だけ無視されてるのかと思ってたぜ」

「そんなことしないよ!」


 カエデの一言にbotは救われた。

 安堵して胸を撫で下ろすと、ナナシー達は揃って奥へと向かった。


 とは言え、まさか脇道に逸れるとは思わなかった。

 あのまま真っ直ぐ進んでいたらきっと間違った所に出るはずだ。


 そうなれば一生清水を、この階層で手に入れることは不可能になりそうだった。

 ナナシー達の選択は何も間違っておらず、壁から滲み出る水を睨んだ。


「にしてもよ、この先に水溜りでもあるのか?」

「さあな」

「さあなって。そんじゃ最悪何も無しかよ」

「そんなことはない」


 ナナシーは堂々と言った。

 もちろん意味を持った言葉で、最悪壁から滲み出る清水を掻き集めれば瓶一本分にはなった。


「時間は掛かるが何とかなる」

「マジかよ」

「あはは……」


 ナナシー達は苦笑いを浮かべた。

 しかしマリーだけは違った。


「大丈夫」

「何が大丈夫何だよ?」


 botが聞いた。

 するとマリーは淡々と答えた。

 しかし指を指しただけで理解した。


「この先に水がある」


 ナナシー達に見えなかった。

 しかし熱源を感知できるマリーにはお見通しだった。

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