第28話 軽く捻ってやりました。

 こうして現在に至るわけだが、流石に回想が長すぎたかもしれない。


 ナナシーはそうは思いつつも、おかげでかなりの数が殲滅せんめつできた。

 ほとんどbotがガントレットの肉弾戦で殴り倒していた。

 汚い表現にはなるが、体液が飛び散っていてかなり臭った。


 とはいえ鼻を摘むわけにもいかなかった。

 ナナシーは苦しい表情を浮かべ、肺に溜め込んだ酸素が一気に体外へと排出された。


「げほっげほっ!」


 肺が膨張していたので、思いっきり咳き込んでしまった。

 それを心配したbotは蜘蛛を殴りながらだが心配してくれた。


「大丈夫か、ナナシー?」

「問題ない。それよりある程度は片付いたな」

「ある程度はな」


 とは言いつつも全然まだまだいた。

 壁にはびっしりと張り付き、遠目から見たら一匹の大きな蜘蛛のようにも見えた。


 蜘蛛が苦手な人は悪寒が出てアレルギー発症間違いなし。

 下手をすれば泡を吹いて気絶するかもしれないな。

 ナナシーは剣を構えたまま、少し後方へと下がった。


 botと背中合わせになった。

 お互いのリーチを活かした攻撃を続けても、次から次へと湧いてくる黒蜘蛛達を仕留めることは困難だった。


「如何するよ。これじゃあ切りがないぜ!」

「見たら判る」

「そうかよ。んじゃ、突破口はあんのか?」

「さあな。だが黒蜘蛛達の狙いはあの宝だ。宝箱から離れれば追っては来ないだろ」


 ナナシーは宝箱をチラ見した。

 道理で誰も持って帰れなかった訳だと、ナナシーはつくづく思った。

 それと同時に来なければこんな気色悪い絵面を見なくても済んだと心底げんなりした。


「せめてまとまってくれればな」

「まとまれば如何にかなるのかよ?」

「俺が如何にかするんじゃない。お前が如何にかするんだ」

「はぁ?」


 botは分かっていなかった。

 しかしナナシーはそこまで構っている暇はなく、何かないかと思考を巡らせた。


 視線を行ったり来たりさせ、ヒントを掴み取ろうとする。

 すると気が付いたのは蜘蛛達が一定の方向から襲ってきている事だった。


 もしかしたら統率を取っている何かがいるのではないかと、視線を配った。

 すると案の定、ナナシーの思惑は的中した。


「アレだな」

「アレ? 何か居るのか?」


 ナナシーの単語にbotは食い付いた。

 ナナシーの視線を追ったがよく分かっていなかった。

 けれどナナシーには確信があった。一匹だけ、背中に赤い斑点・・・・・・・がある・・・蜘蛛が居たのだ。


「よく見てみろ。赤い斑点を持った蜘蛛が見えるだろ」

「セアカゴケグモみたいなのが居るな。しかもちょっとデカくね?」


 確かにナナシーも思っていた。

 他の蜘蛛が全長三十センチに対して、こちらは全長約五十センチはある大物だった。


 まさしく統率者として風格だけでなく、存在感すらはっきりと表していた。

 ナナシーとbotはゴクリと喉を鳴らし、コメントなどを見ている余裕も無くなった。


「ナナシー、如何するよ?」

「統率者さえ倒せば他の蜘蛛も楽に倒せそうだな」

「だな。で、如何するん?」


 botはナナシーに促しつつも、手から汗が滲み出ていた。

 ポタポタと滴り、地面が溶けた。


 蒸発して湯気が立った。

 蜘蛛達が一瞬動きを止めた。


 壁に張り付き優雅に見守っている統率者を睨み付けたナナシーはちょうど良いと思った。

 botにこっそり耳打ちをした。


「bot、周りを惹きつけろ。その隙に俺が統率者を倒す」

「できるのかよ?」

「やるしかない。この状況を打破するためだ。やってやる」


 本当面倒だった。

 しかしナナシーめ蜘蛛に殺されるのは嫌だった。


 そのため能力を行使することにした。

 蜘蛛達が近づいてきた。

 その隙を見逃さない。的確に間合いを図り、botのタイミングに合わせた。


「行くぜ、ナナシー!」

「ああ。一瞬で片付けるぞ!」


 ナナシーはbotが炎をカーテンのようにして放つのを待った。

 右手を払い、炎をカーテンのように展開するbotがチラ見した。


 ポワッ!


 炎のカーテンが蜘蛛達を引き剥がした。

 道を開き、その瞬間ダンジョンと薬の効能で強化された身体能力を能力でさらに加速させた。


 ナナシーは思いっきり飛んだ。

 蜘蛛達が口から毒液を吐き、多少頬に掠った。


「好都合だ」


 ナナシーは短く口にした。

 するとノイズが走った。

 コメント欄やbotの意識が多少ズレた。


「うっ、な、何だ!?」


 botが頭を抑えた。

 痛みは特になかったが気になってしまい、周りを見るとナナシーが拳を振りかざしていた。


 赤い斑点のある蜘蛛に拳を叩き込んだ。

 綺麗な正拳突きを食らわせて、圧倒間に倒してしまった。


 統率者を失った蜘蛛の大群は急に動揺し始めたのか、動きに無駄が出た。

 ナナシーの活躍にニヤリと笑みを浮かべたbotは炎で残りを焼き払った。


「これでも食らっとけや!」


 炎の壁が展開された。

 二重、三重と輪を作り、集まっていた黒蜘蛛達を全滅させた。


 大量の黒焦げ蜘蛛達ができ上がり、惨状が形成された。

 コメントは大盛り上がりだった。


“うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!”


“な、何も見えねぇ(物理)!”


“モザイクのせいで何やこれ?”


“またノイズ走ったな”


 botはVサインを作り、「イェイ!」カメラに向けた。

 ナナシーは「ふぅ」と息を吐き、やっと終わったと安堵した。


「やったなナナシー!」

「そうだな」


 ナナシーはドライな目に戻っていた。

 釣れない奴だなとbotはジト目になって思ったが、大量に転がる魔石の回収に務めた。


「よっと。うおっ、スゲェ!」

「そうだな」

「もっと喜べよ!」

「そうだな」


 ナナシーは機械のように同じことしか言わなくなった。

 またノイズが走ったと知ったナナシーは余計に確信した。

 やっぱりこれは自分の能力が関わっていると、直感が確信に変わり、本気で凄いと思っていた証拠だった。


 そんなことはbotは露知らずで、首を捻っていた。

 とは言え勝ったことは事実なので、本人はめちゃくちゃはしゃいでいた。

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