第42話 ダンジョンの中が血生臭い
面倒なことになった。
名梨は実家の蔵の中にダンジョンができてしまい困惑していた。
とは言えやることは決まっていた。
まずはここから一番近いダンジョン調査課に事態を知らせることだ。
けれどその前にやるべきこともあった。
まずはーー
「とりあえず菜迺姉は出ろ」
「ちょ、ちょっと!」
名梨は菜迺を蔵の中から外に追い出した。
探索者でもない人間がダンジョン付近で長居することは危険だった。
「何するのよ!」
「ここは立ち入り禁止だ」
「立ち入り禁止って何? やっぱり何かあったね!」
「聞くな」
名梨は菜迺を遠ざけた。
無理やり外に追い出すと、蔵を内側から鍵を掛け、名梨は大きな溜息を付いた。
「はぁー」
ドンドンドンドン!
すると凄い勢いで外から蔵の扉を叩かれた。
菜迺は何が起きたのか分かっていないので仕方ないと大目に見てやった。
「ちょっと、何で外に追い出したのよ!」
「……」
名梨は完全無視を決め込んだ。
これも根は優しい名梨なりの配慮だった。
ダンジョンには薬を飲んだ人しか入れない。
無闇に入ると死ぬからだ。
肉体は生き返ったとしても、記憶などの精神的なものに損傷を生む可能性もあった。
だから外に追い出したのだ。
「とは言えまずは探索しておくか」
名梨はもう一度床下を開けた。
そこからは血生臭いニオイがプンプンしていた。
鼻を摘むことすら億劫にさせてしまい、慣れるのを待つしかなかった。
如何してこんなものが蔵の中にあるのか、沸々と怒りが湧いた。
「本当は行く必要はないんだが……」
事態を円滑に進めるためにもまずは自分の足で探索してみた。
誰も立ち入ったことのないダンジョンがどれだけ危険かは熟知していなかったが、名梨はいざダンジョンの中へ足を踏み入れた。
「とは言え如何やって入れば……ん?」
腕組みをして考えた。
床下から如何やって中に入ったものかと考えると、古い
「如何して梯子が……まあいい」
これも都合が良かった。
名梨は考えるのも面倒なので、適当に落ちていた木刀を拾った。
かなり古いものだが漆が塗ってある良いものだった。
「それを借りるか」
口走った名梨は床下の中に潜った。
梯子を使ってゆっくりと下まで降りると、そこには信じられない光景が広がっていた。
否、信じたくない光景が広がっていた。
「嘘だろ」
全体的に仄かにピンク色だった。
もちろんいかがわしいピンクじゃない。
R18を連想するのだけは論外だった。
とは言えピンクではあった。
ラズベリーやザクロのような赤々とした様子ではなく、むしろ桃のように仄かなピンク色が一番分かりやすかった。
けれど何処となく血生臭かった。
哺乳類や魚類のようなあっちを連想させるようなニオイではなく、こう鼻の奥をつんざくようなニオイが充満していた。
「酷い臭いだな。なのにちょっと甘いのが癪だ」
名梨は木刀を持ってダンジョンの中を進んだ。
しかしモンスターは一切出てこなかった。
加えて言えばダンジョンの構造もかなり単調だった。
どれだけ進んでも直進。
完全に一本道だった。
「何だこのダンジョンは……」
配信じゃなくて良かったと胸を撫で下ろした。
そもそもこんなところを配信する気はなかった。
何故なら全面モザイク確定だからだ。
「つまらない……そして何もない……」
自然と口数が増えてしまった。
もちろん不満をタラタラ漏らすだけだった。
けれど何が不満なのか、名梨には分かっていた。
探索してつまらないからではなく、単純に何も無いからだ。
探索者をビビらせるだけビビらせて結局は何もなかった。
この血生臭い臭いも、もしかしたら何か意味があるのかではと思い出す結果だ。
「とは言えこの壁……洞窟の成れの果てか?」
名梨はいかにも怪しい壁に触れてみた。
ゴツゴツしていて指に欠片が触れた。
如何やらピンク色になってはいたが岩の破片だった。
だけど如何してこんな色になっているのかは分からなかった。
少し頭を使ってみた。
例えばここで何かを作っていたのではという説だ。
「とは言っても何を……ん?」
名梨は破片を鼻先に近付けた。
少しだけ良い香りがしたのだが気のせいだろうかと、自分を疑った。
「何だ。この桃のような葡萄のような……つんざく臭いのような……」
情報が無いので口に出していた。
けれどそれ以上何か分かるでもないので、先を目指した。
とりあえず一番奥に行けば何かあるはずだ。
「とは言えこのまま何も無ければ平和何だが……はぁ?」
この反応は嫌なものがあった時だ。
名梨は表情を歪め、目の前を睨んだ。むしろ凝視していた。
「アレは……箱?」
何故かダンジョンの中に箱があった。
しかもただの箱ではなく、
まさかここに捨てられたのだろうか?
ダンジョンは確かに複雑怪奇だが、棺をわざわざ置きに来るとは考え難かった。
とは言えダンジョン自らが生成したパターンも考えた。
この間の黒蜘蛛の洞穴の時のように、宝箱が設置されていたのを念頭に入れた。
「あのパターンなら中には宝が入っていたが……」
明らかに開けなくても良いパターンに名梨はスルーを決め込んだ。
そのまままだ先が続いていたので行ってみようとしたが、急に棺がガタガタと動いた。
まるで名梨に反応したみたいにだ。
「はぁ?」
名梨は仕方なく足を止めた。
むしろ止めないと行けない気がした。
この先に行くためにはこの棺を開けなければいけない。
RPGではよくある決まりだ。
「嫌だな」
そう口にすると激しく揺れ出した。
まるで「早く開けろ」と訴えているみたいに見えた。
「開けたくないな」
それでも断固として拒否した。
もっと揺れが激しくなり、壁が揺れ始めた。
何かの限界を指しているのか、不気味だった。
「開ける選択肢しかない?」
独り言を吐いた。
棺の揺れが止まり、「うん」と言っているようだった。余計に悪寒が走った。
「あ、開けるか……」
名梨は押し問答の末仕方なく開けてあげることにした。
もし何かあればすぐに閉めれば良いとたかを括っていたのだ。
「くっ、お、重いな……」
棺の上蓋に取っ手が付いていた。
指を掛けて無理やり引っ張ると、ギリギリと音を立てた。
名梨は表情を歪めながらも必死に開けた。
すると中に入っていたものが意外過ぎて言葉を失った。
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