5章 清水ってなに?
第49話 ココロエプロジェクトの会議(普段はしないのだが……)
その日は何故かスタジオに集まっていた。
スタジオとはその名の通りで配信をするための場所だった。
ここは名梨と熱志が借りている部屋だった。
中は基本的に何も無かったが、それもそのはずほとんど使っていなかった。
それじゃあ何で借りているのかと言われたそれまでだった。
とは言えこの部屋はそこまでお金も掛かっていなかった。
「うわぁ、こんな綺麗な部屋あったんだ!」
「いや、俺達の家来たことないだろ」
楓は何故か興奮していた。
その理由は分からなかったが、振り返った顔がむくれていた。
意味が分らない名梨は「ん?」と首を捻った。
「それじゃあ今度は二人の家にも行ってみたいな!」
「俺は大歓迎だぜ」
「俺はパスだ」
「えー、何で!? ねえ、何で何で!」
楓は子供みたいなことを言った。
面白くも無かったが、名梨は特に何も言わなかった。
「ところで、ここに来たのは何のため?」
そう声を出したのは、一番この状況が分かっていないヴラドだった。
それもそのはず、熱志や楓と顔を合わせるのは初めてだった。
「おっ、お前がヴラドだな。へぇー、ほんとでダンジョンから来たのか?」
「うん」
「面白ぇじゃんか! なあ、これからよろしくな。友達&メンバーとしてな」
「ん? これが名梨の親友?」
「腐れ縁だ」
「腐れ縁? 親友じゃないの?」
ヴラドは間が抜けていた。
完全に話に乗り遅れてしまい、熱志は
「うわぁ、ヴラドちゃんだよね。初めまして、私は響楓。楓って呼んでね」
「楓? テンション高い」
「うんうん、私はこんなテンションだよ。如何? 良い感じでしょ?」
「良い感じの意味が分らない」
「あ、あれれ? もしかして名梨君と同じタイプ? 顔色も悪いし、大丈夫?」
「はてなが多い。疑問形の多様化。あまり良くない」
ヴラドは正論で返した。
熱志と楓は圧倒されてしまい押し黙った。
(これは相当効いたな……ん?)
熱志と楓は表情に影を落としていた。
しかしクスッと笑みを浮かべた。
(ん?)
二人は口角を上げた。それから何が面白いのか、名梨には分からなかったが笑い始めた。
目から涙を零していた。
もしかしたら二人して笑いのツボが同じだったのかもしれないと、名梨は冷ややかな目を向けた。
「何だ?」
「何だじゃねえよ。ほんと面白いな!」
「そうだね。まさかちょっと性格が違うだけで、ここまで同じなんてね」
「同じって何だ。似てないだろ」
「「似てるよ!」」
何故かは知らないが二人は案の定、すぐにヴラドと仲良くなった。
ヴラドもそこまで嫌ではないのか特に毛嫌いを起こすわけでもなかったので安心した。
「何が面白のか分からない」
「同じく」
しかし名梨もヴラドも話に乗り遅れた。
完全に二分されてしまい、しばらくの間笑い勢力とポカンと勢力に分けられてしまった。
*
「まあそんなことはいいとして、そろそれ会議を始めよっか」
「会議って、随分と仰々しいな」
今まで配信で会議何てしたことは無かった。
念入りな打ち合わせなどは特になく、いつもその場のノリで撮影していた。
「会議は大事だよ。私もマネージャーさんと打ち合わせしたりするから」
「そうなのか?」
「ライブを成功させたりするには自分から率先して行動を起こさないとね。ちょっとの伝達ミスが思わぬところで大きなアクシデントになることだってあるんだよ」
「経験則か?」
「経験則経験則。だから今日はちゃんとした、真面目な企画会議をします。というわけで、私の方からネタを持ってきたんだけど、今度霊龍の泉域に行ったら第二階層に降りてみない?」
楓の提案はこの間探索したダンジョンのさらに奥地だった。
霊龍の泉域はダンジョン調査課が調べただけでも十階層はあるそうだ。
管理している人以外、最下層まで降りられた人はいなかった。
だからこそ、下層には何が起きるか分からなかった。
一階には竜はいなかったが、下の階には居てもおかしくないのだ。
つまり、予想されるのはより一層ハードな展開だ。
熱志はワクワクしていたが、名梨は危険だと思った。
臆しているのは仕方ないが、そもそも面倒だった。
「わざわざ行く必要はない」
「もう、釣れないこと言わないでよ!」
「釣れない?」
別に魚を釣っているわけではないので、名梨は何に釣れないのか分からなかった。
けれど熱志にポンと平手打ちされ、「そういう意味じゃねえよ」と怒られた。
何故怒られたのか分からなかった。
「ねえ」
「何だヴラド」
ヴラドはお茶を飲みながらゆっくりしていた。
渋いタイプの湯飲みを使い、未だに湯気が出ていた。
本当にマイペースでその分考えていないように見えて考えていた。
空気を読まない性格だった。
「霊龍の泉域って何?」
そもそもヴラドには話の大筋が伝わっていなかった。
突然楓に呼ばれたので無理もなかったが、楓は優しく説明した。
「えっとね、霊龍の泉域っていうダンジョンがあるんだよ」
「どんなダンジョン?」
「確か綺麗な霊脈の泉が地下深くに有って、そこからもの凄い効果のある清めの水が流れているそうだよ」
「なるほど。前にダンジョン調査課で聞いた」
ヴラドはダンジョン調査課である程度の話を聞いていた。
ちょうど合致する内容だったのでピンと来たようだ。
けれどヴラドの表情は一切変わらず、納得すると再びお茶を飲み出した。
「霊脈は確かに噂があったな。それで、第二階層に何があるんだ?」
「えっとね、ポータルがあるそうだよ」
「ポータル?」
名梨は表情を歪めた。
そんなもの、第一階層には無かったからだ。
いや、もしもポータルがテレポート的な何かだとしたら第一階層にわざわざおく必要は無かった。
「ポータルって言うのは、テレポート装置らしいよ。ダンジョン内の魔力を糧にして動いているみたいで、生体認証で特定の人を地上からダンジョン奥地まで一気に運べるみたいなんだ。ねえ、凄いよね!」
「確かに凄いな。それもダンジョン固有のものなのか?」
「そこまでは分からないけど、多分ダンジョン調査課の人達が設置したんじゃないかな?」
「そうか」
それだけの科学力がこの国にはあると知り驚いた。
とは言え、それらは全て過去の屍の上に立っていた。
ドライな性格と対応な名梨でも表情を硬くした。
色々と考えさせる情報に興味が湧いたのかもしれないが、それにしても面倒な話しだった。
「と言うわけだから、今度は第二階層に行ってみない?」
「そうか。それなら俺を除いて……」
言おうとした瞬間、肘打ちを食らった。
熱志にやられてしまい、言葉を詰まらせた。
「良いな、それ。なあ名梨。ヴラドもいいだろ?」
「お、お前……はぁ」
「分かった」
名梨は諦めた。どうせいつものことになると先に思ったからだ。
ヴラドも断らなかった。
完全にアウェイになると思い、仕方なく名梨も乗った。
「それじゃあみんなで行ってみよう。エイエイオー!」
「「「オー」」」
面倒なことになった。
名梨はつくづくそう思うのだった。
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