第29話 気色悪い指輪が高値で売れた!?

 ナナシーとbotは宝箱を開けるべく近付いた。

 蜘蛛達が二度と起き上がることはなく、次にリポップされる前に早めに回収してダンジョンの外に出る魂胆だった。


「急いで回収するぞ」

「おう。それで鍵は開いて……」


 ギィィ!


 宝箱の蓋はかなり軽かった。

 古くなっていたのか、蝶番が脆くなっていた。


 こんなに簡単に開くとは思っても見なかった。

 どうせなら鍵が掛かっているはずと期待していた。

 しかし、鍵が掛かっていないのなら開けてダッシュで逃げれば良かったと、終わってからナナシーは思った。


「倒さなくても良かったな」

「何でだよ? せっかくこんなにコメント付いてんだぜ?」

「アイツらだって生き物だ。モンスターとは言え、勝手に殺されるのは本望ではないだろ」


 終わったことなので今更遅いとは思った。

 ナナシーはピンマイクの電源を切っていたので、この声は配信には乗ることはなかった。


「まあ終わった話だ。それより開けるぞ」

「そうだな! 一体何が入って……ん?」


 botは首を捻った。

 ナナシーはカメラを回して中身を映すと、入っていたのは如何にもな赤い宝石だった。


 如何やら指輪のようで、装飾品として作りが良かった。

 ナナシーもbotも興味はないが、赤い宝石を咥えるように蜘蛛の足が絡み付いた形になっていた。


 勝手なイメージだがヴィジュアル系の人達は好きそうだとナナシーは思った。

 それぐらい派手でゴツゴツしていた。


「コレが宝なのか?」

「そうらしいな。……なんか微妙?」

「そうだな。コメントのみんなは如何思うよ?」


 botはコメントに委ねた。

 すると面白いコメントは特になかった。

 残念だ。ダンジョンへの知識が全員欠けていたので、botは腕組みをして唸った。


「うーん。とりあえず今日の配信はここまでかな。ここまで見てくれてあんがとな」


 botは配信を切ることにした。

 ナナシーは名梨に戻り、宝箱の中から指輪を取り出すと、袋の中に入れた。


「とりあえず回収した。それで如何する?」

「如何するって言われてもよ。とりあえず持って行くしかなくね?」

「そうだな。今日は行くぞ」

「おうよ!」


 名梨と熱志は早速市役所に向かうことにした。

 ダンジョン調査課なら何か分かるかもしれないと期待していた。


 *


 名梨達は市役所にやって来た。

 ダンジョン調査課の呼び出しベルを押すと、すぐにあの茶髪の女性がやってく来た。

 今日も暇だったのか、手際がもの凄く良かった。


「はい少々お待ちください。あっ、探索者の方々ですね」

「そうです」


 名梨はドライな返事をした。

 すると茶髪の女性はマニュアル通りのことを言った。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 名梨は袋の中から指輪を取り出した。

 職員の女性は驚いた。


「もしかして私にですか!? いや、私はまだ……」

「買い取ってください」

「えっ?」


 職員の女性はハッとなった。

 頬が赤らみ、恥ずかしそうにしていた。

 名梨には訳が分からなかったが、早くしてほしかった。


「あっ、買取ですか」

「はい、買取です」


 ドライな対応で名梨は答えた。

 すると職員の女性は溜息を吐きそうになったが、グッと押し殺した。流石だ。


「凄えな。そして凄えな」


 熱志は名梨と職員の女性を見て感動した。

 名梨は何が凄いのか分からずわ首を捻っていた。

 絶対に分からないと思ったので、熱志は何も説明しなかった。


「買取ですね。少々お待ちください。こちら番号札になります」


 職員の茶髪女性は名梨に番号一と書かれた黄色いプレートを差し出した。

 受け取った名梨は熱志と共に待合席で座って待っていることにした。


「どれくらい掛かるんだろうな」

「さあな。多分十分程で終わるとは思うが……」

「だと良いけどよ」


 熱志は頭の上で腕を組んだ。

 何か不穏なことを口にされたので、若干嫌な気分になった。

 そしてその予感は当たってしまった。



 あれから一時間が経ったーー



 名梨と熱志はスマホを観ながら時間を潰していた。

 熱志は動画を名梨はゲームをしながら買取が終わるのを待った。

 自然と口数は減り、アナログ時計のカチッカチッの音だけが耳に馴染んだ。


 すると唐突に買取が終わった。

 アナウンスが聞こえ、「番号札一番の方、ダンジョン調査課の受付にお越しください」と他に利用者も居ない中聞こえて来た。


「やっとか」

「長かったぜ。あー、腰痛っ」


 急に立ち上がったので熱志は腰をいわせた。

 そんなことに一切の興味がなく、名梨は受付に向かった。

 すると期待値高そうな表情を浮かべて待っていた。


「買取が終了致しました。これは凄いことですよ!」


 いきなりマニュアルを無視した。

 名梨と熱志は互いに顔を見合わせると、首を捻った。


 どうせ一万円くらいだろ。

 名梨と熱志は期待値そのくらいの反応だった。


「そうですか」

「ちなみにいくらぐらいっすか?」


 名梨と熱志は期待していないので声音からして億劫だった。

 正直もう疲れていた。しかし職員の茶髪女性はドンと机を叩き、食い気味になった。


「買取金額は十万円です!」

「へぇー、十万か」

「十万円」


 熱志と名梨の反応は薄かった。

 なるほどそんなものかと、適当に話を流そうとした。

 けれど我に返った時には正気ではなかった。


「「はっ、十万円!?」」


 名梨と熱志は驚いた。

 流石にドライにはいられず、あんな指輪如きがそんな値段になるとは思ってもみなかったのだ。


「はい、十万円です」

「何の間違いじゃ?」

「間違いなんてありません。あの指輪の装飾、何よりもあの赤い宝石は魔石です。しかも小さいですがかなりの魔力を内包しているとても貴重な例ですので、このような価格帯が妥当だと思いました。それが摩夜市ダンジョン調査課の下した判断です」


 凄く自信満々だった。

 名梨と熱志は言葉を失った。

 まさかあんな微妙な反応をしたものがこんなことになるなんてと、ダンジョンの奥深さと予想を超えてくる感に驚くしかなかった。

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