配信中は無言で顔出しNGのゲーム配信者はダンジョンで顔バレしました。おかげで登録者が爆増したのだが喜ぶべきだろうか?

水定ゆう

プロローグ/ダンジョンとの邂逅

第1話 ダンジョン配信者

「ナナシー、そっち行ったぞ!」


 少年が大声を出して叫ぶ。


「分かってる」


 呼ばれた少年は剣をモンスターに叩きつけた。

 モンスターの種類は蜘蛛くも型で、洞窟の中ではたくさん見かける。


 大きさは一匹当たり三十センチもある。

 真っ黒で目がどこに付いているのかも分からない。

 気色悪いモンスターがこの洞窟にはわんさかいた。


「プシュ!」


 蜘蛛が口から緑色の液体を吐く。

 触れたら服が溶ける系の毒液で、ナナシーと呼ばれた少年は軽い身のこなしでかわす。


 後ろに大きく飛び、毒液が届かない距離まで逃げる。

 するともう一人の少年、相棒のbotと背中合わせになった。


 botの武器はガントレットと呼ばれる腕に装着するタイプの武器だ。

 つまり超近接戦で打撃が主体になる。


 剣と違ってリーチが短く、残念ながら間合いも短い。

 数が多い時は圧倒的に不利な状況に立たされ、現在進行形でその苦行に立ち会っていた。


「これ、マズくね?」

「最悪だな」


 ナナシーは上を見た。

 天井にはびっしりと蜘蛛がくっ付いている。


 真上にはカメラドローンが飛んでいて、ナナシー達を撮影する。


 流石にこの状況は映像的にモザイク必至。

 あまりにならないので、戦っても意味がないと悟る。


 そこでナナシーは小言を吐いた。

 後ろにいるbotにギリギリ聞こえる程度にして、マイクには入らないように一旦ピンマイクを外した。


「bot、コイツは分が悪い。色んな意味で損しかしないぞ」

「そうは言ってもよ。この蜘蛛連中を倒さないと先には行けないだろ?」


 確かにbotの言う通りだ。

 ざっと数えると百匹くらいからいる。


「仕方ない。さっさと倒すぞ」

「おっ、珍しくナナシーが乗り気だな。よーし、とりあえずぶっ飛ばしてやんよ!」


 botは拳をカチン! と合わせた。

 金属製のガントレットが甲高い音を奏でるが、蜘蛛には効かない。


 音でビビらせるのができないのなら何の意味があるのか。そう思われてもおかしくない。

 だけどこれはbotのある意味ルーティンだ。


 拳を合わせたbotは強い。

 瞬く間に走り出し、蜘蛛を天井高く突き上げた。


 普通の人間にはできない芸当。

 けれどダンジョンにいる間、薬を飲んだナナシーとbotは普通の人のおよそ十倍の身体能力を得られる。


“tueee!”


“流石のbot。こんくらい余裕だろ!”


“何が起こってんのかわかんねえや。でも何か倒したっぽいな”


 スマホにはコメントの嵐が炸裂した。

 大量のいいねと投げ銭付きコメントが流れ込み、botは調子に乗る。


「ドヤ、俺凄いっしょ。この調子でガンガン行くぜぇ!」


 botは気を良くして蜘蛛の大群を次々蹴散らす。

 派手に吹き飛ぶ蜘蛛の大群は、見せられない姿に一瞬だけ変わり、ダンジョンの不思議な性質で倒されたモンスターは跡形もなく消滅した。


 完全にbotの独壇場。

 ナナシーを差し置いて一人だけ目立っている。


 けれどその裏ではナナシーもやることをやっていた。

 botが倒した蜘蛛から採れる魔石と呼ばれるアイテムを次々拾い集め、袋の中に入れていた。


“ナナシーさんは戦わないんですか?”(999円)


 ナナシーの姿がないので、視聴者が心配してコメントを投げる。

 スマホの画面をチラ見したbotはコメントを読み上げ、ナナシーの姿を見た。


 魔石を拾い集めながら、蜘蛛を撃退している。

 剣でズバズバ切りながら、道をこじ開けて退路を稼ぐ。


「ナナシーももっと戦えよ!」

「俺はいい」

「何でぇ!?」


 botは釣れないナナシーを煽る。


「コメントがお前の活躍を期待してんだよ? ちょっとくらいは応えてやっても……」

「他人が求める答えを投げ続けても自分が楽しくなければ意味がないだろ。それに俺は本気になれない」


 ナナシーはドライで淡々と言葉を返した。

 botは腹を立てることもしない。

 何故ならナナシーはこう言う奴で、普段から無口であまり喋らない上に、人付き合いが極端に苦手だからだ。


 それに何よりナナシーの考えは間違っていない。

 むしろナナシーらしくて、それもまた人気だった。


 とはいえ本人は気付いていない。

 別に気付いたからと言って何か変わるわけでもない。


 ナナシーは剣を振りかざし、蜘蛛の大群を蹴散らす。

 botもコメント欄の視聴者達に返答した。


「つー訳で、ナナシーは相変わらず何だよ。ごめんなみんな」


 botは一人で謝罪をしていた。

 けれどコメント欄では誰も非難していない。

 むしろナナシーがチラリと見せた活躍に目を奪われる。


“今のナナシーさんの動き凄くね?”


“キレッキレじゃん”


“避けながら最適な動きで魔石を回収する神業”


“botさんより敵を倒している数が多い気がする”


 などなど褒めているコメントが多かった。

 それにbotはむくれてしまう。


「むっ。俺も頑張ってんだけどな」

「気にするな」


 ナナシーは何気なくbotを励ます。

 しかしそれが煽りに聞こえてしまい、ムキになってしまった。


「ムカっ! よし、俺もやってやんよ。やってやりますよ、おりゃおりゃおりゃおりなぁー!」


 botは次々に蜘蛛の大群を叩きのめした。

 圧倒的なパワーで押し切り、飛び付いてくる蜘蛛達も粉砕する。


 近くで見ていたナナシーは騒然とした。

 たくさんいた蜘蛛達がいっせいに光になって消えてしまう。


 暴れ散らかすbotはカッコよかった。

 だけど一つだけ問題もある。

 この映像は多分配信側でモザイクがかかっている。だから何が起こっているのか、当人にしかわからない。


「いいぞbot。もっとやれー」


 ナナシーは乾いた声で淡々と口にしていた。

 完全にジト目になっていて、botを空虚くうきょに見つめる。


 気が付けば配信の同接が3,000人を超えていて、かなり賑わっていた。

 普段関心のないナナシーでも流石に驚く。


 かなり観られている。

 これはいわゆる人気というやつではないのか。


 流石にダンジョン配信者はほとんどいない。

 おかげでダンジョン配信者の地位を確立できそうだなと内心思いつつ、如何してこうなったのか今更ながらに回想した。


 あれはあの日。

 ナナシーがまだ顔出ししていなかった頃にまで遡るーー

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