第46話 これから如何するか聞いてみた。
ヴラドの調子が良くやって来た。
ゆっくりと「大丈夫」と口にすると、プルプルと震えていた足で立ち上がった。
しかし今回は少し違った。
先程までは足が震えていたはずなのに、今はしっかりと両足で立っていた。
もちろん支えなどは必要としなかった。
「よいっしょ」
ヴラドは平気な顔をして立ち上がった。
顔色も肌の色も異様に白いのは変わらず、体温も低かった。
本当に大丈夫なのかと心配した。
しかし本人は順調そうだ。
「うん。良い感じ」
「良い感じ?」
「そう、良い感じ」
何が良い感じか本人にしか当然分からなかった。
しかし本人がそう言うのに、部外者が口を出すのは流石に論外だった。
名梨は咳払いもしなければ表情も変えなかった。
とってもドライな性格で、現代人よりもさらにドライだった。
そのくせ内では考えていた。
(話を回した方がいいのか?)
とっても苦手だった。
熱志や楓にはあって、自分には無いものだと気がついていた。
ヴラドが屈伸運動をしていた。
パンツが見えそうで見えなかった。
もちろん名梨は興味の欠片も無かった。
きっと熱志なら燃え、楓は心配するはずだ。
けれどヴラドは何も言わず、名梨は何も言わなかった。
「なあ」
「何?」
「お前はこれから如何するんだ」
「如何するって?」
「ここから出るんだろ。その後は如何する」
「如何する……あっ、そう言うこと?」
如何やら話の間が空くタイプらしい。
しかし名梨は気にしない。
「それで如何するんだ?」
答えによっては考えはあった。
もちろんその特質性を利用したものだ。
「如何しよう?」
「俺に聞くな。お前が決めろ」
元の話、名梨が決めて良いわけがない。
それが名梨なりのポリシーで、本人が決めるのが一番。
時間なら十分ある。
名梨は明日東京に戻るが、ここには親戚の家もある。
最悪ダンジョン調査課に相談しても良い。
その場合少し時間は掛かるだろうが、悪い話でもなかった。
「まあ考えろ」
「そうする。でも……うん、とひあえず決めた」
「そうか。それなら外に出たら聞く」
如何転んでも自由だった。
何故なら名梨に関係のない選択肢だって、たくさんあった。
それを如何選ぶかは本人が決めることだ。
名梨は不干渉を決め込んだ。
「名梨、質問」
「何だ?」
そんな中、ヴラドの方から質問された。
名梨は熱志なら軽くあしらうが、ヴラドには優しくした。
理由は特にない。冷たいと話が回らないからだ。
「如何して名梨はここに居られるの?」
「如何言うことだ?」
「ここはダンジョン。負荷もある」
「そう言うことか。薬を飲んだからだ」
「薬?」
「お前達が作ったものだ」
正確にはダンジョンから出て来た人達とこの世界の科学者が総力を上げて作ったものだ。
成功率が低いことから、一応認可されているとはいえ危険でもあった。
(まあ、如何して認可されてるのかは織り込み済み何だが……)
名梨は黙っていた。
そんな中、ヴラドは「ふぅーん」と唸った。
「そんな薬があったんだ」
「あったらしい」
「まあ別に良いけど」
「確かにな。生きているだけで価値があるね
「良いことを言う」
「当然の話だ」
名梨はドライでクールだった。
そんな名梨にヴラドは思い出したように口を開いた。
「そうだ。名梨、この先に面白いものがある」
「面白いもの?」
何があるのがあるのか。
名梨は腕を組んで再度考える。
「まさかワインじゃないよな?」
「違う」
「モンスターか」
「それはない」
「それじゃあ何だ。何があるんだ」
「思い出した」
ヴラドは何を思い出したのか教えてくれなかった。
しかし名梨は止める権利もなかった。
不意にワインの入った木箱をスルーした。
真後ろにも木箱が置いてあり、上蓋を開けた。
中には瓶が入っていた。
ワインと同じ色合いをしており、名梨は怪訝な表情をなった。
「それもワインか?」
「違う」
「それじゃあ何だ? まさかワインに似た酒か?」
ワイン以外にもリキュールは色々ある。
カクテルで使われるものから様々で、名梨は酒を飲む気はなかった。
「悪いが俺は……」
「はい。コレはお酒じゃないから飲めるはず」
ヴラドはそう言うと名梨の手の中に瓶を押し込んだ。
訝しい表情を浮かべていたはずが完全にスルーされてしまった。
「お前、話聞いてなかったのか?」
「聞いてた。でもこれは大丈夫」
ヴラドの目は正眼を睨んでいた。
何を訴えかけるでもなかった。
名梨はコルクの蓋を外し、中身を嗅いでみた。すると本当に酒ではなかった。
「アルコールのニオイがしないな」
「だから言った」
「コレは……飲むか」
「ググッと」
ヴラドに茶化された。
しかし名梨は自分のペースで少し手のひらに溢して口の中に運んだ。
すると芳醇な甘みを感じた。
何処となく渋みもあり、酸味も感じた。
けれど飲みやすくて口当たりも良かった。
「コレは違う品種か?」
「同じ。コレは単なる葡萄ジュース」
それらなそうと言って欲しかった。
考える時間が無駄だった。
むしろ同じ瓶で同じラベルに入っているのは紛らわしかった。
「ちなみに誰がコレを作ったんだ?」
「私が作った」
「ヴラドが? 酒屋だったのか?」
「ううん。見て覚えただけ」
ヴラドは嘘を付いていなかった。
名梨は眉根を寄せたが、ヴラドは相変わらずの表情を浮かべていた。
何も考えていないのか、色白のままだった。
如何やら特に思っていないようだ。
こうして一分間見つめ合った。
とは言え何にも発展しなかった。
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