第80話 叫び声が聞こえて来た!?

 botが出会ったのはスライム。しかも普通の何の変わり映えもしない通常の青色スライムだった。

 それを見たbotは頭を掻きむしりながら、「マジかー」と期待感を削がれた気分になる。


「スライムか。マジか」


 明らかにテンションが盛り下がっていて、今度は顳顬の所を押さえてみた。


(スライムなのか……いいや、スライムだからって侮るべからずってな)


 とは言えされどスライムだ。

 ここで油断をしてやられるなんて恥以外の何物でもないので、botはちょっと考えてから倒すことにした。


「悪ぃな。お前を倒させてもらうぜ!」


 もしかしたら超が付く程の激強スライムの可能性も否定できない。

 botは一切の油断や隙を見せることなく飛び出して、拳を振りかざす。botの指先から汗がこぼれ落ち、スライムの体に触れるとジュッ! と音を立てて少しだけ体が蒸発した。

 とは言えそれ以上は何もなく、スライムは怯えて逃げようとする。


「逃すか!」


 botはすぐさま左の拳を薙ぎ払う。スライムの柔らかいプニプニした体が壁に叩きつけられて、小さな欠片を落とした。

 如何やら早速戦利品の魔石を入手することができ、かなりラッキーなスタートを切れた。


「まあこんなもんだな」


 bot自身は満足いっていない。

 しかしコメント欄は驚きで溢れていた。


“な、何だよ今の動き!”


“炎なんて使ってねえじゃん”


“容赦のない動き……凄っ”


“無駄のない洗練された動きですね”


 botは圧倒的な身体能力の高さを武器にしていた。完全に身体能力と過敏な動きに関してはナナシー以上で圧倒的なポテンシャルを引き出す、だけどそれは同時に、botが普通ではないことを突きつける。


「にしても張り合いないな」


 botからしてみれば、もっと強い相手とやりたかった。

 ナナシーやカエデと違ってbotは体力が有り余っている。ダンジョンによる作用でbotの身体能力は比べ物にならない程に飛躍していた。

 

「まあ、こんな感じで先進んで行きますわ」


 botはノリノリでダンジョンの奥へと向かう。

 暗いダンジョンの中をカメラドローンのライトとbotの能力で点火した小さな炎が鏡のような作用を生み、強烈に明るくなった。


「スライム以外にモンスターはいないのか?」


 さっきから最初に出会った青いスライム以降、モンスターを見かけていない。

 洞窟の中は人があまり歩いていないせいもあり、ゴツゴツしていて歩き難い。

 botの走るためのシューズでは絶妙に絡まってしまい、適宜石ころを蹴っ飛ばして砕いた。


「マジで歩き難いな。ダンジョンって感じがしてウズウズするぜ!」


 botは楽しんでいた。楽しくて仕方なかった。

 ダンジョン感が強くて、未知を探究していた。

 おまけに言えばナナシー達とは違う色を見せてくれる。安全第一とは真逆の世界で、botはニヤニヤが止まらない。


“なんか楽しそうだな”


“こんな場所を楽しめる冒険魂”


“精神力ヤバっ”


“何であん時はカエデさんを助けんかったん?”


「アレは……俺は咄嗟のことにまだ回る頭はしてねぇんだよ」


 botは嫌な記憶を思い出した。

 あの時は突然のことで動けなかった。それなのにナナシーは凄い奴だ。俺の親友は最高って言ったら良いんだろうけど、botは悔しくもあった。


(俺も動けたらな)


 botの顔色が悪くなる。

 すると目の前を何かが飛行する。


 バサバサ!


 おっきなコウモリが飛んでいた。

 botはウザいなと思い、拳を振り上げて炎を纏って弾き飛ばした。


「邪魔だ」


 コウモリは抗う術もなく弾き飛ばされた。

 翼が焼け焦げてしまい、完全に動かなくなると地面に魔石が転がる。


「おっ? 魔石じゃん、ラッキー!」


 botは魔石を拾い上げる。小さなウエストポーチの中に突っ込むと、botは再び歩き始めた。

 その光景を観ていた視聴者達は絶句する。


“嘘だろ”


“飛んでるコウモリを落としたってマ?”


“馬鹿げてるぜw”


“炎出たんですけど!”(700円)


“最強じゃん!”


“これってもしやナナシーさんより強いとか?”


 コメントが荒れていた。悪い意味でもなく、普通にザワザワしていた。

 botはこの喧騒を面白いと思った。

 だけど面白いモンスターは全然来ないので、ちょっとだけ退屈していた。


「何かおもろいことねぇかな?」


 botは退屈を堪能していた。

 だけだその間もモンスターは出て来ていて、コウモリやスライムと言ったありきたりなモンスターばかりでつまらない。

 そのせいで、炎の壁を張るだけで近寄らないようにしていた。


 そこまでできているのに気が付いていない。

 それもそのはずbotは異様な声を耳にしたからだ。


「だ、誰かぁー! た、助けてくださぃ!」


 botは一瞬立ち止まる。

 今の声は何なのか? 絶対に誰かピンチのはずだ。

 botは危機感を感じ取ると、カメラドローンが追いつかない速度で駆け出す。前もって行動していたおかげでbotは手早い動きで、とにかくダンジョンの奥へと爆走する。


「なんだなんだ! 誰かヤバいのか?」


 その動きは人命救助を目的としていた。

 真剣な姿にコメント欄では“は、早い”とbotの動きを表現した。

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