第47話 一緒に来ることにした

 名梨はヴラドと一緒にダンジョンを戻っていた。

 とりあえず蔵に戻ることにした。


 名梨はマッピングも得意だ。

 この手のことはゲームで慣れていた。


 ヴラドと一緒に入って来たところまで戻ると、明らかに異色のものがあった。

 天井から伸びていて、空洞が開いていた。


「とりあえず梯子から上に上がるぞ」

「上?」


 ヴラドが首を捻った。

 目の前には金属製の梯子があった。


「そうだ、ここは俺の家の蔵だからな」

「蔵の中にダンジョンがあるの?」

「それを言うな」


 本当は名梨が一番言いたかった。

 けれどそれをここまでずっと押し殺して来たのだ。


「ちなみに一回ヴラドのことはダンジョン調査課に連絡するからな」

「ダンジョン調査課って?」

「ダンジョンを管理している省の管轄の組織だ」

「ふぅーん」


 ヴラドは興味無さそうだった。

 もちろん名梨にだって無かった。

 けれど関係はあるので、とりあえず連絡だけは一言言っておいた。


「ここが蔵の中?」

「そうだ」

「色々ごちゃごちゃしてる。でも面白い」

「そうか」


 蔵の中に戻って来た。

 面白いとは言って貰えたが、確かに良く分からないものの宝庫となっていた。


 名梨は腰に手を当ててこう思った。


(そろそろ整理しないとな……)


 絶対に捨てても良いものもあった。

 とは言え久々に入ったのでこの木刀だけは持って帰ることにした。


「そう言えばその木刀、凄く良いもの」

「コレか? 多分修学旅行のお土産だな」


 京都にあるあの映画村で買って来たもののはずだ。

 もちろん名梨が買ったのではない。

 名梨の母親が買って来たもののはずだ。


 とは言え凄く綺麗だった。

 今回使わなかったが、それなりに切れ味も良さそうだ。


「ダンジョンの気配を感じる。多分、ダンジョンの出土品」

「はぁ?」

「はぁじゃない。多分……ううん、合っている」


 ヴラドは確信を持っていた。

 とは言え名梨の知った話では無かった。


 もしかしたら母親が勝手に持って来たのかも。

 名梨は頭が痛くなった。頭痛が痛くてしんどかった。


「まあ良いか」


 考えることも億劫になった。

 名梨は忘れることにして、とりあえずやるべきことを済ませた。


「とりあえずは……」


 名梨は一点を見つめた。

 蔵の扉だったが、鍵は内側から固く閉ざされていた。


 もう扉を叩く音はしなかった。

 低い重低音が聞こえて来なかったが、ヴラドは気配を感じていた。


「誰かいる」

「分かるのか?」

「当然。年気が違う」


 それはそれで年齢詐称が過ぎた。

 名梨は蔵の鍵を解き、外に出る事にした。


「いいかヴラド。気を付けろよ」

「えっ!?」


 ヴラドは変な声を出した。

 ちょっと低かったが、気にせずに扉を開けた。

 すると久々に青空を見た気分になり、眩しかった。


「あっ、やっと出て来たわね!」


 そこにいたのは菜廼だった。

 ずっと座って待っていたのか、扉が開くや否や鋭く睨み付けてきた。


「ちょっと、急に蔵の鍵を閉めるなんて何よ!」

「悪い」

「悪いじゃないわよ。反省の色が全く見えないんだけど?」

「すまない」

「だから……って、その子誰よ?」


 名梨は胸ぐらを掴まれていた。

 しかしヴラドのことが気になると、急に手を離された。


「おっと」


 名梨は伸びた服をピンと伸ばした。

 それからヴラドに抱き付く菜廼に絶句した。


(嘘だろ……初対面だよな?)


 名梨は信じられなかった。

 楓とかと似たタイプでは合ったが、何に感銘したのか分からなかった。


「貴女何処から来たの? とっても可愛い!」

「ん? ダンジョンの中から」

「ダンジョン? 何それ」

「知らないの?」


 菜廼は知らなくて当然だった。

 首を捻り目を丸くしていた。


 ヴラドはヴラドで困惑していた。

 当然抱きつかれたので当たり前ではあるが、嫌がる様子は見せず、流れに身を任せていた。


「名梨、まさか変なことしたんじゃないでしょうね!」

「してない」

「それじゃあ如何して蔵の中にこんな可愛い子が居るのよ!」

「俺が聞きたい」


 ダンジョンが如何して蔵の中にできたのか、それから木刀に魔力的なものが宿っているのか。

 分からないことだらけで混乱していた。


 そんな名梨のことなど露知らずで、菜廼は質問を攻め立てた。

 名梨はウザいと思い、適当な返事を繰り返すと足を蹴られそうになった。


 慌てて避けると、ヴラドと目が合った。

 困惑しているのはヴラドも一緒なので、名梨は咳払いをした。


「とりあえずだ。分からないことが多いが、一つ確認が取りたい」

「確認って何よ?」

「お前じゃない。ヴラド!」


 菜廼が返事をしたので、軽くあしらった。

 それからヴラドに話を移すと、首を捻った。


「これから如何するんだ?」


 名梨が尋ねるとヴラドは正眼を見据えた。

 それから淡々と口にした。


「私はこの世界のことを知らない。行く場所も無い」

「そうだな」

「もちろん知り合いもいない。だから私は当面の間は名梨と一緒に居ることにした」

「そうか……俺と一緒に来るのか。面倒だな」

「そう言わないの。何なら私と一緒に来る? ヴラドちゃんだっけ。可愛いから、私と……」

「ううん。名梨の方が面白そう」

「ぐはっ!」


 菜廼に強烈な一発が入った。

 完全に振られてしまい、撃沈すると動かなくなった。

 放心状態と言うやつで、真っ白に燃え尽きたように見えた。知らんけど。


「俺と一緒に来るなら好きにすればいい」

「そうする」

「だがお前も共犯だ」

「共犯?」


 ヴラドは分かっていなかった。

 もちろんあくまで比喩的なことで、名梨はダンジョンのことを伝えた。


「多分お前は巻き込まれるぞ」

「巻き込まれる? 誰に」

「俺の友達にだ」


 名梨は熱志と楓のことを間接的に伝えた。

 しかしヴラドは気にしていないのか、それとも会ってこともないので分からないのか、呆然としていた。


 とは言えもう決めていた。

 ヴラドは否定することはなく、今更変える気もなかった。


「そう。それならそれでもいい」

「いいのか」


 名梨は残念だった。

 顳顬こめかみを押さえると、変な同居人が出来てしまったこと面倒な手続きを踏む羽目になったこと、色んな意味で疲れそうだった。


 とは言え、それと一つ乙と言えた。

 名梨は半端に諦めムードに浸り、ドライな笑みを浮かべていた。

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