第15話 叫び声が聞こえたので行ってみた。
“今、何か聞こえなかったか?”
コメントが気になることを告げた。
「何か聞こえた? 何が聞こえたんだよ」
botはスマホの配信画面を見ると、コメント欄で不気味なコメントが上がっていることに気が付いた。
ナナシーも不気味ではなく不思議に思ったが、確かに何か聞こえたような気がした。
「なあナナシー。何か聞こえたか?」
botはナナシーに尋ねた。
するとナナシーは首を捻りつつも、一応コクコクと首を縦に振った。
「マジかよ。じゃあ俺だけが聞こえなかったのか?」
不安に思ったbotはコメント欄を凝視した。
しかしほとんどの視聴者が聞こえていなかったらしい。
「ほら、聞こえてねぇじゃんか!」
botは自分が多数派だと分かると、食い気味にナナシーに喰らい付いた。
しかしナナシーは気がした程度なので、何とも言えなかった。
(だけど気になる……何でだろ)
ナナシーは身に覚えのないざわめきが腹の内側からノックしていた。
暗いダンジョンの奥を睨み付け、頭の中で「行け!」と訴えかける。
「何がソワソワしてんな」
botがカメラに映りたがらないナナシーの動きを解説した。
コメントはナナシーのことが気になっていた。
“ナナシーさんがソワソワしてる!”
“観たいわー”
“似顔描いてぇー”
“でもナナシーさんがソワソワしてるってことは…何かある?”
コメント欄もざわついていた。
botも自分が多数派であるはずなのに、ナナシーの顔色を窺う。
これからダンジョンの奥を見つめ、「如何するよ?」と尋ねた。
(如何すると言われてもな……何だこの胸騒ぎ)
前にもこんなことがあった。
ナナシーは唸り声を上げながら、顎に手を当てて考える。
その姿を見たbotは腰に手を当てた。
ナナシーの姿を見て思うところがあったらしい。
「まあ何だ。お前がその顔色になるってことは、何があるんだな」
ナナシーは首を捻った。
そんなに変な顔をしているのだろうか、ナナシーはスマホの画面で自分の顔を映した。
(別に変な顔でもないと思うが……)
ナナシーはbotに聞いてみようと思った。
しかしbotはナナシーは答えを待っているようなので、まずはそっちを片付けることにした。
(とりあえず行ってみないことには分からないからな。この胸騒ぎが何であれ、行けば分かる)
ナナシーは結論を出していた。
コクコクと首を縦に振ると、botは
「そっか。行くんだな」
botがそう言うと、コメント欄が流れた。
期待するようなコメントがたくさん投下された。
“おっ、ついにダンジョンの奥に行くんだな!”
“楽しみ”
“音の正体は何なのかな?”
“とりあえず投げ銭しときます”(555円)
「投げ銭あざーっす! んじゃ、早速奥まで行ってみっか!」
botはコメントを読み、ナナシーはカメラを回し直した。
カメラドローンの調子も良く、ダンジョンの奥を映しつつ、botの姿も同時に捉えた。
「それよりさ、さっきのバトル良かったくね? おっ、みんなも楽しんで貰えたんだな。良かったぜ! 高評価お願いしゃす!」
botは画がほとんど変わらないので、間繋ぎを始めた。
さっき見せた炎によるヤドカリの一掃をネタにできるだけ話を引っ張る。
けれどコメント欄でも好評なことは変わらずで、逆にナナシーの能力を気になっている人が多かった。
“ナナシーはの能力も気になります!”
“ナナシーも戦って!”
“能力ってどんなのがあるんだろ?”
“チートみたいな能力ってあるんかな?”
“もしかして超雑魚能力だったりして…w”
“ラノベ主人公じゃん!”
いい加減なことばかり言われてしまった。
けれどナナシーは特に傷付く様子もなく、コメント欄を見ていた。
するとbotが代わりに食い付き、「へぇー」と唸る。
それからナナシーの顔色を窺い、カメラ目線で願望を口した。
「まあそのうち見られるんじゃね? なぁ、ナナシー!」
botがナナシーに話を振った。
確かに能力は気になるが、きっとカメラ外で使うことになる。
だから映像に残ることは無いなとナナシーは失笑した。
botや視聴者も分かっていたことなので、乾いた笑いを浮かべていた。
すると突然、ダンジョンの奥から何か聞こえた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ダンジョン内を進むナナシー達の耳を突然の声がつんざいた。
空気を震わせ、脳に直接危険を知らせた。
しかもかなり切羽詰まっていた。
それこそどれだけ違うことに意識を割いていたとしても、自然と視線が向いてしまうだろう。
不意にナナシー達の足が一瞬止まる。
理解する時間を多少必要としたものの、すぐに結論が出た。
間違いなく、今のは叫び声だった。
やっぱり俺の胸騒ぎは当たっていたと、ナナシーは嬉しくない確信に奥歯を噛んだ。
「おいおい、今のマズいだろ」
botも只事ではないと分かり、表情に焦りが見える。
コメントなど見ている暇もなく、ナナシーとbotはとにかく力一杯走った。
「ナナシー、今の声って!」
聞かなくても分かるはずと、ナナシーはアイコンタクトを送った。
「だよな」
botも嫌な想像が脳裏をよぎり、ナナシーの体を掴んだ。
空いた左手で炎を噴射し、一気に距離を稼ぐ。
ダンジョンの奥を目指してナナシーは進み、開けた場所に出た。
高い天井に円形の空間が広がる。
しかしそれよりも目に付くものがあった。
目の前で少女が倒れ、灰色のモンスターに襲われていた。
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