第19話 出発
「……ートワン、日の出を確認。昨日の日の出から二十五時間四分三十一秒だったよ」
「ん…… じゃあその時間を一日として設定。今の時間を午前五時としてスタート」
「わかった」
俺は処置室の二段目のベッドで寝ていたところをギャレットに起こされた。
寝たままTCを持ち上げ目の前で画面をタッチするとトラックの周囲の画像が四分割で出た。
明け方か…… こんなに早く起きなくてもいいんだけど、夕べも早く寝たしな……
一人で高級ウイスキーを飲んでいたら早い時間に酔ってしまい、すぐに寝たんだっけ。
で、ギャレットの報告では一日の時間は約二十五時間か。地球との違いは一時間。体に影響がでるほどの違いではないと思われるし、たとえ影響があったとしても俺には何もできないしな。気にしないでおこう。
コックピットで朝食を終え、食後のコーヒーを飲んでいるときだった。
「レポートワン、搭乗口前でカリョとマーツェが呼んでいるよ」
何だ? 入ってくればいいのに。
仕方なくコックピットを出て搭乗口を開けて顔を出す。
「どうしたの?」
『カバンが大きくて上がれない』
カリョは少し困った顔を見せている。姉妹はそれぞれが大きなスーツケースのような角ばったカバンを持っていた。マーツェは目を輝かせての笑顔だ。両親の許可が出たんだな。
カバンの大きさからすると搭乗口から持ち込むより怪我人収容用のリフトからの方が楽そうだ。
俺が外に出て怪我人用のリフトから姉妹の荷物を処置室に入れ、置き場所を三段目のベッドにしたら二つのカバンはベッドの半分近くを占めてしまった。
この旅は姉妹と一緒に三段ベッドで寝てもいいのかなと思っていたが無理そうだ。また通路で寝ることになるのか。
カリョが俺の案内と通訳で王都メゼズに行くことについて両親は反対どころか”お役に立ってきなさい”と言われたらしいが、マーツェは”必要ない”と反対されたそうだ。マーツェが声を大にして”私も行く! 神の国の兵士様がいるのに危険なんてないし、憧れの王都へはこの機会を逃したらいつ誰が連れて行ってくれるの!?”と両親を押し切ったらしい。明らかに観光目的ですね。でもOK。俺もカリョと二人きりだと落ち着かないから。
持ち帰ったプラボトルや使い捨ての食器などは両親が喜んだそうだ。特にプラボトルは”こんな綺麗で珍しいものは王だって持っていないんじゃないか? 人に知られたら盗まれるかもしれない”とかで隠しておくことになったそうだ。
そういえば歓迎会の時に出したウィスキーの四リットルプラボトルは空になったら燃やしてくれと言ったら驚かれ、村で大切に使わせてもらいますと村長のバルマに言われたんだっけ。
宴会の時のバルマが持っていたのがガラスコップのようだったが、この世界のガラスは透明度が低そうだ。水のプラボトルは民間のやわらかい物とは違い、軍用の硬質ボトルだから繰り返し使えていいかも。
何泊の旅になるかわからないが衣類の洗濯をすることになるだろうから姉妹には洗濯乾燥機の存在を教えた。シャワールームの洗顔ボウルの下に薄型で容量の小さい洗濯乾燥機があるのだが、使い方はあとでギャレットに動画を見せてもらうことにする。
村を出るとき姉妹の両親に挨拶しに行って「娘さんたちをお預かりします」と言ったらカリョが赤い顔して小さい声で『それは結婚しますと同じ意味』だと言い、それは通訳せず別の言い方に変えてくれた。
隊長にも挨拶しに行った。『この国のためにお願いします』と言われたが俺はほとんどカリョとマーツェのために動いているような気がする。
村を出るとき、俺たちが王都に向かうと知ったほぼ全員と思われる村人が出てきて手を振って見送ってくれた。
俺たちを乗せたトラックは村の入口を出て右へ行く。俺たちは左から来て村に入った。盗賊の奴らも左から来た。右に出てとりあえずは道なりに進む。
「ギャレット、道なりに徐行で進んで、分岐があったら教えて」
「オッケー」
微速が時速十キロ、徐行は時速二十キロぐらいだ。カリョの馬車のスピードが時速八キロくらいだっただろうか、それにくらべれば徐行でもだいぶ速い。道にデコボコもあるし急ぐ旅でもないのでゆっくり行くとしよう。
時々馬車やゴーレムトラックとすれ違ったり追い越したりしたが、ゴーレムトラックは木の板で覆われていて補給トラックの半分ほどの長さの車両を二つ繋げてあり、全体としては補給トラックより少し短く少し高いくらいの大きさだ。
前の車両の中に魔法師とゴーレムがいて、後ろの車両が荷車らしい。気になるのは引いているゴーレムがいるであろう車両の前半分が
「なんでゴーレムの周りを簾で覆っているの?」
姉妹のどちらというわけでなく聞いてみるとカリョが答えてくれた。
『トラックを引くゴーレムは土に布を巻いてるだけで鎧を着ていないから太陽の熱や風で土が乾燥しすぎるのを防ぐために簾で覆っていると聞いたことがあるよ』
なるほど、村の入り口の二体は全身鎧を着てたから野ざらしにできるのか。
ほかに時間についても教えてもらった。一日は十二等分にされ朝日が出る頃が一の刻で二の刻、三の刻と続くが、それより小さい単位は”半”だそうだ。五の刻半とか言うらしいが感覚で計るので正確ではないらしい。一の刻から八の刻までは鐘が鳴るからわかるそうだ。村では村長が水時計の管理をして鐘を鳴らしているのだとか。そういえば村にいたときも時々鐘の音が聞こえていたかも。
そんな話をあれこれしていたら分岐が見えてきた。
「カリョ、どっちに行くの?」
『たぶん左』
「たぶん?」
『そう左、右は領主様の住む街ジルデッグに続くからたぶん左』
カリョはどこか自信なさげで少し困った顔して目の行き場が安定していない。
マジか。もしかしたら道をよく知らないで案内するって言ったんじゃなかろうか?
「王都までの道は知ってるの?」
『――知らない。けど方角は知ってるよ』
『えー! お姉ちゃん知らないで案内するって言ったの!?』
マーツェの驚きの声がデカイ。ばつの悪そうな顔で黙り込むカリョ。
カリョは王都に行きたくて道を知らないのに案内するって言ったんだな? いまさら問い詰めても仕方ないか。
妹に比べたらおとなしい印象だがときに大胆な行動にも出るのだろうか?
「領主の街には国の地図を売っているところはあるかな?」
『あるよ。ジルデッグには何度も行ったことあるし』
カリョの表情が明るくなった。地図さえあれば道を知らないで案内すると言ったことは無かったことになるとでも思ったか?
「じゃあそのジルデッグで地図を買おう…… あ! お金がなかった……」
俺は無一文だった。この世界のお金を持っているはずがない。寝る場所も移動手段も食料もあったのでお金のことを全然気にしていなかった。
『私出すよ。お金持ってきているから』
カリョは責任を感じて言ったのだろう。が、隊長から案内人の日当を貰っておくべきだった。
「そう、助かるよ」
女の子にお金を出してもらうのは気が引けるがそんな事を言っていたら先に進めないのでここは借りておくことにした。
ジルデッグまでは村から歩いて半日かからないと言う。十五キロくらいか? いまのところからだとあと三十分ぐらいで着くと思われる。
「途中に川か湖か水を汲めるところはない?」
『あるよ、ナールメイ川がある』
「ギャレット、川が見えたら教えて」
「はい」
それから五分ほど走るとギャレットが川があると教えてくれた。ドローンからの映像を元に川べりまでカートで下りられそうな場所を探してもらいトラックを向かわせる。
川幅は二十メートルはあるだろうか、背の高いヨシのような植物が川べりを覆っている。その中に誰かが作った道があり一帯が砂利に覆われている場所に到着した。川は透明で穏やかな流れだ。
「カリョ、マーツェ、水を汲んでくるから待ってて」
『『私も行く』』
挿絵「ゴーレムトラック」
https://kakuyomu.jp/users/miyahahiroaki/news/16817330650518373326
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