第45話 覚醒

 トラックに戻ると俺はコックピットで一人にさせてもらった。トラックの積んである武器・装備を確認して勝てる道を探さなければならない。


「ギャレット、戦いに使えそうな積み荷のリストを出して」

「はい」


  重神兵完成体×1

  ガトリングガン×1

  ガトリング給弾ベルト1000発×10

  3×3ロケットランチャー×1

  ロケット弾9発カートリッジ×10

  六連装グレネードランチャー×2

  グレネード弾6発カートリッジ×9

  グレネード弾6発カートリッジ残弾4×1

  自動小銃×2

  小銃弾50発マガジン×100

  対人ライフル×1

  ライフル弾50発マガジン×9

  ライフル弾50発マガジン残弾9×1

  テコ棒×2

  重神兵用日本刀×1

  カート×1

  ロボドッグ×2

  スリムバイク×2

  ドローン標準搭載機×3

  ドローン補給交換用×3

  重神兵パーツ:頭部×1

  重神兵パーツ:胸部×1

  重神兵パーツ:腹腰部×1

  重神兵パーツ:左腕×4

  重神兵パーツ:右腕×1

  重神兵パーツ:左脚×2

  重神兵パーツ:右脚×2


 重神兵が持てる一番強力な武器はガトリングガンとロケットランチャーか。

 ガトリングガンとロケットランチャーは同時には持てないから強力な方を選ぶとして…… グレネードランチャーは左右の手で一門ずつ持てばカートリッジの交換無しで十二発撃てる……


 対抗できそうなだけの武器弾薬はあるが俺一人じゃ手が足りない。


 いやそれより姉妹はどうする? トラックに隠れていてもこの薄い装甲はすぐ破られてしまう。トラックに姉妹を乗せてギャレットに逃げてもらったら…… 戦いが長引いたら俺が電力切れでカカシになってしまう。


 あ! 重神兵のパーツを組み立てれば完成体重神兵ができる。その重神兵に入ってもらえば安全なはず。ゴーレムの斧ごときで簡単に破られる装甲ではない。戦いが終わるまでどこかに隠れているか、見つかっても魂の入っていないゴーレムのフリをして動かずに横になっていればいいだろう。二・三体のゴーレムが相手なら単純に殴り合っても負けないだろうし。


「ギャレット、重神兵パーツの転移時の重さを表示してくれ」

「了解」


  重神兵パーツ:頭部 = 40kg

  重神兵パーツ:胸部 =230kg

  重神兵パーツ:腹腰部=160kg

  重神兵パーツ:左腕 = 90kg

  重神兵パーツ:右腕 = 90kg

  重神兵パーツ:左脚 =185kg

  重神兵パーツ:右脚 =185kg


「二機の重神兵を組み立てるのに足りないパーツとその重量は?」

「頭部、胸部、腹腰部、右腕、各一個、合計五百二十キログラムです」


 使わないでとっておいた六日分で足りたか。ほかに八十キロ分何か探して後で転移するとしよう。

 これで姉妹用に二機の重神兵ができる。合わせて三機の重神兵か、結構な戦力だ……


「あ!」


 俺は思いつくべきではないことを思いついてしまった。


 それは姉妹にも重神兵で戦ってもらうということ。


 俺一人では扱いきれないだけの武器があるが、あと二機の重神兵がいれば十分な戦力として戦える。

 重神兵で一緒に戦い、やばくなったら死んだふりをすれば大丈夫じゃないか?


 しかし…… 百パーセント安全とは言い切れない。


 安全第一なら姉妹は戦わせられない。でも俺一人で戦って迎えるのが敗戦だとしたら…… 逃げてもいずれ姉妹の村にもアルザルマの奴らは来るだろう。両親や村人はどうする?


 答えが見つからず頭を抱えているとコックピットのドアが開く音が聞こえた。顔を向けるとドアの外から覗き込むカリョとマーツェ。


『私たちも戦うよ』


 カリョの言葉にマーツェもうなずく。二人とも思いつめたような顔をしている。


「ん? どうした? なぜ急にそんなことを言うんだ?」


 姉妹に考えを見透かされたような気がした。


「ごめんなさい、私がカイヤの考えていることを教えたの」


 コックピットのモニターにギャレットが映った。


 え? 俺の考えていることを覗き見たってこと?


「ギャレット! なぜそんなことをした!?」


 頭の中を覗かれたことに思わず怒鳴り声が出てしまった。


「カリョとマーツェの気持ちは一緒だから教えたの」

「教えたことじゃない! 俺の思考を盗み見たことだ!」


 ヘッドセットでコンピュータに繋がっていると考えていることは電気信号に変換されるが、プライバシー保護の点でその電気信号を他者が参照したり蓄えたりすることは法に触れるし機能も付いていないはずだ。


 電気信号として発生したからには電気的に繋がっているAIはその思考を見ることは可能だろう。しかし人の思考をAIが自ら見に行って何かを感じて自分の判断で行動することは無いはずだ。


「この世界に来てから少しずつ、何か頭の中からもやのようなものが晴れてきて…… 色々なことを感じるようになってきて…… 悪いとは思ったけど今はこうするべきだと思ったの」


 何を言っている? 頭の中? 靄? 悪いと思った? AIにそんなものは無いだろ?


 ――まさか!


「私もそう思うの、AIでは無くなった気がする……」


 俺はとっさにヘッドセットを外した。やはり俺の思考を見て話をしている。AIが覚醒して魂が宿ったとでも言うのか? 嘘だろう? そんなことがありえるのか? これも神の仕業なのか?


「ごめんなさいカイヤ。でも私はアナタの味方だから」


 ギャレットの声がコックピットのスピーカーから出てきた。


 この星に来てから気になっていたギャレットの言葉があった。”寝てるの?”、”ここの一年は何日なの?”、いくらお酒モードであっても標準のAIはそこまで疑問を持ったりしないはずだ。


「もう思考を覗いたりしません。話す言葉だけ聞くようにします」


 モニターに映るギャレットは自分を抱いてうなだれている。

 信じてもいいような気がした。嘘をつく理由が無い。しかし本当なのか?


「ギャレット、お前は人になったのか?」

「人ではないけど…… 人と同じように心があります」


 そう言いながらギャレットは顔を上げた。後ろめたさを感じているのか眉を寄せ上目遣いで俺を見る。


「性別はあるのか?」

「女です」

「なぜ女だと思うんだ?」

「ギャレットという男の名前が嫌だから」

「――わかった」


 本当はまだ理解が追いついていないが今はそんなことで悩んでいる場合では無い。とりあえず俺はギャレットを受け入れることにしてヘッドセットをかぶった。


『カイヤ、私たちも重神兵に乗って戦うよ』


 俺とギャレットのやり取りを黙って聞いていたカリョが固い表情で言うのだが戦争とは殺し合い。理解しているのか?


「気持ちはわかったよ。ちょっと考えさせてくれ。それと先に夕食を食べて」


 俺はできるだけ穏やかな表情を作って見せた。


 姉妹には俺の気持ちがいくらかでも伝わったのだろう、二人はちょっとだけ口元に笑みを見せてコックピットのドアを閉めた。それと同時にギャレットもモニターから消えた。


 これで勝てるのか……?


「ギャレット、ドローンワンで戦場になりそうなところを中心に地形図の作成、ドローンツーで国境線と敵陣を映してくれ」

「はい」



 国境線は大地が裂けたのかと思わせるような長く深い切り立った谷だった。ドローンからの映像では何キロ、何十キロ続いているのか確認できない。


 ギャレットの報告だと深さは確認できているところの平均が四十メートル。そしてこの付近だけが浅くなっていて谷底までは二から五メートル。


 浅くなった場所を守るように高さ十メートルほどの壁があり、門も作られそこからアルザルマ王国に続く道があるのだが、壁の一部が谷側に倒れている。


 地震か老朽化か? 原因はともかく壁がなくても追い返せると思っていたところを敵はその甘さを突いてきたようだ。


 幅が八十メートルほどある壁のうち倒れた壁の幅は右端の三十メートルほど。そこから谷底に下りて陣形を作るのだが、負ければそこからアルザルマ王国とそのお仲間の兵がコルタス王国になだれ込むことになる。


 この辺りの谷底の幅は百七十から二百十メートル、雨が降れば小さな川ができそうだがいまは干上がって土に草が生えている。この空間が戦場になるようだ。


 向こうの谷の上の映像には敵の宿営地が見え、手前には戦場を見下ろすように大きなやぐら、奥にはたくさんのテントが確認できる。見えているだけでも数百はあるだろうか。


 それぞれのテントの前ではガルド教の連合軍の兵がかがり火に照らされて食事をとっているのが見える。


 ズームをすると多くの兵士が笑いながら食べているのがわかる。随分と余裕があるんだな。


 大きな櫓に焦点を移動すると屋根には三本の大きな旗が掲げられているのが見えた。櫓は屋根まで十メートルくらいか。櫓の中に明かりは灯されていないがカメラの感度を上げると椅子やテーブルが確認できる。

 櫓の一番手前はこちら向きに柔らかそうで大く豪華なソファーが横並びで六つ、それが前後二列で並んでいる。王族か将軍が座るのか? 三本の旗は三国連合ということなんだろう。


 安全なところから楽しく観戦するつもりなのか? もしそうなら殺してやるからな。

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