第55話 宇宙(そら)を越えて
翌日、戦勝パレードへの参加は断っていたので日の出とともに王都メゼズを出て、トラックは昼前に姉妹の村のエグリバに到着。
到着前から村人が村の入口に集まり俺たちを待っていた。
コルタス王国が勝利したことは俺たちが王城に行っているあいだに国中に広まったのだろう。
誰かが物見櫓から見ていて俺たちが戻ってきたことを村中に知らせたようだ。
俺と姉妹とキャサリンがトラックを降りると村長のバルマや村人に囲まれた。輪の後ろには姉妹の両親も見える。バルマにはいきなり右手を取られ両手でがっちり握手された。
「カイヤ様! ありがとうございました! 大量の兵士が逃げたという知らせを聞いたときは本当に絶望したのですが、カイヤ様が敵のゴーレム部隊を殲滅し、そして神様をお呼びになって天罰を下されたと聞いたときは喜びのあまり村中お祭り騒ぎになりました」
「うん、この姉妹の協力や仲間が応援に来てくれたりしてなんとか勝つことができたよ」
カリョは自分の事も言われてやや恥ずかし気に通訳した。
「なんとかじゃないでしょ? 圧倒的だったと聞いてます」
「ん…… そっか、そうだね」
「本当にありがとうございました」
バルマのほか、村人も笑顔に涙がにじむ。結果からすれば圧勝だったけど勝ててよかった。
「で、その応援の仲間と言うのはそちらの美しいお嬢さん?」
「そう、名前はキャサリン。俺の国から応援に来たんだ」
『キャサリンです。よろしくね』
「「「「「「オォォォ」」」」」」
笑顔で挨拶してみせるキャサリンの名を聞くなり村人全員から声が漏れ、そしてひざまずいて頭を下げた。神の名も伝わっていたらしい。
「あ! 違う違う、神様は名前を持たないから人に分かりやすいようにとキャサリンの名前を借りたんだよ」
俺の言葉に顔を上げる村人。皆キョトンとした顔だ。そしてマジマジとキャサリンを見る。神らしい雰囲気などどこにもないただのグラマラスな美女だ。
「おお、そうだったんですか」
安心したらしくバルマがそう言いながら立ち上がると、他の村人も「なんだぁ」とか「びっくりした」とか言いながら安心した表情を見せ立ち上がった。
『ごめんなさい、最初に話しておくべきでしたね』
そう言いながら笑顔を振りまくキャサリン。デレッと若くない男たちの鼻の下が伸び、何人かは隣の妻らしきおばさんに睨まれる。
村人へ話の詳細はマーツェにまかせ、バルマには王からの連絡書を見てもらった。
連絡書には俺にコルタス王国の名誉市民権が付与されたことと、エグリバでの居住を認められたことが書かれてある。バルマには以前トラックを止めた場所にまたトラックを止めることを認めてもらった。
しばらくはそこを拠点としてどこか適当な土地を探して家を建てるか、それともこの世界を見て周る旅に出るかを考えたい。
夕方――
祝勝会が村の中央通りで開かれた。俺たちが村に戻って少しするとマーツェが祝勝会をすると言い出し、バルマの指示のもと買い出し隊が編成されてジルデッグに馬車を走らせていたのだ。当然だが酒だけは俺が地球産を用意した。
たくさんのテーブルが通りにUの字で並び、その外側にかがり火が灯される。
不揃いのイスとテーブルは村中の家庭から持ち寄ったものだそうだ。そのテーブルの上には沢山の料理と酒、そして花の飾りが並んだ。
俺と姉妹とキャサリンは主賓として歓迎会のときと同じくUの字の底に当たる場所に座らせられた。席順は後ろから見て左からキャサリン、カリョ、俺、マーツェ。
俺たちの前、左右に二本のテーブルの列があるが、左の列は一番近くにバルマ。右のテーブルの列は一番近くに姉妹の両親が座っている。
そして俺たちの後ろには勝利のシンボルとして二機の重神兵を立たせている。ガルド教連合軍との戦いは俺とキャサリンが中心となって戦い、姉妹は安全な場所からサポート。そして最後は神が天罰を下したと村人には説明していた。
俺はモスグリーンの戦闘服を着て姉妹は地球産のドレスに王都メゼズで買ったアクセサリーを付け、派手すぎない化粧をしての参加。カリョが白にベージュとピンクでマーツェが黒のフリフリドレスだ。
カリョのドレスは酒と一緒に転移した新しいもので、運よく好みのものが見つかって良かった。
キャサリンは大人の色気たっぷりの化粧にアクセサリー無しで真っ赤なピチピチ悩殺ワンピース。そのワンピースももちろんカリョのドレスと一緒に転移したものだ。村の女たちの刺すような視線を受けてもキャサリンは物ともせず、平然としている。
姉妹とキャサリンが会場に登場したとき、キャサリンは小さい男の子から老人までの男たちに囲まれ、綺麗だのスタイルが良いだの、俺がもう少し若かったらとか、男たちのお世辞とアピール合戦のような状態になっていた。
姉妹はというと小さい女の子から老婆までの女性たちに囲まれ、綺麗だの可愛いだのウチの息子の嫁にとか言うおばさんもいた。その息子はまだ国境にいるかアルザルマ王国に乗り込んでいるかそれとも逃げたかのどれかのはずだ。
会場は百数十人の子供から老人まで村人総出の大賑わい。「早く始めろ」の声でバルマが開始の挨拶を始めた。
「え~、本日は対ガルド教連合国戦の祝勝会にお集まりいただきありがとうございます。グレイン王から費用が出ましたので、遠慮なさらずカイヤ様を囲んで大いに飲んで食べて盛り上がってください」
バルマの挨拶が終わると歓声が上がり皆飲み食いを始めた。すぐに何人もの村人が俺や姉妹の席まで陶器のコップを持って乾杯をしに来たが、俺よりキャサリンとカリョの方に集まっているのは仕方ないのか?
カリョが自分の対応に忙しいときはマーツェが俺の通訳をしてくれ、村人に個別に対応し酒が進んで場が盛り上がってきたころ、村人の中から声が上がった。
「カイヤ様! 何か話すことはないんですか!?」
「そうそう! スピーチスピーチ!」
俺にスピーチの要求ですか。まぁ俺としても報告することがあったのでちょうど良かった。
俺が立ち上がりカリョも通訳として立ち上がると村人全員の拍手喝采を浴びた。
んー、ちょっと恥ずかしい。
俺は会場を見渡し静まるのを待ってから口を開いた。
「えー、このたびは負けると思われていた戦いに勝てて本当に良かった。
負けを覚悟しなければならないほどの圧倒的な戦力差だったのは皆も聞いていたと思う」
村人たちは酒を飲んで酔っているのにもかかわらず静かに真剣なまなざしで聞いてくれている。
「カリョとマーツェの両親には謝らなくてはならないが、本当はこの姉妹も後ろのゴーレムに入って一緒に戦ってくれたんだ」
カリョは俺の左腕をつねってから通訳した。姉妹が戦いに出たことは両親に言わないはずだったからだ。
村人にどよめきが起こり、右側のテーブルの列、マーツェの近くに座る両親の口があんぐりと開いたのが見えた。
「この姉妹の協力があって作戦が成立し勝利したと理解してもらいたい」
右隣に座るマーツェに目を向けると不敵な笑顔に腕組みをして何度もうなずいている。
そして俺は会場全体を見渡し、一呼吸おいて報告した。
「俺は一緒にこの国を守ったカリョと結婚します」
カリョが俺の左腕を抱きながら通訳すると唐突だったせいか村人は静まり返ってしまった。
その意味を理解しようとする人々。
不意にルージュが俺たちに囁いた。
「お二人とも、ご結婚おめでとう」
「ありがとう」『ありがとう』
俺たちは小さな声で返す。
ルージュへの礼にかぶさるように意味を理解した村人から大歓声が沸き起こり、この瞬間祝勝会は結婚披露宴に変わった。
立ち上がってバンザイする人に拍手する人、何を言っているかわからない大歓声。座ったままの両親はあんぐりが止まらない。
マーツェが俺の後ろを回ってカリョの横につき、用意していた花のティアラをカリョの頭に乗せるとカリョは両手でティアラを確認するように触り、はにかみながら俺を見た。
『どうかな?』
沢山の小さな白い花で輪を作り、いくつかの赤と黄色の花、そして緑の葉をアクセントに加えた花のティアラはカリョの美しさを倍増させる。その美しさは感動を覚えるほど。
「とても綺麗だよ」
『ありがとう。――カイヤは神様の国から私に会うために来てくれたんだよね?』
「――そっか。そうだよ、俺はカリョに会うために来たんだよ」
見つめ合い、どちらからともなくお互いを引き寄せ、唇を重ねた。
時が止まったかのような、頭の奥が痺れるような不思議な感覚。近くの大歓声が遠くに聞こえる。
この
幸せすぎだよ。
ふと、誰かが俺のズボンを引っ張っていることに気が付いた。マーツェ? キスが長すぎたか。
惜しむようにゆっくり唇を離して見つめ合う。カリョの潤む瞳の中に幸せを確認してから村人たちに向き直る。
「みんな、ありがとう」
割れんばかりの大歓声を全身で受け止め、幸せに浸りながら歓声が落ち着くのを待って俺はスピーチを終えた。
俺はカリョとともに両親のところに行き、姉妹を戦わせてしまったことの謝罪と結婚の報告をした。驚きすぎたのか両親には特に怒られることもなかった。あとで冷静になったら怒りが湧いてくるかもしれないけどもう報告したからね。
両親に前もって結婚の話をしていなかったのはカリョが俺の通訳としてメゼズに行くとき両親に”そのままお嫁にしてもらうんだ”って言われていたと聞いたのでサプライズでいいだろうと判断したからだ。
戦いに出た話が無かったらもっと喜んでもらえたのかもしれない。
そのあと多くの人が俺とカリョの元にお祝いを言いに集まってきた。マーツェは少し離れたところに移動して得意気な顔で子供たちに武勇伝を語っている。
キャサリンも少し離れ、オジサンたちに囲まれて酒を飲んでいるがキャサリンを酔わそうとしても絶対酔わないから。セクサメイドは食べたものを消化しないから一定量飲み食いしたらトイレでリバースすると開宴前にキャサリンから聞いていた。
飲ますだけ無駄になる。まったくもってもったいない。でも、オジサンたちに楽しんでもらえればそれでいいか。
場も落ち着いたころ、俺と姉妹はキャサリンを置いて残っている村人と両親に声をかけてトラックに帰ったが、別れ間際のオヤジの微笑みの中に寂しさが滲んでいたことが気になった。
そんな顔しないで、カリョは幸せにするから。
宴会の費用は約三万オジェ、バルマは王が出したと言ったがマーツェが陰の主催者として全額支払った。
ちなみに王からもらった褒美は一億オジェ。俺の体重よりあるだろう大量の金貨は派手に使っても三十年は持つらしいのでマーツェも納得してくれた。
ミコトから聞いたがコルタス王国としては戦利品として一頭十万オジェはするらしい馬を大量に得たり、今後ガルド教の連合国から賠償金を取ったりするらしいので一億オジェは国の財務的に痛くないそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます