第18話 隊長の頼み

 村人が背を向けて帰っていくのを見届けるとクラオが俺の方を向いて口を開いた。


「話なんですが、まず盗賊団のことです。

 カイヤ様がお休みのあいだに死体を片付けアジトに乗り込んだのですが、この村を襲おうとしたのはガレドレアと呼ばれる国内最大の盗賊団でした。

 村に来た四十一人のうち三十八人の死亡を確認。三人を捕縛、そしてその三人からアジトを聞き出しました。

 アジトには奴隷として囚われている女性が五人いて、外の見張りが二人、中に見張りが二人いると聞き、囚われた五人の救出のためここの村人と行ってまいりました。

 見張りの四人のうち三人を殺害し一人を捕縛。そして囚われていた五人を無事救助しました。

 各地で盗みまわったと思われる大量の金品も押収しました。

 このあと領主に連絡し、捉えた四人を領主の城に連行する予定です」


 なんだか誇らしげに話しを区切ったようなので「大手柄だね」と言うと、


「いえいえカイヤ様が盗賊団を壊滅してくださったおかげです。今回のことは領主と国王にご報告させていただきます」

「別に俺に報告しに来てくれなくても良かったのに」

「いえ、ここからが本題です。

 ぜひ我軍のお力になってください。盗賊団がいなければ協力していただけると聞いた覚えがあります」

「言ったっけ?」

「レポートワン、協力したい気持ちはあると言ってた」


 ギャレットがささやいた。

 ”気持ちはある”は”する”とは違うよな? まぁでも、このまま村にいてもいずれアルザルマ軍がやってきたら戦わなくちゃならないし、ここに攻め込まれたらおそらくは負けだろう。


「わかった。力を貸すよ」

「おおっ! ありがとうございます!」

「で、どうすればいいの?」

「情報では八日後にアルザルマ軍が攻めてきます」

「なぜそんなことがわかるんだ?」

「ガルド教の宗教的な理由で八日後の日の出まで血を流すことが許されていないそうです」

「じゃあ、いまこっちから攻めれば良くない?」

「攻め込んだら宗教上の理由より戦う理由の方が大きくなるのでそのまま開戦になります」

「そっか、わかった。で?」

「五日後に王都メゼズで神の兵団結団式を行う予定になってますのでそこに参加していただきたい」

「神の兵団?」

「そうです。国内と同盟国であるラスカ王国から我こそは神の兵士だと言う猛者を集めておるのですが、そこに参加していただきたいのです」

「そうなのか。でも、神の兵士がたくさん集まるなら俺が行かなくてもよくない?」

「いえいえ、すでに集まっている数名は皆”自称”神の兵士のゴーレム使いですが、軍のゴーレムより上かというとそうでもなさそうだと聞いています。そしてそれらに比べなくともカイヤ様は本物の神の国の魔法兵ですので」

「俺が本物? んー、それは…… まぁいいや、わかったよ。五日後の結団式ね」

「ありがとうございます。ではのちほど通行証と連絡書を作成してお渡しします」

「通行証って? 兵士の誰かと一緒に行けば俺は持たなくてもよくない?」

「申し訳ありません。なにぶんこの辺を警備する兵が少なすぎるものですから同行させられる兵がいないのです。ご存じのようにいまこの村にいる兵は私も含め僅か三人。村人から案内役を探しておきますのでご了承を」

「そう……」


 クラオは役目を果たしたつもりなのか一礼するとスッキリとした笑顔を見せて戻っていった。


「カリョ、お疲れさま」

『カイヤ、行くの?』


 カリョは伏し目がちでどこか寂しげだ。


「そうだね、行かなきゃね。この村までアルザルマの奴等が来たらヤバイでしょ」

『カイヤは自分の国に帰らなくていいの?』

「帰りたいと思っても帰れないんだ」

『どうして?』

「帰り道が分からないんだ」

『でも帰りたいよね?』

「どうかな…… 帰っても銃殺…… いや帰っても待っていてくれる人もいないから帰れなくてもいいのかな」

『お父さんやお母さんは? 兄弟もいないの?』

「うん、誰もいない。一人っ子だし、両親は事故で死んだ」

『そうなんだ……』


 開戦間もないころ、ヨーロッパ旅行をしていた両親が乗る旅客機は領空侵犯したとかで中央世界連邦のレールガンで撃墜された。


 俺は怒りと悲しみに暮れ、それがきっかけで軍に入った。

 ”仇はとる”

 そう思いながら戦場に出ていたが今まで死なずにいた。


 重神兵に乗り敵兵を何人も殺したがそいつらが仇なわけではない。殺し殺されかけ、いつの間にか仇を取ることを忘れてしまっていた。そして殺し合いに疲れての脱走だった。


『じゃあ寂しいでしょ? 王都には私も一緒に行っていい?』


 少し哀れむ目で俺を見るカリョ。

 いやいやいや、もう悲しくないからそんな目で見ないでほしい。


「王都へ? 何があるかわからないし危険かもよ?」

『まだ通訳が必要だと思うし……』


 通訳は必要だけどギャレットにやらせていいかなと思った。TCから出る音声に驚かれるかもしれないが魔法だと言い張ればなんとかなるだろう。カリョを連れて行く理由としてはちょっと弱い。


 俺としてもカリョと一緒にいたい。もっとカリョのことが知りたい。けど……


『王都への案内もできるよ』


 それだ! どこか寂しげに自信なさげに言ったけどそれでOKです。通訳と案内役で大義名分が整いました!


「わかった。カリョに案内してもらうよ」


 寂しそうに見えたカリョの表情が笑顔に変わる。猛烈に可愛い。


 そのあとカリョがマーツェにその話をしたら”私も行く”と言うのだが、両親に話して許可を貰ってからということになった。


 夕方、隊長クラオの使いの兵士、確かサイナという名前だったかが通行証と連絡書を持ってきたので王都までの案内は自分で用意したから不要だと伝えた。


 通行証と連絡書は四角く切られたやや厚手の紙の巻物で、広げてみると四角い印がいくつも押されている。いかにも公文書っぽい。左上に青の印が通行証、赤の印が連絡書だそうだ。内容は…… 読めない。


 カリョと相談して王都へは明日の朝出発することにした。村にいても暇そうだったので。


 トラックの外に出しっぱなしだった重神兵とカートをトラックに戻して明日の出発に備える。

 今日は帰って両親と一緒にいると言ってカリョとマーツェは帰っていったが、空の弁当箱やスプーン・フォーク・プラボトルをダストボックスからゴミ袋ごと出し全部持って行った。洗って再利用するそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る