第34話 王子
先頭の一人だけ白地にフチが黄色い派手めの上下を着ていて後ろの四人は補佐官たちと同じ制服を着ている。
それに気がついたザンザッカーが慌てて声をかけた。
「これはこれはグリーグ王子。こちらへはどのようなご要件で?」
いかにも王子様的な若くて髭を生やしたイケメンがお付きを連れてやってきたということか。
「うむ、遠くからこのゴーレムが見えたのだがもしかしたら森のゴーレムではないかと思ってな」
ザンザッカーは王子の言葉の意味が分からなかったようでやや険しい表情でミコトを見たがミコトが首をかしげたので王子に向かって口を開いた。
「勉強不足で申し訳ありません、森のゴーレムとは何でしょうか?」
王子はザンザッカーの問にチラッと視線を向けたが答えることなく俺に視線をよこした。
「そこの者、これは森のゴーレムか?」
「そう、森のゴーレムだよ」
俺の言葉をカリョが通訳すると王子は俺たちの関係性を理解したらしくうなずいてみせた。
「遠い異国から来て強いらしいな。ジルデッグのチャンプの首を落としたんだとか。噂で聞いておるぞ」
「まだ一回しかバトルはしてないけどね」
「よし、ゴーレムバトル国内最強チャンプのシジリオと戦って見せろ。シジリオは強いぞ。田舎のチャンプじゃ勝てないからな」
もういきなりなんだよ偉そうに。自分が戦う訳でもないだろ? それに俺が異国民と認識しているだろ。偉そうにするのは自分トコの民の前だけにしとけっての。
そこに何の話なのかわからない様子のミコトが割って入ってきた。
「王子、この方は神の国の兵士で」
「神の兵団の結団式は明後日だろ。今日はシジリオの相手をさせろ」
割って入ってきたミコトの言葉にかぶせるように言い放つ王子。
「しかし……」
「その者を闘技場に案内するように。今日の最終試合だからな」
一方的に言うと王子はお付きの者を引き連れて去って行った。あっけにとられて王子の背を見送ったミコトが我に返り俺に向き直る。
「申し訳ありません、急なことで紹介もできませんでしたが今の方はグリーグ第一王子です…… 本当に神の国の兵士様にこんなお願いするのは心苦しいですが、ゴーレムバトルに出場していただけないでしょうか」
本当に申し訳なさそうに眉尻と頭を下げるミコト。隣のザンザッカーも頭を下げる。
王子はミコトの言葉を最後まで聞かなかったから俺は田舎チャンプに勝っただけの異国のゴーレム使いという認識なのだろう。
「戦争が近いのに王子は余裕だね」
「戦争は我が軍のほかに我こそは神の国の兵士だと言う
「その同盟国からの応援はないの?」
「戦力では負けていないはずで、向こうに攻め入る訳ではなく追い返せればよいのでラスカ王国への援軍要請は必要無いという判断です」
そんなに余裕なら別に俺が戦に加わらなくても良さそうじゃない? ここまで来たのだから一応参戦するけどさ。
このゴーレムバトルを断ったら補佐官たちの立場も悪くなりそうだし国内最強チャンプにちょっと興味があるので出てみようか。
「わかった。バトルに出るよ。勝ったら賞金は出るの?」
俺の返事に頬を緩ます二人。
「ありがとうございます。賞金はチャンプ戦ですとたしか二万オジェだったと思います。よろしいでしょうか?」
「それでいい。王子は知っていたけどジルデッグでは森のゴーレムって名前で戦ったのでそれで登録を頼むよ」
ジルデッグでは貰わなかったけど王子が偉そうなのが気に入らない。負かして賞金を貰うことにする。
「それと本来であれば先に大神官に会っていただきたかったのですが、ゴーレムバトルまでの時間は体調を整えてください。大神官には明日会っていただきます。では神の兵団の宿営地に案内しますので我々について来てください」
大神官に会う? 神の国の兵士を確認したいのか? 面倒くさいが城の中での面会なら城を見学できるから行ってもいいか。
重神兵をトラックに戻してからカリョとトラックに戻る。コックピットにいたマーツェに奥に詰めてもらいカリョに先に入ってもらった。
トラックは補佐官たちが乗る馬車についていく。
コックピットのドームモニターに映し出される街並みは流石は王都だ。ジルデッグよりも広い石畳の道に建物も大きい。五階から十階建ての円錐に近い塔のような建物が点在して目を引く。そして多くの人々が行き来している。
姉妹はあちらこちらを指さしてあれはなんだこれはなんだと大はしゃぎ。カリョもマーツェも大都会に来ることができて嬉しいようだ。
少し走ると二つ目の城壁に門が見えた。第二門か? 門をくぐるのかと思いきや左に曲がって城壁に沿って走ると複数のゴーレムトラックが止まっている城壁沿いの大きな広場に出た。ここが宿営地らしい。
右に見える城壁に沿って立つ二つの大きな建物があり、その前に群がるようにトラックが止まっている。見えているだけで二十台近くあるだろうか?
荷車の後ろが開いている一台は中で昼寝をしている魔法師らしき人が見える。
そっか、魔法師は荷車で寝泊まりするのか。
広場の奥、トラックの止まっていない場所に六体の全身鎧のゴーレムがいる。四体はただ立っているだけだが二体が斧で切りあっている。喧嘩か決闘じゃなければトレーニングだろう。その見えた動きだけで判断するならジルデッグのチャンプほどではなさそうだ。そして敵もこの程度だといいのだけれど。
補佐官を乗せた馬車はゴーレムトラックが集まっている場所には行かず、広場の入り口から入ってすぐに右に曲がり城壁前で止まった。馬車からミコトが出てきて手招きして馬車の隣に止めろと言っているようなのでその指示に従いトラックを移動して止める。
俺とカリョがリフトを使ってトラックを降りるのをミコトは不思議そうに見ていたが、近くに寄ってくると城壁前の大きな建物を指さした。
「あそこ見える手前の建物は食事、トイレ、体と服を洗える場所ですので利用してください。もちろん国で用意しているものですので無料です」
メシか…… 戦闘糧食がまだあるし……
「その奥の建物はゴーレムの整備場です。鍛冶職人がいますので鎧や斧を治すことができます」
待遇はいいんだな。かなりまとも。文明レベル的にもっと雑かと思ってた。
「あと、六の刻から最初の試合が始まりますがチャンプ戦は最後ですので六の刻にゴーレム闘技場にご案内する係りの者を寄こします」
始まりが六の刻とは早いな。ジルデッグは日が暮れる七の刻からだったのに。
ミコトは細かいことは案内係が説明すると言うと馬車に乗って帰っていった。
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