第33話 王都へ

「レポートワン、あと五分くらいでメゼズに到着だよ」


 処置室のモニターに遠くなのに巨大だとわかる城壁と城門に並ぶトラックや馬車の列が映った。


「え? もう着くのか?」

『勉強に集中していたからあっと言う間だったね』

「もっとゆっくり走らせれば良かったなー」


 結構な時間勉強していたはずなのにすごく早く感じた。最初は普通に言葉の勉強をしていただけだったが、途中からカリョが日本のアイドルが歌う歌詞のことを話し始めてから方向が変わった。どうしても歌詞の意味が知りたいと。


 ギャレットが歌詞を直訳をしたあと、俺が歌詞に込められた状況や感情を説明する。そしてカリョが思ったように手直しして朗読する。それをヘッドセットを介して俺の頭に伝わってくる詞が元の歌詞に近いかどうか俺が判断するという作業を繰り返していたが、これがすごく楽しかった。


 『こっちの言葉ではそこはこう言うんだよ』と言い回しという結構高度な勉強にもなったし、星が違っても歌に込める気持ちは変わらないと知った。


 何よりカリョが手直しした歌詞を曲に合わせて歌ったときはすごく感情がこもっていた。何かを探すように視線を宙に漂わせたり思い詰めたように俺を見つめてくる表情はすっごく萌えた。そして歌声がすごく綺麗。狭い処置室なので全力で歌わなかったと思うがそれでもゾクゾクするほど綺麗な声だった。


 アイドルの素質がありそうだけどそこは人に知られたくない俺だけの秘密にしたい。


 外の状態を確認するためにカリョと一緒にコックピットに移動すると中ではマーツェが興味深そうにトラックの周囲を映すモニターを見ていた。王都メゼズは立派な城壁を持つ城郭都市だ。長いこと戦争が続いた時代があったのだろうか。


 城門からゴーレムトラックや馬車の長い列が見えるが通行証の確認に時間がかかっているのかも。


 俺たちのトラックも列の後ろに並ぶと列の後ろにいた茶色い服の役人らしき男がこっちに向かって両手を振りあげ叫び出した。


「降りてきて通行証を見せなさい!」


 カリョに通訳を頼むと俺は処置室に戻り、引き出しを開けて中にしまっていた通行証と連絡書を取り出して外に出た。


「予備審査だ。通行証を見せなさい」


 お役人らしくやや横柄な態度だ。

 俺は通行証と連絡書を渡す。役人は通行証を一瞥し、次に連絡書を見ると態度が変わった。


「か、神の国の兵士、鉄のゴーレムの方ですか!?」

「そうです」


 鉄じゃないしゴーレムでもないけど説明が面倒くさいので否定はしなかった。どうやら噂が先に到着していたようだ。


「どちらに行かれていたのですか? 三日前にエグリバを出たと聞いておりましたが」

「ちょっと買い物に……」

「探しておったのですよ。とにかく列に並ばなくていいですから先に進んで門を通ってください」


 待たせたみたいだ。

 役人は門の方に向かって手で合図を送る。


 カリョとトラックに戻り、トラックは列の横を通って門に向かう。門でまた降りて別の役人に通行証と連絡書を見せると門を通って待つようにと言われ、大きな門をくぐると広い駐車場が現れた。


 多くの馬車と数台のゴーレムトラックが止まっている。荷物のチェックをしているようだ。この補給トラックの荷物をチェックされたら面倒なことになるかもしれないが、もし面倒事になったら神の兵器だと言って押し通すしかないんだろうなとぼんやり考える。


 トラックの前でカリョとしばらく待つと二頭立ての白い箱型の馬車がやってきて目の前で止まった。


 馬車のドアが開くと四人の男が降りてきたが見た目が何となく文官だ。バリっとした紺色の制服だが姿かたちが軍人ぽくない。


「アナタが鉄のゴーレム使い、神の国の兵士ですか?」


 四人のうち帽子をかぶっていない二人が前に出て、若く小柄な方が声をかけてきた。もう一人はやや太目の白髪の老人だ。


「そうらしいです。あなた方は?」

「申し遅れました、私、王室補佐官のミコトとこちら首席補佐官のザンザッカーと申します」

「俺はカイヤ、こっちは通訳のカリョ。俺は聞くことはできるが話すのは無理なので通訳を頼んでいる」

「聞いたことのない言葉ですが神の国の言葉なのですか?」

「んー、ニホンと言う神の国…… 神の眷属の国かな?」

「神の眷属……」


 ザンザッカーから声が漏れ出た。眉間に皺をよせ厳しい顔をしている。ミコトも一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに何事もなかったかのように表情を戻し、次の質問を出してきた。


「ゴーレム一体で盗賊団ガレドレアを壊滅させたと聞きましたが本当なのでしょうか?」

「本当だよ」

「「おお!」」


 今度は紹介されていない後ろに控えていた二人から声が漏れ出た。


「そのゴーレムを見せていただいてよろしいですか?」

「今ここで?」

「問題ありますか?」

「ないけど…… じゃあ見せるよ」


 見てどうすると思ったがとりあえずは従うことにする。


「ギャレット、重神兵を外に出して立たせて」

「はい」


 トラックから低く唸るモーターの回る音が聞こえてきて前面のハッチが開く。開ききったところで中から重神兵がゆっくり出て立ちあがった。そういえば森林迷彩服を着せたままだった。


 遠巻きではあるが周りに人が集まってきた。目立たせないつもりで着せた森林迷彩服だがこの世界ではかえって異様に見えているかもしれない。


 二人の補佐官は自動で開いたハッチも不思議がったが、やはりゴーレムの方が気になるようで頭のてっぺんからつま先までマジマジと見ている。


「やや大きめですか…… 顔のところ、魔核の窓でしょうか? 二か所、人の目のように開いてますね」

「服の下に鎧を着ている…… 乾燥を防ぐなら服か鎧のどちらかでいいんじゃないか?」

「全身鉄だと言う話でしたので乾燥は関係ないと思いますが……」


 袖から中の装甲が見えたようだ。

 二人の補佐官がそんな話をしているとどこからか五騎の騎馬がやってきた。

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