第35話 今すぐ殺しますよ
六の刻(午後三時過ぎ)、重神兵に乗った俺とドレスを着た姉妹は城の案内係から引き継がれた闘技場の係員の前にいた。
ゴーレム用の出入り口を入ったところで係員からゴーレムバトルの説明を聞く。
ルールは国内ならどこも一緒だとか、ゴーレムの紹介文を聞かれ、観客席には王族席があり今日は王族も見に来ているから品のないマネは慎むようにと。
あとは手持ちの武器、テコ棒と日本刀に問題がないことを確認してもらうと右の通路の突き当りにある控室で待つようにと言われた。マーツェは係員に関係者席に連れて行ってもらう。
俺は右手にテコ棒と日本刀をまとめて握り、カリョを左腕に乗せ控室に向かうとゴーレム用の大きなドアを押して控室に入った。
中は広くジルデッグの個室とは違い共用の控室のようで白黒と赤茶色の鎧を着た二体のゴーレムが奥に立ち、二人の魔法師と思われる男がその前の長椅子に並んで座っていた。
二人の男は左が短髪大柄で鼻の下から喉まで髭だらけの男。右は細身でスキンヘッドの男。俺たちが入るとカリョを見て最初は驚いた顔をしたが、すぐに下品な薄笑いを浮かべカリョを舐め回すように見だした。
「ようお嬢さん、女のゴーレム使いとは珍しいな。降りてきて俺たちとお話ししないか?」
右のスキンヘッドが甲高い声を出す。
『楽しいお話ができるようには見えませんが』
そっけない対応のカリョ。
「綺麗な顔してるねぇ、ほっぺを触らせてくんねーかな?」
スキンヘッドに塩対応のカリョを気にしたそぶりを見せずに声を掛けてくる短髪大柄は低いダミ声だ。
「優しくしてやるよー」
「その変な服のゴーレムの方がいいとかいうなよ? 俺悲しくなっちゃうからサ」
「魔核は誰と作ったのかな? 俺の魔核を作るの手伝ってくれないか?」
「こんな綺麗なお嬢さんとなら俺が試合したかったぜ」
こいつら下品なニヤケ顔して俺の前でカリョに何を言ってくれるかな――
ちょっと懲らしめてやるか。
「カリョ、降りて俺の後ろに下がって」
左腕のカリョを降ろすと男たちは一瞬期待のこもった明るい表情になったが、カリョが俺の後ろに回ると男たちの表情は曇りに変わった。
俺は日本刀かテコ棒かちょっと考えて日本刀を地面に置き、テコ棒だけを持って男たちの六メートルほど前に立つ。
左手はテコ棒の端を持ち右手は左手からこぶし三つほど離して持った。腕を少し引いた状態で地面に水平にしたテコ棒は右に伸びている。
男たちは何を始めるのかといぶかしげな表情で俺/重神兵を見ている。
俺はテコ棒の先が男たちの顔の二メートルくらい前を通るように振る。
右から左へ大きく ビュゥゥゥ――
左から右に同じく ビュゥゥゥ――
空気が震える風切り音。
男たちに当たる距離ではないが当たったらどうなるか風切り音を聞いて知ってもらう。そのための素振りだから。
そして最後に右足を大きく前に踏み出し腕を伸ばして右のスキンヘッドの首を目がけて右から左へ、
ビュッ!
スキンヘッドの首に当たる直前で止めた。
ビィィン―― ビィィン―― ビィィン――
急に止められたテコ棒の先端はその強烈なエネルギーを消費するために細かく震えながら左右に小さく反復運動を繰り返えす。
男たちの顔が引きつっている。そのまま振り抜いていたら二人とも首から上が無くなっていたと理解してくれただろう。
俺がテコ棒を引くとカリョが後ろから出てきた。俺は腰を落としてカリョを左腕に座らせ、すぐに立ち上がってカリョが男たちを見下ろす形を作る。
『話しかけないでくださいますか? 私はゴーレムに魂を乗せなくても自在に操れます。舐めたら今すぐ殺しますよ』
重神兵の左腕に座り、高い位置から俺の指示通りに微笑みを携えてやさしい声で話すカリョ。
男たちは血の気の引いた顔で何度もうなずいた。右の男の目からは涙が垂れ落ちてきた。殺すつもりなら死んでいたと悟ったのかもしれない。
俺がカリョに言わせたのだが、マーツェの”キツイ言葉の美少女”も怖いが、カリョの”やさしい声で怖いことを言う美女”も怖い。
二人の男たちはそのあと一言も話すことなく順に係員に呼ばれて控室を出て行ったが、俺たちの番が来るまで三十分も待たなかった。前の二組は随分あっさり終わったようだ。さっき涙を流した奴らが負けたとしたら俺にも責任あるかな? でも仕方ないだろ。
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