第49話 怪力の美女

 昼からは将軍から借りた五人の兵士に手伝ってもらって重神兵二機の組み立て。

 手伝いの兵士たちは「神の国の兵士様に協力できて光栄です」とか言って凄く張り切っている。


 ルージュに重神兵を操作してもらいトラックの荷室から重神兵のパーツを降ろして地面に並べてもらうのだが兵士たちはもちろん俺が魔力で重神兵ゴーレムを動かしていると思っている。


 金属製のパーツなら重いのだろうが多くはアルミの半分の軽さのCNT(カーボンナノチューブ)製なので見た目より軽く一機で一トン弱。


 二機分のパーツが外に並ぶと暗い茶色のウィッグを被ったキャサリンが作業の指示に当たった。俺と同じ戦闘服のズボンを履き、黒のピチピチタンクトップは爆乳が強調されているが本人に自覚があるのか無いのかは不明だ。寒そうに見えるが寒さは感じていないだろう。


 兵士たちに「通訳のキャサリンです」と自己紹介すると、みんな色めき立ったのが分かった。文字通り目をひん剥いてキャサリンを凝視している。美人でナイスボディだから仕方ない。姉妹はコックピットでルージュから重神兵のレクチャーを受けているのでキャサリンに通訳として登場してもらうしかなかったのだ。


 俺が作業指示をしようと思っていたのだが、キャサリンがトラックのメモリユニットから重神兵の組み立て方を読み出したため、キャサリンが兵士に指示を出して一緒に組み立てることになった。


 キャサリンが指示をすれば通訳が必要な俺は不要と言うわけだ。なので何もせずにトラックの影で待たせてもらうことにした。


 兵たちに指示を出し終わったようでキャサリンは九十キロある重神兵の片腕を自分一人で持ち上げだした。何食わぬ顔でそのまま重神兵の肩に接続するのを見た兵士たちは唖然として動きを止める。


 セクサメイドは当然メイドとしても働くのだが、介護などで危険がないよう軽々と人を抱き上げるために人間の四~五倍のパワーが備わっているらしい。


 同じような形のアンドロイドにセクサロイドがあるが、そちらはそれ専用なので力は無いし乱暴に扱えばすぐ壊れ、値段も普通乗用車一台分ほどなのに対し、セクサメイドはその五倍はすると聞く。パワーがあり調理のために味覚嗅覚も備わっているし、人間にそっくりなボディでありながらとても丈夫。つまるところ高度な技術の塊なのだから高価なのは当然なのだろう。


 そしてその怪力に驚きの表情を見せた一人の若い兵士がキャサリンに声をかけた。俺のところまで声は聞こえてこないが他の兵は動きを止めてその会話を注視している。

 キャサリンに色めき立っていた連中はその怪力を見て何を思ったのだろうか。いや、そもそも生身の体ではないと知ったらどう思うだろうか。教えたところで理解が及ばないだろうし、彼らの夢を壊すこともないので黙っておくことにする。


 そんな事を考えながらキャサリンたちを見ているとキャサリンに何か言われたのか兵たちが慌てたように作業に戻っていった。

 無駄話はここまでだ! とでも言われたのかな?


 重神兵のパーツは全てモジュール化されているので接続部のゴムカバーを外し、位置を合わせてはめ込んだら複数箇所あるロックレバーを回すだけ。


 そして程なくして二機の重神兵が完成した。


 組み立てを手伝った兵士たちは完成した重神兵を間近で見て触る。手で触って滑らかさを確かめたり、強度を確認するつもりなのかこぶしで叩いたりもしている。


 俺はというと結局一人で補給トラックが作る日影に立って完成まで組み立てを眺めているだけだった。


「ルージュ、二機の動作確認を頼む」

「はい」


 俺は横たわる二機の重神兵の前に立つとそれらしく両手を向け、見ている兵士たちにわかりやすく口を動かし呪文を唱えているように見せた。一応魔力で動かしているふりをしているのだが馬鹿らしいと思いつつも科学を説明する方が面倒だからしかたなくやっている。


 並んで仰向けで組み立てられた二機の重神兵がゆっくり上半身を起こすと兵士たちから歓声が上がった。組み立てただけだがそれでも自分たちが作ったという意識があるのだろう。


 二機の重神兵がゆっくり立ち上がり各部の動作確認を始める。首を回したり腕を回したりして各部のチェックを行っているとそこに五騎の騎馬がやってきた。将軍とその部下四人。


「カイヤ様、鉄のゴーレムを見に来ましたぞ」


 そう言いながら将軍は動作確認中の重神兵を見て、馬を降りると手綱を部下に渡して歩いて近づいてきた。


「その二体が新しく作った鉄のゴーレムです」


 キャサリンも将軍に気がつくと俺に駆け寄ってきて通訳してくれた。


「うん、心強いですな。ところでこれを動かしている魔法兵は…… その娘ですか?」


 キャサリンに目を移した将軍は初めて見る顔だからなのか最初は少し硬い表情を見せたが美人だと分かったらしくすぐに表情を緩めた。キャサリンはというと普段の微笑のままだ。


「いえ、今は俺が動かしていますが彼女じゃなく他に二人トラックの中でこのゴーレムの操作法を勉強しています。呼びましょうか?」

「いやいやそれには及びません。時間もないことですし、今は勉強してもらいたい」


 俺に視線を戻した将軍はいつも以上にキリッとしているように見える。頬でキャサリンの視線を感じているのだろうか?


「ではまた」


 変わったのは表情だけでなく背筋もビシッと伸びているように見える将軍。そう言い残すと組み立てた兵たちのところに歩いて行きねぎらいの言葉をかけ始めた。



***



 重神兵の組み立てを手伝いに来ていた五人の兵士は唖然とし一様に口を半開きにした。


 通訳のキャサリンですと自己紹介しておきながらカイヤの通訳をせず、自分で作業指示を出していたナイスボディの美女がゴーレムの腕を軽々と持ち上げている。並の大人一人より重いと思われるゴーレムの腕をだ。


 それを顔色も変えずに横になっているゴーレムの胸部パーツまで運び肩に接続する。


「キャ、キャサリンさん、かなり力があるんですね」


 近くにいた若い兵士がその怪力を見て戸惑いはしたものの話しかけるチャンスだとばかりに声をかけた。


「そうですね、主人をサポートするために力はあります」

「主人?」

「カイヤが私の主人です」

「え? カイヤ様とご結婚されていたのですか?」


 なんとかキャサリンとお近づきになりたいと考えていたその若い兵士は動揺した表情を見せた。他の兵士たちも動きを止めたままその会話に注視している。


「その意味の主人ではありません。カイヤにつかえているという意味です」

「あ、そうなんですか。じゃあキャサリンさんは独身で?」

「ええ、そうですよ」


 やさしく微笑んで答えるキャサリン。若い兵士はその微笑みで心を鷲掴みにされた。他の兵士たちも同様だ。


「カイヤ様が恋人だったりしますか?」

「それはないです。カイヤは姉妹の姉の方に好意を寄せていますから」


 トラックの日影に立つカイヤを見ながらそうキャサリンが答えると聞いていた兵士たちは安堵の表情を見せ、そして頬をゆるませた。


「じゃあキャサリンさんにお付き合いしている人はいますか?」

「いませんよ。昨日生まれたばかりだから」

「え? そうなんですか?」


 兵士たちは「付き合っている人はいない」と聞けたことに歓喜したがそのあとの「昨日生まれたばかり」の意味が理解できない。故郷くにで流行りのジョークか何かではないかと思っている。


「昨日何が生まれたんですか?」


 当然の疑問が兵士の口から出て余計な一言だったと気づいたキャサリンは話を切り上げることにしたが、周りの兵士を見渡しAIのときにはこんな会話はできなかったことに気づいた。人として人と話せることが楽しいと感じたキャサリンの顔には、作りものでない自然の笑みが浮かび上がっていた。


「それよりどうしたんですか? みなさん手が止まっていますよ。終わってからまたお話ししましょうね」

「「「「「はい!」」」」」


 キャサリンが兵士たちに笑顔で声をかけるとみんな笑顔で答え、張り切って働き出した。

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