第48話 作戦会議
キャサリンが処置室の壁からモニターを外して荷室に戻ってきた。重神兵を下ろし転移したキャサリンが横たわっていた場所に。
モニターの裏のスタンドを引き出して床に立てると中にルージュが現れた。そしてその前を俺と姉妹とキャサリンが座る。
この五人で作戦会議を開くことになるとは思ってもいなかったが元AIのルージュとキャサリンの意見が欲しい。そして姉妹には戦闘の知識はなくても作戦は聞いてもらわなくてはならない。
「まず、確認事項だけど、俺とカリョとマーツェは重神兵に乗る。キャサリンはどうする?」
「私はこの体のまま戦闘に参加します」
「え? 危険だろ?」
「このトラックのコンピュータには三つのAI領域があります。そのうちの一つに並列で入っておきますのでこの体を失っても大丈夫です」
トラックのコンピュータに入れるってことはセクサメイドの体から出られるってことじゃないのか? もしそうならその体からキャサリンが出てルージュが入ることも可能だと思うが…… ルージュが分かっていて何も言わないなら俺が言うことではないか。
「わかった。ルージュはカートとドローンの操作をよろしく」
「了解です」
「で、作戦だが…… どうしようか……」
「「ちょっと時間をください」」
ルージュとキャサリンが同時に声を出した。
「え? あ、うん。いいよ」
何か思い当たることでもあるんだろう。俺の返事でモニターの中のルージュは目を瞑り、キャサリンは床を見つめて動かなくなった。
シーンとする荷室。
『どうしたの?』
状況が分からないらしくマーツェが俺を見た。
「ルージュとキャサリンが作戦を考えているので待っているんだ。二人が声を出すまで待ってて」
『そう、わかった』
することが無いのでカリョに視線を送るとすぐにカリョも俺の視線に気づいて笑顔を見せる。そしてそれに反応してマーツェがニヤケ顔で俺とカリョを交互に見る。そのいつものパターンで俺は思わず吹き出してしまった。
そんな他愛無いことをして時間をつぶしていると十分ほどでモニターのルージュが目を開きキャサリンが顔をあげた。
「メモリユニットにある軍事関連情報をキャサリンと手分けして読み出し、それを参考に作戦を立てましたので聞いてください」
ルージュが代表して話すようだ。それにしてもメモリユニットの膨大な情報を読んだのならかなり速いな。
「まず、カイヤとカリョとマーツェは重神兵に乗り、重火器を持って出撃します。そして……」
………………
…………
……
三十分ほどだろうかルージュの話す作戦を聞いていたがその作戦はとても良く考えられていて俺が突っ込む余地は全く無かった。流石元AI、感心せざるを得ない。
「でもさ、唯一の心配はキャサリンだろ。大丈夫か?」
「大丈夫です。なんら不安はありません」
キャサリンが涼しい顔で答える。やはり体は入れ物でしかないからか、たとえ体を失うことになったとしても怖くないようだ。
「そっか、じゃあ作戦の中で上がった転移品は明日の日の出後に転移しておいて。あ、百キロ超えてないよね?」
「はい」
「転移品リストを出します」
モニターの中のルージュが右に寄り左側に転移品のリストが表示された。
スポットライト×3 ………………………… 3.3kg
拡声器×12 ……………………………… 12.8kg
ドローン用ジョイントアーム一式×1 …… 4.0kg
催涙弾六発カートリッジ×4 ………………19.8kg
フルハーネス ………………………………… 1.5kg
ロープ 三十メートル ……………………… 9.3kg
スタングレネード×2 ……………………… 1.1kg
ドローン×4 ……………………………… 43.6kg
シーツ(白、ダブルサイズ)×1 ………… 0.6kg
「あと、四キロほど転移できますが何か必要なものはありますか?」
「特にないかな…… カリョ、マーツェ、何か欲しいものがあったら追加しておいて」
『いいの?』『ほんとに?』
『『やったー!』』
喜ぶ二人はもうすぐ戦争だと言うことを忘れているのだろうか。それともそれを考えないようにしているのだろうか。今は少しでも戦いを忘れていられるならそれに越したことはない。
翌朝の日の出直後、俺は将軍のテントにカリョを連れて作戦の説明に来ていた。
「それは本当ですか?」
目を見開き信じられないという表情で固まる将軍。
「本当です。神は奴隷制度に
昨夜ルージュとキャサリンが立てた作戦はハッタリも使うし地球のテクノロジーを説明するのも大変なので神の力ということにしてごまかすことにしていた。
俺の言葉に将軍は両手を胸の前で握り目を瞑ると、
「神よ感謝いたします!」
そう言って祈り始めた将軍は二分ほど身じろぎ一つせず、祈りが終わり瞑っていた目を開くとそれまで生気が失われていたように暗かった将軍の瞳には力が宿っていた。
「カイヤ様、ありがとうございます!」
満面の笑みの将軍。そりゃそうだよね、神が味方に付くと聞いたんだから…… いや、俺も作戦を失敗しないようにしないとな。
「ところで将軍、お願いがあるのですが」
「何でしょうか?」
「神のサポートのために鉄のゴーレム(重神兵)を二体作る必要があるんですけど組み立てに作業者が必要なんです。そのための兵を五名ほど借りたいんです」
「お安い御用です。部下に言って器用な者を選抜させます」
「ありがとうございます。じゃあ昼から俺のトラックまでお願いします」
「承知しました」
笑顔の将軍に見送られてテントを出た俺とカリョはまだ肌寒い朝の道を歩き、トラックへと戻った。
***
「キャサリン、起きてる?」
カイヤとカリョが将軍のテントへと向かうのを見送った後、退屈になったマーツェが荷室のどこかで寝ているはずのキャサリンを探しにやってきた。
暗かった荷室はマーツェが入るなりルージュが気を利かせて照明を点ける。
「起きてるよ」
荷室の一番前、マーツェから見ると背を向け尻を床につけて座っている重神兵の左肩の上にキャサリンがいた。
肩に座りながら重神兵の頭部にもたれて静止していたキャサリンは上体を起こすと首を回して後ろのマーツェを見た。
「なんでそんなところにいるの? 寝たの?」
「私は精霊だから寝ないんだよ。必要のないときは動かずにじっとしているだけでいいの。ここにいるのは……
僅かに微笑みを浮かべるキャサリンはそう言いながら重神兵の肩から降りてきた。
服の上からも分かるグラマラスなボディー。その動くさまにマーツェは見とれていたがキャサリンが自分の正面に来ると思い出したかのように口を開いた。
「用ってほどでもないんだ。お姉ちゃんとカイヤが出かけたら…… キャサリンのことが知りたいなと思って」
作り笑いを見せるマーツェ。暇つぶしで来たのだがキャサリンのことを知りたいと言ったのは嘘ではない。
「そう、でもね私の基本的なところはルージュと同じだから大きな違いって言ったら人の体があるかないか…… あ、性格の設定も違うね」
「性格の設定?」
「性格が違うってこと」
「そうだね、おっとりとしたルージュとは違ってキャサリンはグイグイ来る性格のように思える」
「やっぱりそう思う? 設定では”積極的”になってるからなんだよ」
設定という言葉に疑問を持ちながらもうなずき、マーツェはキャサリンのつま先から頭の先まで視線を這わす。そしてその視線は目立ちすぎるキャサリンの胸で止まった。
「ところで精霊の体ってみんなそんなに胸が大きいの?」
キャサリンの目と胸を交互にみるマーツェ。
「これはね、要求仕様がこの大きさだったんだけど、後からでも大きさは変えられるんだ」
「え? 大きさが変えられるってどういうこと?」
キャサリンの言っていることが理解できず困惑するマーツェ。
「じゃあ、小さくして見せるね」
そう言うとキャサリンのはちきれんばかりだった白Tシャツの胸はみるみるうちに小さくなっていった。
セクサメイドはオーナーの
「た、大変! な、無くなった!?」
驚きに目を見開くマーツェ。
「大丈夫。元に戻せるから」
そう言うなりみるみるうちに白のTシャツが内側から押され膨らんでいき、もとのはちきれんばかりの胸になった。
「わー! 凄い凄い!」
驚くマーツェはすぐにハッとした表情に変わって動きを止める。そして何か思いついたのか自分の平らな胸に視線を落とすとすぐに期待のこもった表情で顔を上げた。
「精霊の力で私の胸も大きくならないかな?」
「それは無理」
変わらない微笑みで即答するキャサリンが冷たく見えたマーツェだった。
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