第14話 重神兵披露

 その後何人もの村人が入れ代り立ち代り話に来てくれた。俺だけじゃなく姉妹にも。


 子供たちはマーツェを囲み、大人は俺とカリョを囲んだ。大人の興味の対象は俺より姉妹の服装や俺が持ってきた酒や塩に向いていて「幾らなのか」とか「どうやったら手に入るのか」とか何度も聞かれた。


 この国のお金のことを知らないから値段は答えられないし、手に入れるには国に帰って持ってくるしかないとしか言えず、その答えを聞いてがっかりして去っていく村人の背中を見るのが忍びなかった。やっぱり欲しくなるよね。


 そんなこんなで酒が進んでいくとゴーレム使いの兄弟が再びやってきた。今度はコップのほかに椅子も持っている。


 二人が俺のテーブルの前に椅子を置いて座ると兄デルガルの口が開いた。


「カイヤ、賊を追っ払った話を聞かせてくれ」

「あ…… それね……」


 んー、興味あるだろうね。でも、グレネードランチャーをどう説明したらいいか……

 悩んでいるとマーツェが身を乗り出してきた。


『爆発魔法だよ。凄かったんだから。カイヤのゴーレムが持った筒から何かが飛び出して遠くで大爆発。そんな魔法なんて知らないでしょ?』


 そのときの事を思い出したようで興奮気味に話すマーツェ。


『カイヤのゴーレムは土がどこにも見えなくて、全身金属で傷もなく凄く綺麗なんだよ。ゴーレムの中からカイヤが出てきたときはびっくりしたよ!』


「爆発魔法? 全身金属で中から出てくる? なんだそりゃ!? 爆発魔法なんて聞いたことないし、魂じゃなくて体を中に入れて動かすのか? そんなのも聞いたことないぞ!」


 酔いも手伝っているのか赤ら顔のデルガルが興奮気味だ。金属じゃなくてCNT(カーボンナノチューブ)だけど説明ができないので否定はしないでおく。


「ちょっとまって、ここじゃゴーレムはどうやって動かしてんの?」


 頼まなくてもカリョが通訳をしてくれた。


「どうやってて、離れて魔力を送るか魂を乗せるかしかないが」


 魔力を送るのは遠隔操作なんだろうけど、


「魂を乗せるってどういうこと?」

「知らねーの? そのまんまだよ。ゴーレムの頭の中に入っているJiiiに自分の魂を移動するのさ。遠くから魔力で動かすときは動きが遅くなるし細かい動きもできないが自分は安全だ。それに対しJiiiに魂を入れると自分の体の様に素早く動かせるがJiiiが壊れると死にはしないが気絶してそのあとも頭が割れるように痛くなりしばらくは寝たきりになる。農作業ぐらいじゃ壊れることはないが戦争だったら覚悟が必要だ」

「ちょっとまって、カリョ、ゴーレムの何に魂を入れると言ってた?」

魔核まかくって言ってた』

「わかった。それで魂は自分の体から出せるの?」

「それができなければゴーレム使いとしては半人前だ」

「なるほど。で、その魔核は壊れやすいの?」

「んー、壊したことないけどレンガくらいと聞いたことがある」

「村の入り口のゴーレムは二体とも同じ大きさだけどみんなその大きさなの?」

「ん、俺たちのは標準的な大きさだな。大きさは魔法師の魔力によるし考え方にもよる。魔力が少ないのに大きいものを作ると動きが鈍くなる。小さくて素早くするか鈍くても大きくするかはそれぞれの魔力と考え方次第かな。俺たちのは土木建築が主で遅くても大きい方がいいんだ。賊に対しても村への侵入を阻止しやすいしな」

「頭を覆っている兜の顔に当たるところ、鉄の兜が丸く切り取られて穴が開いているようけどあれは何?」

「ああ、あの穴の奥に魔核があるのさ。自分の魂が魔核に入る。その魔核から外を見るための窓だ。土が乾燥しないようにそこは布で覆っている。土や布は大丈夫だが金属は視界を塞ぐんだ」

「そうなのか…… 勉強になりました」

「カイヤのゴーレムは魂を乗せるのではなく自分が乗るのか?」

「そうだよ。自分が乗らなくても動かせるけど、やっぱり素早い動きはできないね」

「ゴーレムを作るのに土は使わないのか?」

「土じゃないけど詳しいことはうまく説明できない。俺が作ったんじゃないんだ」

「え? 他人が作るのか?」

「そう。工場で作られている」

「工場でか。へー、そうなのか。なるほど、遠くの国ではゴーレムの作りも動かし方も違うんだな」


 何やら関心しているデルガル。そう言えばこっちのゴーレムってどうやって作っているんだろう?


「ところでここのゴーレムってどうやって作るの? 基本は土だよね? さっき聞いた魔核ってのが大事なのかな?」


 デルガルがカリョとマーツェをチラッと見る。


「女の子がいるところではちょっとな」


 そう言うと困ったという表情を見せて口を閉じるデルガル。


 女の子には聞かせられないのか。聞くだけなら通訳はいらないからと言って姉妹には席を外してもらった。


…………


 そして聞いた魔核の作り方(次回第15話にあり)がなかなかのグロだった。うん、女の子のいるところでは話せない内容だ。


 話を聞き終わり離れていた姉妹を呼び戻すと今度はいままで黙ってちびちびと酒を飲みながら聞いていた弟のデルゾルが口を開いた。


「なぁ、明日でいいからカイヤのゴーレムを見せてくれないか?」

「え? ああ、なんならいま見せるけど?」

「え!? カイヤは酔ってても動かせるのか?」

「うん大丈夫、ゴーレムを出した方が宴会も盛り上がるよね?」


 俺は酔いが回ってきてテンション高くなっていた。地球の技術、その中でも最高峰の日本製を見せてやろうではないか。


「おいみんな! カイヤがゴーレムを見せてくれるってよ!」


 デルガルが他の村人に向かって嬉しそうに叫ぶとオジサンたちから低めの歓声と拍手が沸き起こった。


「ギャレット、重神兵を出して俺の後ろ五メートルくらいのところに立たせてくれ」

「オッケー」


 俺の後ろ十メートルくらいのところにトラックが後面をこちらに向けて止まっている。かがり火の光が届いているが荷室のハッチは反対側だ。


 静かなら荷室のハッチが開くモーター音が聞えてきたかもしれないが宴会の盛り上がりで何も聞こえない。ほどなくするとトラックの左、闇の中からゆっくり重神兵が歩いてきた。


 オジサンたちは立ち上がり大歓声の拍手喝采だ。


 指示通り俺の後ろ五メートルのところで重神兵が止まると、オジサンたちと子供たちがわらわらと重神兵の周囲に集まっていく。


 動かなくなった重神兵を子供たちが手でぺたぺたとさわる。


「兄弟のゴーレムより少し大きいか?」「綺麗だな。歪みも傷もない。これは鉄でできているのか?」「強そうだな。ゴーレムバトルに出ればそこそこ勝てるんじゃないか?」「ゴーレムもすごいがトラックもすごいよな」


 ギャレットが村人の声を拾って通訳してくれるが誰が言っているのかまでは分からない。


 重神兵の近くまで行ってまじまじと見ていたデルゾルが振り返り大声で俺に話しかけてきた。


「あのトラックはゴーレムが引くには重そうだが、このゴーレムで引けるのか?」


 酔っている俺は盛り上がる事を言わなければと使命感が湧き出ていた。


「いや、トラック自体もゴーレムなんでそのゴーレムが引く必要はないんだ」


 カリョが通訳するとオジサンたちが一斉に驚愕の視線を俺に浴びせてきた。


「マジか?」「ホントかよ?」「え!?」「ウソ?」「スゲー!」


 酔った勢いのウケ狙いで言ったがそういう事にしておけばいいだろう。


「トラックのゴーレムなんて初めて聞いたぞ!」「ゴーレムとトラック、両方同時には動かせないよな?」「魔核は両方に入っているのか?」


 興奮した名前の知らないオジサンたち囲まれて質問攻め。


 ドローンも空飛ぶゴーレムと言って見せようと思ったが止めておいた方がよさそうだ。

 大変だけどカリョには頑張って通訳してもらった。



 しばらくしてオジサンたちの質問攻めから解放されると、


『カイヤ、私達もう帰りたいけどいい? 通訳いなくなるけど……』


 カリョが眠そうなマーツェを気遣う。カリョも疲れた様子だ。俺も酔いが覚めてきて疲れてきた。


「あ、そうだね。俺も帰りたい…… この宴会はいつ終わるの?」

『誰もいなくなったら終わりだよ。帰りたければ帰ると言って帰ればいいんだよ』

「じゃあ帰ろう。みんなに帰ると伝えて」

『わかった』


 カリョに『私たちは帰る』と村人に伝えてもらい、笑顔で手を振ってくれる村人に俺も笑顔で手を振って答える。


 振り返ってトラックに向かうと姉妹もついてきた。


「あれ? 帰らないの?」

『帰るよ。トラックに』

「え? 家に帰らないの?」

『うん、いいでしょ? お母さんには言ってあるから。このトラックのシャワーとトイレとベッドが気持ちいいんだ』

「いや、いいけどさ」


 まだカリョと一緒にいられると分かって正直嬉しかった。自然とにんまりしている自分に気が付き顔を引き締める。マーツェがニヤケ顔で俺を見ているが…… 気にしない!

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