第6話 科学の力

 俺は二人を処置室に置いたまま荷室から二つのヘッドセットを持ってきた。

 これから行う脳波での会話はヘッドセットで自分の脳波を拾い、相手の脳に対して言葉になる信号を送るのだ。


 何をするのかと気になるのか娘たちは期待をしているような表情で俺を見ている。ベッドに座るその二人に一つずつヘッドセットを渡すと俺はモニターの下で壁を背にしてしゃがんだ。


 俺は自分の頭を指さして同じものであることを認識させ、直径三ミリほどのカメラレンズが付いた方を前、小さな四つの出っ張りのあるコネクタが付いた方を後ろにして頭にかぶるジェスチャーをすると二人とも特に心配するような顔もせずヘッドセットをかぶってくれた。


 幅約二センチの黒いヘアバンド型のヘッドセットは伸びる素材でできているので大抵の人の頭につけることができる。

 俺は二人のヘッドセットが正しく装着されているか確認した。


 前は眉の上に一センチの隙間が空くようにし、横は耳の上ギリギリにすれば正しい位置になる。そうなるよう二人のヘッドセットを調整し、右耳の上にある円形のスイッチを押してオンにした。


「ギャレット、ヘッドセットをつけている三人で脳波会話を開始。会話から未知の言語を解析し、解析ができたところから会話サポートを行え」

「リョ」


 さて、会話を始めるとするか。俺はモニターの下であぐらをかいた。


 娘たちは次は何が始まるのか期待しているようで笑顔が見える。お菓子がかなり効いているな?


 まず、娘たちの前で指を一本、二本、三本と増やしながら立てて見せ、そのあとにもう一度同じように指を立てるのだが声にも出して「いち、にい、さん」と言う。


 俺の口から出る音でなく脳波をヘッドセットが拾って電気信号に変え、二人の娘のヘッドセットに渡し、ヘッドセットが二人の脳へ”一、二、三”の意味になる信号を送るのだが――


「「ギャ!」」


 二人ともものすごく驚いた顔をして瞬時にヘッドセットを頭から取った。まぁそんな反応になるよね。


「大丈夫、大丈夫」


 ヘッドセットを外した二人にはこの言葉の意味は伝わらないだろうが、とりあえず笑顔でまたかぶるようジェスチャーする。


 娘たちは険しい顔をして顔を見合わせたが、俺のことを信用してくれているのか再びヘッドセットをかぶった。


 次に指を四本から六本立てて「よん、ごー、ろく」と言う。彼女たちの脳に”四、五、六”の意味なる信号が届いたはずだ。


 二人とも難しい顔して頭を抱えている。混乱してるかな?

 何パターンか送ったら次は右手の指を一本立て見せ、口もパクパクさせて大きい娘に話すようジェスチャーしてみせると、


「フリ」


 大きい娘でなく小さい娘が言うと同時に俺の頭の中には”一”のイメージが届いた。


 イメージという言い方は変かもしれないが、耳で日本語の”いち”と聞いても英語だと前置きされてから”ONE”を聞いても頭の中には”一”が思い浮かぶ。


 ヘッドセットは脳波を拾っているが話すときは必ず声を出す必要がある。声を出す直前の脳波を拾っているのだ。


 技術的には考えただけでもコンピュータに司令を出すことも可能なのだが、会話の場合は思ったことがダダ漏れでは困るし、嘘も言えなくなるので声に出すときだけ信号が相手に送られるのだ。


 また声に出すことによってAIが未知の言語の音声を溜めていくことができる。AIが言語を解析し音声を溜め込めばヘッドセットがなくてもAIに通訳をやってもらうことができるのだ。


 未知の言語の話者とヘッドセットを通じて話すとき、文化文明によって作られた言葉はイメージとしてうまく送れない場合がある。


 相手が知らないものは伝わらないし、”コップ”を送っても文化の違いで相手は”茶碗”と聞こえるかもしれない。


 それよりも”食べ物”、”水”、”男”、”女”、”昼”、”夜”など文化文明に左右されない人類として基本的に使っている言葉なら間違いなく伝えることができる。


 このヘッドセットを使って未知の言語の話者と会話する機能は、戦時中に出会った少数民族から情報を得るために開発されたと軍で習った。頭にヘッドセットをかぶってもらうまでが大変だとも習っている。チョコレートやクッキーはその警戒を解くために用意されたものだが、ほとんどは兵士の休息用として消費されていた。


 娘たちは簡単な単語のやり取りをしているうちに面白くなってきたようなので短い文を試してみる。

 俺は大きい娘を指差し、


「キミの名前」

「……カリョ」


 大きい娘はちょっと恥ずかしそうに答えた。

 次に小さい娘を指差し、


「キミの名前」

「マーツェ!」


 小さい娘は胸を張って笑顔で答える。

 カリョにマーツェって言うのか。


 俺は自分を指差し「俺の名前、カイヤ」と言うと、娘たちは俺を指さして笑顔で「カイヤ!」と言った。


 娘たちから目をそらしできる限り小さい声で、


「ギャレット、俺から見て右の子の名前がカリョ、左の子の名前がマーツェ、収容した男の名前はオヤジで登録」

「リョ」


 自分のAIの名前を最初に出した場合、続く言葉はほかのヘッドセットに送られないようになっている。


 二人は姉妹、そして怪我の男は父親だと聞き、ヘッドセットを通しての会話に慣れてコンピューターによる補正も効くようになってきた。


 多くのイメージを一致させるために、さっき賊に襲われていたときの録画映像を処置室のモニターに表示して見せながら話をすることにした。


「ギャレット、重神兵視点での賊の映像を表示して」

「リョ」

「「キャー!」」


 モニターが地形図から賊の動画に切り替わると娘たちから悲鳴が上がった。その驚くさまと言ったら凄いのなんの。


 悲鳴を上げ二人で抱き合ってモニターから顔をそらす。確認のためかまたゆっくりとモニターに顔を向けて見るがまたすぐ顔をそむけ震えている。


「どうした?」

『『賊がいる!』』


 まぁ動画を見たことなければそうなりますかね。


 賊の動画を一時停止して「これは動く絵」と言いながらコマ送りとコマ戻しを繰り返して見せると姉妹は唖然とした表情でモニターを見た。



挿絵「補給トラック左側」

https://kakuyomu.jp/users/miyahahiroaki/news/16817330650518336473

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