第7話 魔法のある世界

 怪我人が寝ている処置室で騒ぐのは良くないので三人で後ろのコックピットに移る。上部にドローンの格納場所があるためコックピットの天井は通路より五十センチほど低い。

 中腰でコックピットに入るとギャレットが照明としてドームモニターから柔らかな白い光を出してくれた。


 俺、カリョ、マーツェの順で入る。

 コックピットは横並びの座席が二つだが日本人には少し大きい座席だし、姉妹も細身なので密着しなくても三人入る。


「ギャレット、モニターオン」

「リョ」


 四十五度前方に傾いたドームモニターはそれまで出していた白い光からトラックの周囲の映像に切り替わった。トラックの周囲を映すモニターにも娘たちは興味津津。屋外の椅子に座っているような感覚になっているのだろう。


「ギャレット、賊の映像をよく映っているカメラのもの全部出して」

「リョ」


 ドローンのカメラのほか重神兵のカメラやトラックの複数のカメラが撮影した動画があるのでドームモニターの前面には四つのサムネイルが並んだ。


 座席の前にある横に細長いテーブルの中央には両手で隠れるほどの大きさのトラックパッドが埋め込まれている。それを外して手に持ち指でなぞってカーソルを動かして重神兵カメラの動画を再生させる。


「こいつらは盗賊ってことでいいんだね?」

『『そう』』


 二人が興味深そうに見ていたモニターから目を離さず同時に答えた。


『隣町に商品のオイルを納めて、空のオイル樽を馬車に積んで村に帰るところだったの』


 襲われた恐怖が蘇ってきたのか二人の顔色が悪い。慌てて俺は動画を止めた。ここは配慮すべきだったか。反省。


 恐怖を振り払おうとしているのかカリョはやや強引に笑顔を作って見せてくれる。


「安心していいよ。俺は強いんだぜ、奴らがまた来ても追い払ってやるから」

『ありがとう。すごく強そうなゴーレムだったよね。カイヤは魔法兵なんだ』

「ゴーレム? 魔法兵?」

『違うの?』


 カリョの頭の中にあるデカイ人型のイメージが俺の頭の中で重神兵でなくゴーレムとして伝わるってことは、カリョの頭の中には俺の思い浮かべるゴーレムのイメージに近いものがあるということか?


「ゴーレムは見たことあるの?」

『もちろん。私たちの村にも二体いるよ』


 カリョはなぜそんな当たり前のことを聞くのかとでも言いたげな表情だ。


『そうそう! ものすごい爆発の魔法なんて初めて見たよ!』


 マーツェがカリョの陰から顔を出し笑顔を見せる。


「魔法? そ、そうなのか…… それで魔法兵って何かな?」

『え? 違うの? 魔法を使ってゴーレムを操り戦う人……』


 おいおいおい、魔法があるのか? 宇宙はものすごく広いのは知っているが魔法というものが現実に存在するのか? 神はそれについては何も言ってなかったぞ。この世界で生きていくにはそこのところ詳しく知らないとダメだろ。


 魔法について二人に聞くと怪訝そうな顔をされ「俺の国では魔法ではなく科学を使う」と言ったら科学が通じなかった。


 魔法は誰でも使えるのではなく、二十人に一人ぐらいしか魔力を持つ人がいないのだとか。魔力を持っていても魔法を使える魔法師になるには結構な修行が必要らしい。


 魔法はゴーレムを動かすほかは火や少量の水を出したり、自分を中心に体の周りを回る風を起こしたりするぐらいで、その中でもゴーレムを動かすことが一番有用で、魔力を持つ者は皆ゴーレムを動かすことに注力するらしい。


 強いゴーレムは兵となって国を守るし、強くなくても土木建築作業や荷車や客車を引いたりして仕事は多いそうだ。いま乗っている補給トラックのようなゴーレムが引くゴーレムトラックと呼ばれるものも村にあるんだとか。


 日本のファンタジー小説に出てくるような強力な魔法はないようなのでちょっと安心した。


 ほか、治安について聞いてみると長年関係の悪かった隣のアルザルマ王国の新しい王が野心家らしく、領土拡大のためこの国コルタス王国に攻め込もうとしているとかで国中の町や村にいた警備兵の多くは国境に集められているため治安が悪くなったそうだ。


 そしてアルザルマ王国はガルド教という宗教国家で奴隷制度があるため戦争に負けたらみんな奴隷にされてしまうかもしれないと。


 姉妹には俺のことも少し話した。違う星から神の力で転移してきたとは言っても信じてもらえないと思ったので逃亡したことは隠して、ニホンと言うすごく遠い国の兵士であると教えた。説明が大変なので重神兵はゴーレムってことにしたら『やっぱり魔法兵じゃないか』と言われてこれも面倒なので否定しなかった。


 これからどうするかも話し、今日はもう暗くなるのでこのままここで一泊して明日馬車を捕まえてから村に帰るということになった。


 娘たちと長々と話をしていたがドームモニターは前面中央に動画が映っている以外は外の風景を映している。外はだいぶ暗くなってきた。そろそろ夕食かな?


 ヘッドセットをつけたまま二人に会話させておけばギャレットが会話を収集解析してくれるハズだから資料動画の再生方法を教えておくことにする。


「ギャレット、日本のカルチャー動画を適当に出して」

「リョ」


 モニターの前面に日本文化の動画のサムネイルが横に四つ縦に三段で並んだ。この補給トラックのメモリユニットには基地を出る直前のインターネットのコピーデータやトラックの各設備・備品など、そして軍に関する流出しても構わない程度の情報が入っている。インターネットのコピーと言っても過去十年以内に更新された日本語のサイトと英語は軍事・医療絡みのみだがそれでも膨大な量の情報だ。


 姉妹にはトラックパッドを指でなぞるとモニター上のカーソルが動くことを見せ、タップで動画が再生したり停止したり閉じたりすることを知ってもらう。


 わかったようなのでトラックパッドをカリョに渡したら横からマーツェが奪い取った。妹に優先権があるのか? それはいいとして俺はメシを取りに行きたい。


「ちょっと出たいので二人とも通路に出て。そのあとも中で動画を見てていいよ」

『『わかった』』


 俺はコックピットを出て荷室に向かった。

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