第28話 ドキドキ

 俺は翌朝六時に目覚め、歯磨きのあとパンツとシャツのままコックピットで水を飲みながら今日はどうするかを目覚めきらない頭で考えていた。


 本当はコーヒーが飲みたかったがコーヒーは処置室にある。

 処置室はもう女子部屋になってしまった感があり、姉妹が寝ていて起こすわけにもいかず勝手に入るのは気が引けるので仕方なく水を飲んでいるのだ。


 コックピットのドアが開き、歯ブラシを咥えたパジャマ姿のカリョが中に入らず『おはよー』俺も「おはよー」


 カリョは挨拶だけしてシャワールームに戻ったが、歯磨きを終えたら今度はコックピットに入ってきて俺の隣りに座った。


『おはよー』

「ああ、おはよう」


 カリョは謎の微笑みを浮かべて俺と目を合わせたあと、左腕に抱きついてきたと思ったら目を瞑って俺の肩に寄り掛かってきた。


 なんだなんだ? 寝ぼけているのか?

 ――ドキドキしてきた。


『カイヤ……』

「はい?」

『昨日は凄く楽しかった』

「そ、そう。良かったね」

『うん。良かった…… でもそんなに楽しくなくてもいいから…… 毎日幸せだといいな……』

「――そうだね」


 そっか、昨日は地図を買うときにお金が心配になったくらいであとは皆楽しい時間だったかも。


 争いを忘れて水遊びをして、お金を手にして買い物に出かけ、美味しいものを食べて、着飾り、綺麗だと褒められ、大歓声の中で観客に手を振って―― 凄く楽しかったのか。そして毎日が幸せであればと――


 今、俺の左肩にカリョの頭が寄り掛かっている。そのつややかな髪から漂うシャンプーの甘く爽やかな香りが俺の鼻腔をくすぐる。

 俺もカリョの頭に顔を寄せていいのか? それとも顔を上げさせてキスして…… 嫌われないかな?


 迷っているとドアが開いた。もちろんマーツェさんだ。


『あらー、お邪魔だったかしら?』


 咄嗟にカリョが俺から離れる。俺も背筋を伸ばして背を向ける。


『お姉ちゃん―― ウフフ』

「ちょ、朝食を食べながら今後のことを相談しようか」


 俺は強引に状況を変える話を出したが声がチョット裏返ってしまった。



 姉妹が部屋着に着替えるのを待ってから処置室のレンジで弁当箱型を三つ温めコックピットに戻る。


 もうさっきの出来事なんて無かったかのように食事を始めた。今回の戦闘糧食のメインはチーズ入りハンバーグ。安定のうまさだ。


「ギャレット、コルタス王国の地図を拡大表示」

「はい」


 コックピットのモニターにTCのカメラで取り込んだ地図が拡大表示された。


「ここはジルデッグだっけ、文字読めないんだけど、地図だとどこ?」

『ここ』


 カリョがトラックパッドを使い地図のところどころに書かれた赤い丸印のうちの一つをカーソルで示した。その下に書かれている文字がジルデッグらしい。


「じゃあカリョたちの村とメゼズはどれ?」

『村がここで、メゼズがここ』


 村からここまでの移動時間を考えると王都メゼズまでは百二十キロぐらいか。徐行で六時間。


 行きたくないな――


 地図を眺めていると青い線や青色で不規則な形に塗りつぶされているところがあるが川と沼か湖だろう。青を使うのは地球と一緒か。

 メゼズへの方角とは少し外れるがここから三十キロほどのところに青の塊がある。

そこにカーソルを持っていって聞いてみた。


「これは湖かな? どんなところか知ってる?」


 カリョは地図を見つめて少し考えていたが、思い出したらしく口を開いた。


『フッカカ湖。行ったことはないけど聞いた話では山の麓の綺麗な水の小さな湖で、半分以上森に囲まれ小さな魚が少し泳いでいるだけでほかには何もない寂しいところだって』

「おー、それはいいかも。よし次はキャンプしよう」

『キャンプ?』

「そう、湖のほとりで料理を作ってのんびりしたいな、と思ってね」

『私が料理作るよ!』『賛成!』


 カリョが料理を作ってくれると言ってくれたが食材は基地からの転移でいいよな?

 俺はこの星の食材のことを何も知らないが、虫とかミミズみたいなやつを食う文化じゃないことを確認するのは後でもいいだろう。


「食材は俺の国から転移するからこの後は服を買いに行こう。俺は目立ちたくないからこの国の服が欲しい。キミらも綺麗な服を着ていたい気持ちは分かるけど、目立つと危険を呼ぶから普通の服を買いに行こうよ」


 つまらなそうな顔をして見合わせる二人。口をとがらせながらもうなずいた。


『『わかった』』

「じゃあ食べたら買い出しに行こう」

『『はーい』』

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