第29話 キャンプに出発
地球産の服を着た姉妹とともにトラックを出る。駐車場の料金所へ行って今日の分の駐車料金を払い繁華街へ向かう。
まず俺の服から買いに行き、次に姉妹の普段着、そして皆のサンダル、宝石店でネックレスを買った。
ネックレスは昨夜の勝ちで得たお金で金のチェーンの綺麗な石のものが買えたけどなんだか無駄遣いしていませんか?
昼近くになりトラックへ戻ろうと駐車場に入るとプロモーターのエルゲニがいた。今日もゴーレムバトルの選手を探しているようだ。
「エルゲニさん、こんにちは」
「おー! カイヤさんにお嬢さん方、こんにちは。チャンプとして参加してくれる気になったかな? いやね、昨日あのあと大勢の常連客から”今まで見たことのない痺れる試合だったよ”とか”あの美女の名前は?”とか”次の出場予定は?”とか大反響だったんだよ…… だからカリョさん、また出てくれないかな?」
笑顔のエルゲニの言葉にカリョが照れてモジモジしながら下を向く。
「その件なんだけど、実は俺たち神の兵団に入るためにメゼズに行く途中なんだ。この姉妹は通訳兼道案内として一緒に来てもらってるだけで入るのは俺だけね」
「あー、やっぱりそうなのか。カリョさんがあんなに強いなら神の兵団の話があるかもとは思ったがカイヤさんが神の兵団に入るのか」
「神の兵団は知っているの?」
「もちろん、軍から私のところにも有望な人間がいたら紹介してくれと来たよ。明後日にはドルマも行くはずだったがゴーレムの修理に時間が掛かるし、あんたらが行くと聞いたら行かないかもしれないなぁ」
「そっか。まぁ、そんな訳でゴーレムバトルには参加できないんだ」
「一日くらい余裕があるだろ?」
「ちょっと寄るところがあるんでね」
「そうか。残念。でも気をつけてな。この国のために―― あれ? あんた外国人だろ?」
「この国の人間じゃないが放っておいたらいつか俺の国にも奴らが来るかもしれないから。今、力を合わせて止めなきゃね」
「そうか、そうだな、うん、森のゴーレムと鉄のゴーレムがいれば負けないだろ。勝ったらまたここに来てくれよ。お嬢さんたちも気をつけてな」
「ありがとう、それじゃ」
鉄のゴーレムの話はエルゲニの耳にも入っていたか。森と鉄は同じなのだが。
しかし俺の先入観として興行プロモーターは胡散臭い奴が多いと思っていたのだが、エルゲニは普通にいい人だった。俺の先入観を正したい。
トラックに戻ると俺は通路で着替え。処置室前の通路に置いたマットレスの上が俺のパーソナルスペースになってしまった。
姉妹に選んでもらった俺の普段着は青色のゆったりとした幅広のズボンと白の長袖シャツ。TCを入れるために左胸に大きめのポケットがあるヤツが欲しいとだけ伝えていた。
センスのない俺にこの格好がいいかどうかはわからないので不満もなくそれに着替える。
俺が着替えたシャツやズボンの縫い合わせにほころびがないか確認していると処置室からカリョとマーツェが着替えて出てきた。
『カイヤ、これどうかな?』
少し恥ずかしそうにしてカリョが聞く。
カリョは白のブラウスと青色の膝丈のキュロット、マーツェは白と黒のフリルレース付きブラウスと黒の膝丈キュロットだ。マーツェは普段着もゴスロリ感を出しているがそこはやっぱりマーツェらしい。
カリョの
「カリョと俺、お揃いの色なんだね……」
『んー、それは気がついても言わない方が良かったんじゃない?』
カリョは顔を赤くして恥ずかしそうにモジモジしている。
あ―― 確かに言わないでも良かった……
「う、うん、二人ともよく似合っているよ」
『カイヤも似合っているよ』
カリョは恥ずかしそうに小さな声でそう言うと処置室に戻ってしまった。
マーツェを見ると意味深の微笑みのままうなずきコックピットに入っていった。
俺は一人で反省会だ。
トラックは街を出て湖に向かう。速度は徐行。街から少し離れてからドローンを飛ばした。
補給物資の運搬中は非常時を除いて必ずコックピットにいなければならなったが、そんな軍規はこの世界で意味はない。乗降口前にあった皆の靴を横によけてドアを開け、外に足を放り出して座り、離れていくジルデッグを眺める。
外の風景はコックピットのモニターで見るより肉眼で見た方がいい。やっぱリアルがいいよ。
風を感じて―― 雲が出ているけど雨を降らすほどの雲ではないかな―― そのまま仰向けになったら少しウトウトしてしまった。
「クエスチョンワン、寝てるの? 目的地までのコース検討を手伝って欲しいんだけど」
「ん…… りょ」
起き上がってコックピットに入る。マーツェは奥の座席に座り向こう側に顔を向けて眠っていた。モニターの中央には動画のサムネイルが並んでいる。どうやら動画を見たまま眠ってしまったようだ。
「ギャレット、動画を消して地図を出して」
「はい」
ギャレットには昨日取り込んだコルタス王国の地図からフッカカ湖を目的地に設定してもらっている。
ドローンで取り込んでいる地形図との相違があるのは調整してもらっていたが、地図に書かれた湖までの道が草で覆われているらしく、確認できないのでどうしようかとの相談だった。
ドローンが上空から記録した地形図を見ると湖の三分の二は森に囲まれ残りは草原と砂地。最終目的地を砂地に定めて、
「ギャレット、地図に書かれている道は無視して地形図を元にできるだけ凹凸が少なく、平坦なコースでそこに行けるかな?」
「調査するね…… 今、地形図に青線を引いたコースが良さそうだけど、そのコースを徐行でいいよね?」
「オッケ。デコボコが多かったら微速に切り替えて」
「わかった」
「マーツェ、もうすぐ着くよ」
俺は隣で眠るマーツェに声をかけた。
『ん…… そう…… ねぇ、カイヤ』
「なに?」
マーツェは背もたれに上体を預けたまま虚ろな目でモニターを眺めている。
『お姉ちゃんのことどう思っているの?』
「え――」
『何か、あるでしょ?』
「まぁまぁまぁ、それは……」
『ハッキリ言いなさい』
マーツェはすっかり目覚め、体を起こして俺を睨んできた。
「それはその…… まぁ可愛いと言うか…… もちろんマーツェも可愛いなと思ってるし……」
『私はいいの。お姉ちゃんのことをどう思うか聞いてるの』
「ん―― もっと一緒にいたいとか……」
『それならなんであっちの部屋に入らないのさ』
「二人きりだとさ…… 緊張しちゃってさ……」
『そうなんだよね、私とは普通に話すのにお姉ちゃんと話す時はどこか普通じゃないよね』
「あいだにマーツェが入っているくらいの距離が話しやすいかな……」
『へー、で? 結局お姉ちゃんのこと好きなの?』
「ん? んー 好き…… だよ……」
『うん、その言葉が聞きたかったのよ! 応援するよ!』
「あ、あぁ、ありがと……」
何を言わせるかな―― 言わなくても知っていただろ。
マーツェはゴスロリファッションのせいか俺をからかっている小悪魔のように思えるが、応援していると言うのなら天使にも思える。まだ正体はわからない。
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