第23話 尾ひれ
姉妹の買い物に付き合い荷物持ちにされ三時間以上歩き回った。何件もの店を見て回り絨毯と大きな布を何枚か購入。さらに貴金属店も見て回った。
ドレスのサイズ直しは応援を呼んでも一刻半(三時間強)はかかると言われていて、その時間はすでに経っているのでドレスを引き取りに行った。
「疲れたよー。もうトラックに戻りたいけど良いかな?」
歩き回って俺の足は棒になっている。一応は軍人だったから訓練で鍛えられてはいるがそれでも人間だから疲れはするし、もう軍人じゃないし。
『そうだね。あ! 早いけど夕食にしない?』
『賛成!』
カリョの提案にマーツェが賛同し、昼間のレストランに行くことになった。
店に着き、中に入ると店内は客がそこそこ入っていたが空席も目立つ。まだ早いらしい。俺たちはさっき座った席が空いていたのでそこに席を取るとテーブルの横には買い物した品でちょっとした山ができた。
オーダーは姉妹に好きなものを頼んでと言って任せ、十五分ほど待つとオーダーした料理が次々にやってきた。
『すっごく美味しそうだ!』
料理を見てマーツェが興奮している。
『きっと美味しいよ』
カリョも嬉しそうだ。姉妹の嬉しそうな顔を見ていると俺も嬉しくなってくる。
その並んだ料理からは美味そうな匂いが漂ってきた。何かの肉のステーキ、肉野菜炒めらしきもの、何を煮込んだかわからないが黒っぽいシチューのようなもの。そしてパンだと思う茶色い塊。
しかし一昨日の宴会のときに気がついたのだが俺にとっては未知の食材だということを。ここは地球ではない。虫とかミミズみたいのが使われていたらどうしよう? 宴会の時は明らかに肉と野菜に見えるものだけ食べたし、昼間の饅頭は食べる直前にそのことを思い出して食べれなくなり、マーツェに食べてもらったが今回は挑戦するしかないか。
姉妹はお祈りをしてからフォークを持ち料理を口に運んだ。
『んー、まぁまぁかな…… もっと美味しいのを期待したけど』
味を確認して感想を言うマーツェにカリョも、
『そうだね…… 以前ならすごく美味しいと思ったかもしれないけど、カイヤが持っている箱の食事の方が美味しいね』
そう言いつつも美味しそうに食べる姉妹。俺も意を決してシチューのようなものからスプーンですくって食べる。
んー、味は悪くない。しかし、この小さな肉っぽいものは何だろう? 俺は食わず嫌いだから美味しいかどうかじゃなくて食べ慣れたものじゃないと体が拒否してしまうのだ。やっぱり戦闘糧食が最高だ。
姉妹は食べながら今日買ったものについて話し始め、俺は黙ってその話を聞きながら食べていると右隣の席に客が座った。
短髪色黒のオヤジと長い白髪を後ろで束ねた小さいじいさん。
その男たちが店員にオーダーしたあとの会話にカリョが興味を持ったようだ。
『カイヤ、隣の客の話をギャレットに通訳してもらって』
カリョは隣に聞こえないように顔を寄せて小声で話す。
「ん? ギャレット頼む」
「オッケー」
「で、その鉄のゴーレムが滑る絨毯に乗ってゴーレムのトラックに戻って行ったんだってさ」
ギャレットが男たちの会話を通訳してくれるが俺は男たちを見ないようにしているのでどちらが話しているのかはわからない。
「人型のゴーレムにトラックのゴーレム? 滑る絨毯? それってどこまで本当なんだ?
ガレドレアが壊滅したって話はほかでも聞いたけどさ、魔法の杖やその滑る絨毯は作り話なんじゃないのか? 鉄のゴーレムって鎧を着たゴーレムと何が違うんだ?」
「俺も信じられないけどエグリバから来てる奴が本物の神の兵士を俺は見たって興奮して話しているからさ」
「ゴーレム一体でってところはみんな言うけど、ゴーレム一体でガレドレアを壊滅させられるか? ゴーレムの足じゃ馬は追えないだろう?」
「それがその滑る絨毯に乗って飛んでいくんだってよ。あ! そういえば鉄のゴーレムの背中に蓋があって中から神の国の兵士が出てきたって話もあった」
「なんだそれ!? 嘘くせー! もっとマシな嘘をつけってんだよな!」
二人の男が怒ったり笑ったり
「なぁ、あんたら俺も話に混ぜてくれ」
急に割り込んできた声にちょっと驚いて見てみると、隣の男たちの盛り上がりに加わろうと一人の男が隣のテーブルに寄ってきたところだった。そしてそれにつられて他に三人の男がそれぞれ別のテーブルから集まってきた。
「俺が聞いた話だけど、戦いが終わって戻ってきたそのゴーレムが気が付けば人の姿になっていたんだってよ。それがその神の国の兵士なんだとか」
「俺が聞いたのはゴーレムの持つ杖を振り上げると人を石にする魔法が出てそれで馬上の盗賊はみんな石になって馬から落ちたって話だった」
「戦いの話だけじゃないだろ、飲めば千年生きられるって神の国の美酒が振舞われたって話も聞いたぞ」
「そうそう! 塩もだよ! 神の涙から作られたという真っ白な塩が配られ、それをなめると病気にならないんだってよ!」
男たちの口から出るその話題はどうしてそうなったのか事実と違う内容だったり大きな尾ひれがついたものが幾通りもあって、誰かが聞いてきたと言う話をすれば別の誰かが「そんなバカな」「嘘だろ」と否定して大盛り上がりだ。
俺たちは黙って食べながら笑いをこらえてその会話を聞いていたが、マーツェだけは笑いをこらえきれずに二度食べ物を吹き出した。
あらかた食べ終わり姉妹がそれなりに満足したようなので帰ることにした。噂話をしていた男たちの盛り上がりは喧嘩に発展しそうなほどになり、もう笑えそうになかった。
食事の会計はというと六百二十オジェ。結構な金額だ。毎日これを繰り返したらすぐにお金が底をつくので少し抑えないと。
俺たちは夕暮れの道を重い荷物を抱えてトラックに戻ると荷物は怪我人用リフトで上げた。
買い物した品の中に大きさの違う三枚の細長い絨毯がある。これが運ぶのに一番重かったが、通路と処置室とコックピットに敷くんだそうだ。
俺はカリョに言われて一番でかく細長い絨毯を通路に敷いた。濃い緑色が基調のペルシャ絨毯のような模様だ。
姉妹も処置室とコックピットに同じ模様のサイズ違いを敷いている。通路は搭乗口の手前五十センチのところから荷室のドアまで絨毯が敷かれた。靴は搭乗口前の絨毯の無いところに置いて車内は荷室以外土足禁止だ。
俺が通路に絨毯を敷き、その上にマットレスや寝袋を敷いて自分の寝床を作り終えたころ、処置室のドアが空いてカリョが顔を出した。
『カイヤ、見て。どう? 綺麗でしょ?』
俺が処置室の覗くとそこは床に絨毯、ベッドのシーツは二段目が淡いピンクで一段目が水色、そしてベッドの二段目と三段目の柵から淡い紫の薄い布が垂らされカーテンになっていた。
「うん綺麗だ。高級なホテルみたいになったね」
実際のところこの世界の高級ホテルのことは知らない。だが狭いことを除いてドライヤーにトイレやシャワーなどの設備を含めればおそらくはこの世界の高級ホテル以上だろう。
『ずっとここに住みたいな……』
うっとりとした表情で狭い室内を見渡すカリョ。俺は”ずっと住めばいい”と言いそうになったけどプロポーズみたいだと気づいて言えなかった。まだ出会って四日だから。
それはさておき、こうなると後ろのコックピットも気になる。コックピットのドアを開けて中を覗くとマーツェが座席に寝転がり動画を見ていたが、やはり床には絨毯が敷かれ、黒い二人がけの座席は淡いピンクの大きな布で包まれていた。
これ軍用車だよな? キャンピングカーみたいになってきた? 心のどこかに罪悪感が湧いているのが気になったが脱走したことに比べれば大したことじゃないと気が付いた。
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