第24話 ゴーレムバトル

 模様替えの確認が終わると俺は通路の寝袋の上であぐらをかき、荷室のドアを背にして雑貨屋から手に入れた地図を広げた。


 これからどうするか…… 今日はもう暗くなるからこの駐車場で一泊し、明日王都メゼズに向かおうと思うが…… まだ結団式までだいぶあるしな…… メゼズに入って連絡書を見せたら即軍隊入りとかなければいいけど。


 地図は厚手の紙に手書きの複写のようだ。コピーなんか無い世界だもんな。細かく書かれているからやっぱり高価になるのは仕方ないか。


 広げた地図をTCのカメラで取り込んでいるとコックピットから顔を出したマーツェが声をかけてきた。


『ねぇカイヤ、ゴーレムバトル見に行かない?』

「あ、そっか、そうだね。見に行こうか」


 それはやっぱり見ておかないとな。CGじゃない本物のゴーレムの戦いを。


『お姉ちゃん、ゴーレムバトル見に行こう!』


 マーツェが処置室のドアを開けて中のカリョに声をかけた。


『行く。ちょっと待って、転移した化粧品を試すから』

『賛成! 私もお化粧する!』


 壁の向こう、処置室のカリョは見えないが入り口のマーツェは大はしゃぎだ。化粧品も転移していたとは知らなかったが、動画のアイドルを見れば化粧していることに気づくだろうし、気づけば化粧品も転移できないかギャレットに聞いただろう。そして綺麗になるなら俺に異論はない。


「キミら化粧したことあるの?」

『ないけど動画で見ているから大丈夫!』


 マーツェが自信たっぷりで答えてくれたが、どうなるか仕上がりが楽しみだ。


 俺は地図の取り込みを終えると靴を履いて先にトラックの外に出た。外はすでに日が落ちている。暗いので搭乗口の上に付いているリフト周辺を照らすライトをオンにして姉妹を待った。


 待つ間、駐車場の端にある大きな闘技場に目を向けると周囲に置かれたかがり火に照らされていた。


 ゴーレムバトルか。楽しみだな。地球じゃ見られないもんな。そういえば動いているゴーレムはまだ見てなかったっけ。村のゴーレムは立ったままだし、ゴーレムトラックは簾で隠れていたし。


 そんなことを考えていたが姉妹はなかなか出てこない。化粧は時間がかかるものだっけ?


 二十分ほど待たされただろうか、搭乗口が開き姉妹が抱き合うようにして一緒にリフトに乗って降りてきた。二人はサイズを直したドレスを着ている。


 俺はTCの画面を照明モードに切り替えて並び立った姉妹を照らした。


『どうかな?』『おまたせ!』


 カリョはどこか恥ずかしそうでマーツェは自信ありそうだが二人とも化粧もドレスも良く似合っている。


 しかし…… なんとも対象的な姉妹だ。カリョが白とピンクのドレス、そしてアイラインと口紅だけの化粧だけどこれが綺麗と可愛が絶妙なバランスで共存している。ゴーレムバトルになんか行かないでコックピットで二人で酒を飲みたくなってきた。


 で、マーツェだがマーツェは黒のドレスに濃いアイシャドウ、そして赤黒い口紅。日本の昔のカルチャー動画で見たことがあるゴスロリとかいう人たちを思い浮かばせるファッションと化粧。


 こっちは背の低さも相まって不気味さと可愛いさが絶妙なバランスで共存している。二人とも動画に影響されたんだろうけどすごくいい。


 黒のヘッドセットが姉妹の美を邪魔するかと思ったがそれもアクセサリーだと思えばそれほど邪魔でもなかった。


「二人とも凄く綺麗だよ」

『ハハハ、私に惚れるなよ!』


 マーツェは少し恥ずかしそうにしながら照れ隠しだと思われる言葉を出してきた。


『ありがとうカイヤ。そう言ってもらえてとてもうれしい』


 はにかむカリョの言葉はとても素直で俺の心に潜り込んでくる。惚れてしまうだろ…… いや、もう惚れているよ。


 そんな姉妹を連れてモスグリーンの戦闘服を着た俺が闘技場まで歩く。ドレスに合わせて一緒に転移したらしいハイヒールの足取りが少しおぼつかないので二人の手を持って支える。まさに両手に華なのだが俺の服だけが残念だった。


 外から見たこの大きな闘技場は昼間見たときとだいぶ印象が違う。かがり火があちらこちらに灯されていて周囲は明るいが、戦いと金が動く場所のせいなのかぬらぬらと揺れ動くかがり火の炎が妖しい雰囲気を醸し出している。


 観客用の入り口に行くと濃い紫色の服を着たプロモーターのエルゲニがいた。客の入りを気にしていたのだろうか。


「お! 来てくれたね」

「暇だったから見に来たよ」

「そうかいそうかい、もし出場する気になったら言ってくれよ! それにしてもお嬢さんたち、凄く綺麗だね! こんなに美しいお嬢さんたちを一般席に座らせたらスタッフに怒られるよ!」


 そう言うとエルゲニは中の係員を呼んだ。一言二言係員に言い終わると笑顔でこちらに振り向く。


「VIP席に案内させるから楽しんでいってね」

「ありがとう」

『『ありがとう』』


 やっぱりこの世界でも美人は得なのか。カリョもマーツェも凄く綺麗と言われ上機嫌だ。


 俺たちは薄いグレーの制服を着た係員について階段を登り、二階の観客席に出ると右側に大きな円形の闘技広場が見えた。直径は四十メートルはあるだろうか。高さ八メートルほどの壁が闘技広場をぐるりと囲み、その外側が見下ろす形の観客席になっている。


 闘技広場を右にして観客席の通路を歩くと姉妹はすぐにほかの客の注目を浴びた。


「おいおい見ろよ、すげー美人が来た」

「わー、あの白とピンクのドレスの人、妖精みたいに綺麗」

「黒のドレスに黒い化粧ってすっごく斬新! 痺れるわー」

「見て見て! あの輝くサラサラの髪! どうしたらあんなにツヤツヤの髪になるんだろうね」

「なんであんなダサい服の男が美女二人も連れてるんだ?」


 客席がざわつく。ギャレットが俺たちに関係ありそうな声を拾って訳してくれるが俺の戦闘服はダサいと言われるほどなのか?


 それにしても二人はスッピンでも美人なのに化粧してドレスを着ているからな。美人姉妹を連れて俺は鼻が高いぜ。


 観客席を見るとこの辺りは一般席らしく四列の階段状になっていて後ろのほうが高くなっている。席は全体で五百くらいはあるだろうか。三分の一くらい埋まっていて通路には賭けを受けていると思われる係員がいる。


 観客席の後ろの壁には小さなかがり火が五メートルほどの間隔を空けて闘技場を一周している。闘技広場の上にも多くのかがり火が吊るされていて闘技場の壁や天井、通路は皆白く塗られている。かがり火の反射が場内を照らすよう少しでも明るくするため白く塗っているのだろう。


 係員に連れられ俺たちは一般席を通り過ぎ、VIP席に通された。一般席は木のベンチだったがVIP席は前後に二列あり、それぞれの列には三つの白いソファーがある。つまりVIP席は六組分だけ。ソファーの前には細長い白いテーブルがあり飲み食いもできそうだ。


 VIP席は俺たち以外に二組が前列両端のソファーに座っていた。俺たち案内された席は後ろの席の中央、大きな四人掛けのソファーだ。うん、ドレスに木のベンチは似合わない。ソファーにはマーツェが真ん中、左にカリョ、右に俺が座る。


 間もなくして打ち鳴らされる鐘の音。それに続いて大歓声が沸き起こった。試合が始るようだが凄い熱気だ。


 俺たちの場所から見て闘技広場の右側と左側にそれぞれ白いマークと黒いマークがついたゴーレムの入場口があり、それぞれから一体のゴーレムと一人の魔法師と思われる男が出てきた。ゴーレムは両方とも全身鎧。動いているゴーレムを見るのは初めてだが感動的だ。人が魔力で動かしているんだから凄いよな。


 VIP席の反対側、一般席前に作られた小さなステージに黒い服の男のアナウンサーが闘技広場に向いて立ち、声を張り上げてゴーレムの名前と戦歴を紹介し始めた。


 右のゴーレムは銀色の鎧だが頭と肩だけ赤色で小ぶりの斧を左右の手に持ち体高四メートルくらいだろうか、重神兵よりやや小さいようだ。そして左のゴーレムは全身黒の鎧を着ている。長く大きな両手持ちの斧を持ち体高は三メートル強か。右のゴーレムより二回りは小さい。それで勝負になるのだろうか?


 両方の選手紹介が終わるとそれぞれの入場口の奥から係員が台車に乗った鉄柵で囲われた白く大きなソファーを入場口まで持って出てきた。鉄柵はかなり頑丈そうに見える。


 当たり前のように魔法師がその鉄柵の中に入りソファーに座る。そこからゴーレムを操作するようだ。鉄柵なのはゴーレム同士の戦いの巻き添えを食らわないようになのだろう。

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