第25話 恐れ知らず

 選手紹介が終わると賭けが始まった。賭けるには通路に立つ賭けを請け負う男たちを客が手を上げて呼ぶようだ。一般席の方ではどちらに賭けるかで盛り上がっている。異国情緒、いや異世界情緒満載でいい感じだ。


 体感で十分くらい経っただろうか客席のあちらこちらで赤旗が振られ賭けが締め切られたようだ。そして鐘が鳴って試合が始まった。


 ゴーレムをどうやって操っているのかと気になって魔法師の方に目を向けると、鉄柵の中のソファーに座り腹の上で手を組み頭を垂れて微動だにしない。両方の魔法師が同じ姿勢だ。魂はもうゴーレムの魔核に入っているのだろう。


 ゴーレムに視線を戻すと二体は中央に歩み寄り、双方とも間合いに入るなり躊躇なく斧を相手に叩きつけた。お互いの斧がぶつかり火花を上げて弾かれる。


 試合開始からまだ間もないが二体の動きを見ると頭の赤い大きい方は鈍いがその分二本の斧が交互に相手を攻める。全身が黒い小さい方は素早い動きで大きな斧を相手に叩きつけるが見た感じだと赤いゴーレムの二刀流がやや優勢のようだ。


 黒いゴーレムの大きい斧の振り下ろしを赤のゴーレムが左手の斧で受け流し、右手の斧で切りかかる。かろうじてその攻撃を黒いゴーレムが躱すのだがそのパターンが繰り返されていて黒いゴーレムの攻撃が届かない。


 このままではいずれ黒のゴーレムが攻撃を食らってしまうと思っていたが、黒の攻撃を赤が左の斧で受け流すのを失敗し左の斧を落としてしまった。そこで形勢が逆転した。落とした斧を拾う瞬間を狙われるので拾いに行けない。


 赤のゴーレムは大きさで勝るもののスピードで劣り、武器は小ぶりの右斧一本。スピードで勝る黒のゴーレムは大きい斧を両手で振りまわす。


 小ぶりの斧一本でなんとか防御するが、スピードで劣る赤のゴーレムは左の腕と肘の鎧の隙間に斧を受けて腕を切り落とされてしまった。そこで赤のゴーレムが右手の斧を手放して両手を上げる。降参のポーズのようだ。


 客席から歓声と大きな怒号が上がる。近くの一般席の客も立ち上がって怒鳴っている。その歓声と怒号を聞いていると自分の中に何か湧き出てくるものに気が付いた。


 俺もちょっと戦ってみたい…… と、思ったそこに、


『カイヤも出てみたら? 絶対負けないでしょ?』


 マーツェが挑発をするかのように微笑みながら上目遣いで俺を見る。


 パワーに関しては力比べしてみないと分からないがスピードでは負けないし魔法で強化でもされていなければ所詮は土の塊だ。負けはしないだろう。メゼズに行く前にここでゴーレムとの戦いの感覚を掴んでおくのもいいかも。


 俺は姉妹に参戦すると伝えて協力を頼み、段取りを説明し終えると場内を見まわしてプロモーターのエルゲニを探した。


 目を凝らして濃い紫色の服を探すが見つからない。まだ闘技場の外かと思ったらエルゲニはVIP席左隣の関係者席とおぼしきところにいた。


 姉妹を連れてエルゲニの元へ歩く。


 関係者席は一般席の木のベンチとは違い、一人用の椅子になっていて座面も背もたれもクッションがついているひじ掛け付きの座り心地の良さそうな椅子だ。その椅子の一つにエルゲニはひじ掛けに腕を乗せて座り、考え事でもしているのか難しい顔で闘技広場を見ている。


「エルゲニさん、だったよね?」


 エルゲニは俺たちを見るとそれまでの難しい顔を一瞬にして笑顔に変えた。


「おー、楽しんでくれているかい?」

「俺はカイヤ、こっちはカリョとマーツェ」

「本当に美しいお嬢さんたちだね。アンタが羨ましいよ」

「早速なんだがゴーレムバトルに出ることにしたよ」

「そうかい! 歓迎するよ! で、いつ出る? チャンプ戦なら今日出られるけどレギュラーマッチなら明日のスケジュールに入れるよ」

「チャンプ戦がいいな」

「本当かい? 無謀だよ? 大事なゴーレムを壊しちゃうよ」

「俺のゴーレムはかなり強くてね。心配はいらないよ」

「んー、その自信はどこから来ているのかな? まぁいい。チャンプに勝てれば賞金一万オジェだ」

「賞金はいらないよ。ただの腕試しだ」

「本当か? 賞金は要らないし腕試し? 勝てる自信もあると?」


 賞金をいらないと言ったのはこっちは重神兵だからだ。ハッキリ言えば反則だという意識がある。


「ああ、勝てる。俺のゴーレムに敵はいない。あと、試合に出たいのはこっちの姉妹だ。両親が作った魔核を受け継いでいて俺の魔核と入れ替えている。今日は姉の方が腕試しさせてもらうから」


「なんと!」


 俺が重神兵の中に入るから魔法師役をカリョにやってもらうことにしている。


『今聞いたとおり賞金はいりません。軽く腕試しさせてもらいます』


 姉を差し置いてマーツェが話しだした。


「もの凄い自信だね。賞金が要らないならなおのこと歓迎だ。だが派手に壊されないよう気をつけてな」

『大丈夫ですよ。それよりチャンプのゴーレムを心配した方がいいですよ。直せないほど壊されないようにと』


 その言葉に反応した男が関係者席にいた。


「随分と強気なお嬢さんだな。でも弱いやつほど威勢はいいんだよな」


 エルゲニの左斜め後ろにいた顔面傷だらけで短髪強面の痩せた男が立ち上がって睨んでくる。口元は笑っているが目は笑っていない。


「ドルマ、まてまて、久しぶりの挑戦者だぞ」


 エルゲニが後ろの男に振り返ってなだめる。


「エルゲニさん、怖いもの知らずの若者には教えてあげなくてはならないことがあるでしょう」

「わかったわかった、でもここでするんじゃない試合で教えてさしあげろ」


 どうやら現チャンプらしい。


『何を教えてくれるのかしら? 楽しみにしていますからがっかりさせないでくださいね』


 笑顔とおねだりするかのような声で挑発するマーツェ。


「何を!?」

「そこまで! そこまでぇー!」


 掴みかかって来そうな形相で前に出るドルマに。エルゲニが立ち上がって間に入って強制終了。俺とカリョはゴスロリマーツェの恐れ知らずな応対に思わず顔を見合わせてしまった。


「ゴーレムバトルについて説明するから来てくれ」


 エルゲニが歩き出したので俺たちもついていき関係者席の後ろにあった階段から一階に降りた。

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