第40話 王城 ~ 謁見の間

 翌日、朝食のあとトイレとシャワールームの掃除を始めようとする姉妹に俺は声をかけた。


「カリョ、マーツェ、大神官に会いに行く前に準備があるからあとで協力して」

『何の準備?』

「問題が発生したときの保険…… 対策だよ」


 補佐官ミコトが四の刻に迎えにくると言っていたがそれまでに不測の事態に備えて準備しておきたい。昨夜のゴーレムバトルで王子は俺を負かそうとしていたと思われながらも結局勝てなかったから何かあるかもしれない。


 王子がミコトに森のゴーレム=鉄のゴーレムで大神官に会いに城に来ると聞いている可能性があるからだ。

 俺は偉そうな若造ほど根に持つものだと死んだオヤジの言葉を思い出し、用心することにした。



 四の刻の鐘が鳴る前、ミコトが馬車に乗って迎えに来たので俺とカリョがトラックを降りて出迎える。


「こちらの馬車に乗っていただけますか?」

「こっちのトラックは置いていくのか?」

「ええ、大神官に会っていただくだけですのでカイヤ様と通訳のお二人だけでいいのです」

「いやトラックを置いていくことはできない。見ての通りの珍しい形のトラックだ。盗まれたり傷をつけられたりするかもしれないから」

「そうですね。わかりました。ではトラックで後ろからついてきてください」


 俺たちはトラックのコックピットに入り補佐官の馬車についていく。こんな重いものが盗まれるハズがないのだがトラックも持っていかなければならない理由があるのだ。


 城壁に沿って走ると第二門に着き、ノーチェックで門を通る。


 第二門の先、大きな通りのその先には白く巨大な建物が見えた。塀に囲まれているが王城かもしれない。ここからでは正確な形はわからないが平べったい円柱を小さくしながら何段か重ねているような形。城だとしたら地球には無い形の城だ。


 第二門の内側は道も広く家々も大きい。上級階級が住んでいるんだろうか?

 商店もあるが店先のドアを開けているだけでは何を売っているのかわからない。店の中まではよく見えないからなのだが、カリョとマーツェは看板の文字で何屋なのかわかっているようだ。


 姉妹はモニターに映る店を目を凝らしながら見ている。いくら目を凝らしても解像度は上がらないのだが街ブラができる時間があったらどこに行こうか目星をつけているのだろう。


 第二門を通ってから数分もしないうちに城に到着した。やはり第二門から見えていた白い大きな建物が王城だった。


 城の門には左右各二人の衛兵が立っている。馬車に続いて門をくぐるがここもノーチェックだ。


 城を近くで見て気がついたが白い円盤を重ねたようなこの城の壁は幅一メートルほどの石の柱と同じく幅一メートルほどの石の梁がいくつも縦横に交差し格子状になっている。


 そしてその構造により壁は無数の縦長の穴が空いているのだ。光取りか換気かその両方のための構造なのだろうか。センスのない俺の感覚からするとモダンな建物に思える。


 馬車は城の正面の門から入り城の左横を通って裏の駐車場で止まった。ミコトが降りこっちに向かって奥のゴーレムトラックの区域に止めろと言っているので補給トラックをそこに止める。


 俺とカリョがトラックを降りると馬車の前にミコトといつの間にか来ていた四人の衛兵が立って待っていた。


 近づいていくとミコトは俺とカリョの体を頭からつま先まで何かを探すように見る。


「剣は…… 持っていませんね。では行きましょう」


 剣は持っていないが拳銃と伸縮式警棒型スタンガンは持っている。見せてもなんだかわからないだろうけど。


 城まで歩くと城の横、通用口らしきところから入るようだ。城の正面にあった大きな扉じゃないのか。


 衛兵が鉄らしき金属でできている重そうな扉を開けて中に入ると先頭にミコト、その次に衛兵二人、その後ろに俺とカリョ、一番後ろに衛兵二人の並びで城の中を歩く。


 通用口から続く通路は全体が白く幅が狭い。三人横に並んだらギリギリだ。だが天井は高く天井近くの壁には明かり取りの窓が開いている。


 一言もしゃべらず俺たちは歩き、いくつかの扉を通り階段を上り大きな両開きの扉の前に出た。高さは八メートル一枚の幅は四メートルくらいはありそうな大きな扉。その前に二人の衛兵が立っている。


「ここでお待ちください」


 ミコトはそう言うと大きな扉の横にある小さなドアから中に入って行き、ミコトと行動を共にしていた四人の衛兵は両開きの扉の前に立っていた二人の衛兵の横に並び立った。


 謁見の間とか玉座の間とかそんな部屋かもしれない。待たすのはいいけど椅子は無いのか?

 立たせているのだからすぐ来るかなとか考えていたらそっとカリョが俺の左腕にしがみつくようにくっついてきた。少し不安そうな表情だ。


「どうしたの? 何か心配なの?」

『大神官様が神の国の兵だからと言ってカイヤに無理なことを言わなければいいなと思って』

「俺一人で戦えとは言わないでしょ。戦力的にも負けていないらしいし。無茶を言われたときの用意をしたのも見てたよね。大丈夫だよ」

『そうだね。大丈夫だよね』


 安心しても腕から離れないでいてほしいと思っていたら離れずにいる。抱きしめるとか何かアクションを起こしたいのだが衛兵が見ているので俺は動けない。


 衛兵の存在が恨めしいとか思っていたら小さなドアが開いてミコトが出てきた。それに気付いてカリョが俺から離れる。


「カイヤ様、大神官と一緒に王と第一王子、将軍もお会いになりますので私に続いてください」


 え? 王に第一王子に将軍も?

 王と将軍はいいとして第一王子は嫌な予感がする。だからといって帰る訳にもいかないが。


 俺とカリョがミコトに続くと衛兵が左右に分かれて大きな扉を引き開いた。

 中はテニスコートを三面横に並べたような奥行きのある大きな部屋で兵士が左右に各二十人ほど並んでいた。


 奥には十人ほど横に並んで立ってこちらを見ている。中央に(たぶん)王とグリーグ第一王子と首席補佐官のザンザッカー、左に武官、右に文官が並んでいる。武官と文官は見てわかるほど体が違う。


 みんな神の国の兵がどんなものなのかと値踏みをするかのように俺を見ている。いや、王子だけは苦虫を噛み潰したような表情で俺を睨んでいるが。


 ミコトに続いて前に進み、王の前十メートル位のところで止まると振り返ったミコトが静かに口を開いた。


「ひざまずきなさい」


 その言葉でカリョがひざまずくが俺は立ったまま。カリョは一向にひざまずかない俺を見上げて、


『ギャレットは通訳してる? ひざまずけって言ってるよ』

「聞こえているよ。でも俺はいいの」

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