第51話 我が名は

”ゴォォォン、ゴォォォン、ゴォォォン”


 敵陣から銅鑼らしき音が聞こえてくると敵のゴーレム部隊が動き出した。開戦だ。


 敵のゴーレム部隊は皆、鉄の鎧を着て斧を持つ。大きな歩幅で前進し地響きを立てて近づいてくる。それはとてつもなく大きな圧力だ。


「みんな、行くぞ!」

「「『『了解!』』」」


 俺とカリョは将軍の護衛をしながら一旦マーツェの元まで戻っていた。そして今将軍は谷の上で成り行きを見守っているはずだ。

 俺と姉妹が重神兵で前進を開始し、ルージュが弾薬を乗せたカートを操作してついてくる。そしてキャサリンは別の場所で待機だ。


「カリョ、マーツェ、分かっていると思うけど相手は人間じゃなくて土でできたゴーレムだから。誰も死なないから思いっきり破壊してやろうな」

『わかった!』『任せて!』


 昨日重神兵を組み立てた後にカリョとマーツェは二時間ほど重神兵に乗って練習をしていた。生身の体とは可動範囲が違うので本来は長時間乗って慣れる必要があり、二時間程度で慣れるものではない。先ずは歩くこと。次に寝て起きること。そして武器を持って狙いを定め、引き金を引いて弾薬カートリッジの交換ができるようになるための練習だった。


 カリョとマーツェはそれぞれが右手にグレネードランチャー、左手に交換用グレネードカートリッジ二個をぶら下げて、俺はガトリングガンを持っている。全部重神兵用だから人間が使用するものより五~六倍の威力があり、土でできたゴーレムには過剰な武器かもしれない。


 視界右上に映るドローンからの映像では相手の陣形は横に四メートルほどの間隔を開け二十三体。その後ろは三メートル弱の間隔を開けて列を作ったゴーレムが続き、各列二十二・三体。合計五百十二体。


 敵のゴーレムの多くは四メートル級だが先頭にいるゴーレムはどれも皆大きく、小さいものでも六メートル、大きいものは八メートルを超えている。大きな壁が迫ってくるみたいだ。

 だが、こんな戦闘は地球じゃありえない。撃ってくださいと言わんばかりにまとが近づいてくる。


 対する俺たちはそれぞれが三十メートルほどの間隔を空けて左からカリョ、俺、マーツェの並びで前進している。


「レポートワン、攻撃目標まで百メートルを切りました」

「よし、攻撃開始!」

『『了解!』』


 俺たちは立ち止まり銃口を敵ゴーレム部隊に向けた。


”ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……”


 俺の左右にいる姉妹がグレネードランチャーを敵ゴーレムに向け左から右へ扇状に砲口を移動させながら六連装の全部を発射する。

 薄い煙を引きながら合計十二発のグレネードは敵のゴーレム部隊目掛けて飛んでいき、着弾するなり大爆発が起きた。


 とどろ轟音ごうおん。重神兵に乗っている俺にも重神兵のセンサーを通しての衝撃が体に感じる。


 直撃を受けたゴーレムとその周囲のゴーレムは木っ端みじんに弾け散り、敵のゴーレム部隊は広がる煙に覆われた。


 その煙の中から無傷のゴーレムや傷ついたがまだ動けるゴーレムが出て来たのを確認すると俺はガトリングガンの引き金を引いた。ガトリングガンの六本の銃身が高速回転し、銃口から激しく火花を散らしながら連続した発射音が鳴り響く。


 十発に一発の割合で混じる曳光弾えいこうだんが赤く弾道を曳いてゴーレムに到達すると瞬く間にその体を削り取っていった。

 魔核を撃ち抜かれた敵ゴーレムはその瞬間の体勢で動きを止め、そのままゆっくり倒れる。


 曳光弾を頼りに敵ゴーレムの頭を狙う。頭の中の魔核さえ壊してしまえば動けなくなるからだ。そうしてグレネードの爆発から逃れた敵ゴーレムを粉砕していると姉妹は空になったグレネード弾のカートリッジと足元に置いていた交換用カートリッジを交換したらしく再びグレネードランチャーを敵に向けて発射した。


 先の爆発で上がっていた煙が次の爆発で更に広がり、動いているものが見えなくなってしまった。


「攻撃停止」

『『了解』』


 煙が舞っているが敵は土でできたゴーレム。燃えるものは何もないはずだ。


 煙の中からゴーレムが出てくるのではと警戒を怠らすにいるとやや強めの風が吹いて煙を押し流した。そしてそこにあらわになった敵ゴーレム部隊。


 いや、顕になったのはただの土塊つちくれと鉄くずだった。かろうじて原型をとどめているのは運良く爆発を逃れ、前方に出てガトリングガンで頭を砕かれたゴーレムだけだった。


 オーバーキル―― 俺はその言葉を思い出していた。


 軍では「してはいけない」と教わったそれをしてしまったかと一瞬思ったが相手は人じゃなくてゴーレムだ。


 全然問題ないよね。


***


 連合軍の櫓では首脳陣が呆然としていた。


 眼下に繰り広げられた信じがたい光景。敵はわずか三体のゴーレム。横並びの三体のうち両端の二体のゴーレムが持つ筒の様なものから何かが勢いよく飛び出たと思ったら瞬く間に自軍のゴーレム部隊が爆発し轟音と共に煙に覆われてしまった。運よく爆発から逃れられて前に出たゴーレムは敵中央のゴーレムが持つ物からいかづちのようなものを浴びせられて砕け散る。

 そして両端の二体のゴーレムから再び何かが打ち出され、大爆発が繰り返された。


 風が吹き、煙を押し流していくとそこに現れたのは大量の土と鉄が混じったもの。わずかにゴーレムの形を残したものがあり、それによってその大量の土と鉄はゴーレムだったと知ることができた。


 首脳陣の開いた口が塞がらない。脳は何が起きたのかを懸命に考え、口を閉じることにまで考えが及んでいなかった。


 誰もが起きていることの答えを出せないでいる中、アルザルマ王国のボーラン王が声を上げた。


「な、なんだあれは?」


 その場の誰もが反射的に声のする方を見た。そして声の主が誰なのかを考えることなくその者が指差しているその先に視線を走らせた。


 そのボーラン王が指差す先にあったものは宙に浮く光。眼下に広がる爆発の煙の上、下ばかり見ていたので気づかなかったが自分たちの真正面約四十メートル先にその白い光があった。


 そのまばゆい光に目を凝らすと徐々に人の形が見えてきた。輪郭は女性。宙に浮かぶ一人の若い女性だ。白い衣を身にまとい、金色の頭髪が舞い、美しくやさしい微笑みを浮かべている。


 その女性はキャサリン。


 四機のドローンをジョイントアームで連結しキャサリンを吊り下げてそこまで運んでいたのだ。


 この作戦には新たに転移した四機、積荷としてあった三機、補給トラックに標準搭載の三機の合計十機のドローン全部を飛ばしている。


 その連結ドローンには長さ二十メートルのロープの両端を結んでV字に垂らし、シーツで作った白い衣の中にフルハーネスを装着したキャサリンがぶら下がる。一本で吊るすと吊るされた人間が横回転してしまうため回転しないようV字でロープを垂らしているのだ。


 キャサリンが光り輝いているのは別の一機のドローンが櫓の真上からライトアップしているからだ。キャサリンがライトアップされているので吊るしている十メートル上空の連結ドローンが目立たず、まるで人が宙に浮いているように見えている。


「「「「「「オォォォ」」」」」」


 櫓にいる誰もが目を見開き、驚きの声を上げた。それは櫓の中だけでなく櫓の外にいる数多くの兵士たちも同様だ。


が名はキャサリン」


 やさしく静かな口調に反し、大音量の声が谷に響き渡った。


挿絵「連結ドローンとキャサリン」

https://kakuyomu.jp/users/miyahahiroaki/news/16817330651599327753

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