第44話

 どきどきしながらティーポットに茶葉を入れ、焜炉でお湯を沸かして注いだ。不思議なことに、茶色の茶葉が染めたお湯は、乾燥させる前の薬草と同じ鮮やかな青色をしていた。


 カップにお茶を注ぐと、ふわりといい香りが厨房いっぱいに広がる。


「ベアトリス様! すごい! 薬草茶が完成しました!」


 嬉しくなってそう言うと、ベアトリス様もほんの少しだけ表情を緩める。



 早速一口飲んでみた。


 少し酸味があって、ほんのり甘い味がする。体の芯が緩むような感覚がした。


「おいしいです、ベアトリス様。それに、体がリラックスする感じがします。ベアトリス様のレシピはすごいですね」


 ベアトリス様はこくんとうなずいた。なんだか得意げに見えるのは気のせいだろうか。


「できるならベアトリス様にも飲んでもらいたいです。やっぱり幽霊って飲んだり食べたりはできないのでしょうか?」


 そう問いかけると、ベアトリス様はじっとこちらを見る。そして私が手に持つカップに顔を近づけた。


 ベアトリス様はすっとカップから顔を離す。量が減っているようには見えなかった。しかし、なんだかお茶の色が薄くなっているような気がする。


「ベアトリス様、お茶を飲めるんですか?」


 ベアトリス様は首を傾げた後、曖昧にうなずいた。飲めるということだろうか。


「じゃあ、私、今日からベアトリス様の分のお茶と、食事も用意します!」


 元気に言ったのに、ベアトリス様に真顔で首を横に振られてしまった。


「い、いりませんか」


 ベアトリス様はこくんとうなずく。何か言いたげに口をぱくぱくしていたけれど、声は聞こえなかった。


「わかりました。じゃあ、薬草茶を作った時だけでもまた飲んでください」


 そう言ったら、ベアトリス様はうなずいてくれた。



「リュシアン様にも飲ませてあげたいな……」


 無意識にそう呟いたら、ベアトリス様は首を傾げた。


「あ、言ってませんでしたね。リュシアン様っていうのは、私の婚約者です。すっごくかっこいいんですよ! しかも王子様なんです」


 うっとりしながら言うと、ベアトリス様は真顔のまま、小さくうなずく。


「ベアトリス様のおかげでこのお屋敷も結構楽しいんですが、リュシアン様に会えないのだけはとてもつらいんです……。何をしていても、リュシアン様がここにいたらなぁって思ってしまって。お庭に咲いていた綺麗な花を一緒に見たいなとか、完成したお茶を飲んでほしいなとか」


 私の言葉を、ベアトリス様はうんうん真剣な顔でうなずきながら聞いてくれた。調子に乗ってどんどん言葉が出てくる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る