第32話

「い、いえ、その。信じられないのは十分承知の上なのですが、確かに見たんです。黒く長い髪に、紺色のドレスを着た女性を。喋ったことはないので、本当に魔女なのかはわかりませんが。でも、幽霊と言っても悪い人ではないんですよ。むしろ親切な方で……」


「長い髪に紺色のドレスの女性、本当に見たんですか?」


「はい。確かに見ました!」


 私が力強くうなずくと、ロイクさんは難しい顔で言った。


「魔女は長い黒髪をしていたと言います。それに、あまり派手な服を好まず、紺色の飾り気のないドレスを好んで着ていたとも聞きました。あなたが見た幽霊と一致していますね」


「じゃあ、やっぱりあの幽霊は魔女……!」


「どこで見たんですか? いつ頃? 見たのは一度だけですか?」


 ロイクさんは真剣な様子で聞いてくる。私は一つずつ説明した。最初は書庫の前の廊下で見かけたこと、最近はよく姿を現すことなど、できるだけ詳細に話すと、ロイクさんは真面目な顔でうなずいた。


「……わかりました。報告をありがとうございます。王家には伝えておきます」


「はい、お願いします。それにしても、ロイクさんは信じてくれるんですね。幽霊なんて突飛な話」


 リュシアン様はいまだに全然信じてくれないのにと思いながら、何気なくそう言うと、ロイクさんは複雑そうな顔をした。


「だって、化けて出たくもなるでしょう。過酷な取り調べの後に死ぬまで幽閉されて。俺だったらずっとこの世に留まって憎み続けますよ」


 ロイクさんはつぶやくようにそう言ってから、はっとしたようにこちらに笑顔を向けた。


「すみません。こんなこと、お屋敷から出られないジスレーヌ様に言ったら怖くなりますよね」


「いいえ、気にしないでください。魔女さんから憎しみなんて感じませんし」


 私がそう言うと、ロイクさんは驚いた顔をした。そして笑顔にも困り顔にも見える複雑な顔をする。


 私はその反応を不思議に思いながらも、確認しておきたかったことを尋ねた。



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