第33話
「そういえばロイクさん。前に事務所に連絡をしようとしたんですが、通信機がつながらなかったんです。壊れているんでしょうか」
私は玄関横のプレートを見ながら言う。ロイクさんが最初に来た次の日、連絡を取ろうと思ったがつながらなかった。その後も時間を変えて何度か試してみたが、一度も事務所にはつながったことはない。
ロイクさんはそちらをちらりと見てから首を傾げた。
「連絡をくれていたんですか? おかしいな。事務所のほうではベルが鳴りませんでしたが」
「確かに何度も連絡しました! やはり壊れているんでしょうか」
「プレートを直接確認したいところなんですが、俺はここまでしか入れないんですよね……。前も言った通りここのお屋敷は二人分の鍵がないと開かなくて。事務所の責任者なら一人で開けられる鍵を持ってるんですが」
ロイクさんは困り顔で言う。それからふと思いついたようにこちらを見た。
「前にお渡しした魔石、持っていますか?」
「はい。持っています」
「ちょっと貸してもらっていいですか」
ロイクさんにそう言われ、私は懐から魔石を取り出して渡す。ロイクさんはそれをじっと眺めると、「あー」と声を上げた。
「すみません、ジスレーヌ様! この石、魔法で鍵がかかっているんです。使うには解除魔法がいるのに、かけるのをすっかり忘れていました」
「まぁ」
「すぐに解除しますね」
ロイクさんはそう言うと、魔石に向かって手をかざす。すると、石の周りが光った。
「これで使えると思います。本当にすみませんでした」
「いえ、大丈夫です。緊急の用事があったわけではないですから」
初めて使ったときこそ使えなくてがっかりしたものの、夜にリュシアン様と通信できるようになってからはそれほど通信機を使いたいと思わなくなっていた。
しかし、ロイクさんは頭を下げ、とても申し訳なさそうにしている。
「今度こそちゃんと出るので、困ったことがあれば連絡してください」
「はい、お願いします」
「それでは、俺はそろそろ失礼します」
ロイクさんは笑顔で手を振って、去って行く。私はロイクさんの後ろ姿を見送った後、持ってきてくれた荷物を屋敷の中に運び始めることにした。
ふと、お屋敷の空気がひんやりとしていることに気づく。
魔女がまた現れたのかと思い後ろを振り返ると、彼女はじっとドアのほうを見つめていた。
私が声をかける前に、魔女はふっと姿を消してしまった。
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