第30話
***
その日の晩、私はリュシアン様の夢を見た。夢の中のリュシアン様は、怖い顔で私を睨んでいる。
「お前、オレリアに何をする気だった?」
「わ、私は何もする気など」
「じゃあどうして俺たちの後をつけてきた」
ぐっと言葉に詰まる。今日はリュシアン様がオレリア様と一緒に外出なさると聞いて、居てもたってもいられず、後をつけてしまったのだ。
何も言えないでいる私を見て溜め息を吐いたリュシアン様は、私の髪を引っ張って、耳元で囁いた。
「言ったよな、ジスレーヌ。オレリアには手を出すなと」
「わ、私は本当に……」
「お前の言葉なんて信じられると思うか? 疑われたくないなら軽率な行動は控えろ。わかったな」
「……わかりました」
私は鞄をきゅっと握りしめて、力なくうなずいた。
「本当に、お前が婚約者になってから何度オレリアのほうを選べばよかったと後悔したかわからないよ」
リュシアン様は呆れた様子で言う。
反論の余地もなかった。オレリア様は、ルナール公爵家のご令嬢で、私よりもずっと賢く、美しく、人望も厚い方。そんな彼女がリュシアン様と親しくしているからって、嫉妬するほうがおかしいのだ。
現国王様の弟君の娘であり、幼い頃から王家と深い関係にあるオレリア様。
オレリア様のほうが王太子の婚約者としてふさわしいのだという声は私達の婚約当初から囁かれていた。
しかし、私の両親の後押しと、子供が生まれたとき血が濃くなり過ぎるのもよくないということで、どうにか私が婚約者に決まった。
それでも、今も私を婚約者の座から引きずり降ろそうとする人がたくさんいるのは知っている。
私なんて、リュシアン様の温情で婚約者の立場に留めておいてもらえているに過ぎないのだ。
みじめな気持ちになり、視界が涙で滲んできた。泣きたくないと思っても意志とは関係なくぽたぽた涙が地面に落ちる。
リュシアン様は私が泣いているのに気づき、驚いたように目を見開くと、頬に手をあてて涙を拭ってくれた。
「レーヌ、ごめん。言い過ぎたよ。心配になってついて来ただけなんだよな?」
「は、はい……っ、ごめんなさ……」
「でも、わかってくれ。ルナール公爵家の力は知っているだろう? オレリアをないがしろにするわけにはいかないんだ」
「わかっています、もうこんなことはしません……っ」
私がそう言うと、リュシアン様は満足げにうなずいた。
リュシアン様はとても優しい人だ。
私がどうしようもなくても、馬鹿なことをしでかしても、怒りはするけれど最後にはいつも許してくれる。
閉じ込めたり蹴ったり、髪を引っ張ったりで済ませてくれる彼は、とても寛大な人だ。
私はもっとリュシアン様にふさわしい人間にならなくてはならない。
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