第58話
***
俺には物心ついた頃から父がおらず、母は一人で俺を育ててくれました。
父も母も子爵家の生まれでしたが、母はどちらの家にも寄り付かず、俺たちは小さな村で平民と同じように暮らしていました。
母は公爵家で侍女をしていました。
母の生家には以前ルナール公爵家で働いていた者がおり、そのつながりで働けることになったそうです。
俺が覚えている限り母の生家に行ったことは一度もありませんが、完全に縁が切れていたわけではなかったのでしょう。
公爵家での仕事は楽ではなかったでしょうが、母は一切疲れを見せませんでした。仕事のある日はほとんど顔を合わせる時間がなかったけれど、休日はずっと一緒にいて、薬草の見分け方や植物の育て方をたくさん教えてくれました。
俺は子供の頃、体が弱かったのですが、母は俺が具合が悪いと言うとすぐに青い薬草を摘んできてお茶にして飲ませてくれました。
その鮮やかな青色をしたお茶を飲むと、体のだるさが引いて、翌日には元気に走り回ることができました。
俺にとって母は、世間で悪意を込めて言われているような悪い魔女ではなく、どんなことも魔法で解決してくれる、偉大な魔法使いに見えていました。
……すみません、話が逸れてしまいましたね。
淡々と公爵家に通っていた母ですが、ある時から考え事をするように黙り込んだり、顔を青ざめさせることが増えました。
俺は当時四歳で、その意味を考えることすらできませんでしたが、母が不安そうな顔をしていると自分も不安になったので、その時のことはよく覚えています。
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