第19話
「そんなものいるわけないだろう。怖がり過ぎて幻覚でも見たんじゃないか」
「幻覚などではありません! 私は確かに、紺色のドレスを着た髪の長い女性がこちらをじっと見ているのを見ました。本当にびっくりして、昨日の夜はずっと部屋に隠れてたんです」
「幻覚じゃないなら夢でも見たんだろ」
「夢でもないんです! それに、ほかにもおかしなことがいくつかありました。窓は閉まっているのに風が吹いてドアがしまったり、本棚からひとりでに本が落ちたり。やっぱりこのお屋敷には何かいるんですよ!」
「壁に穴でも開いていて、風が入り込んだんじゃないか?」
私は精一杯説明しようとするが、リュシアン様は全く信じてくれていないようだった。私はしょんぼりとうなだれる。
「屋敷では幽霊の幻覚を見たこと以外、特に何事もなかったと。そうだな?」
「幻覚ではありません!」
「しつこいな。まぁ、幽霊が出たんだと言うことにしておいてやる。屋敷での生活についても聞いたし、もう通信を切るぞ。しっかり反省しろよ」
リュシアン様はそう言って立ち上がろうとする。ああ、行ってしまう。慌てた私は、思わず彼を引き止めてしまった。
「あっ、お待ちください、リュシアン様!」
「なんだよ」
リュシアン様はこちらにめんどくさそうな目を向ける。私はしどろもどろになって言った。
「その……この通信は今日だけなのでしょうか……?」
「さぁな。またしばらくしたらお前の反省状況を確認するために使うかもしれない」
リュシアン様は平然と言う。しばらくしたら使うかもしれない。それは一体いつになるのだろう。少なくともまた数日間はリュシアン様の顔を見ることができないと思うと、胸が痛みだす。
私は思い切って要望を口にしてみた。
「あ、あの……おこがましいお願いかとは思うのですが、毎日十分間だけ……いえ、五分間だけでいいので私と通信してもらえませんか?」
私の言葉にリュシアン様は目を見開いた。罪人の分際でこんなことを頼むなんて、おこがましいのはわかっている。
でも、一日五分間だけでもリュシアン様の顔を見られれば、この奇妙なお屋敷でもやっていける気がするのだ。
懸命に頼む私をリュシアン様は眉をひそめて見ていた。
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