第27話
屋敷での生活に少しだけ慣れ始めたそんなある日。
私はいつも通り、洗濯室でドレスを洗っていた。すると、突然空気がひんやりと冷めて、あの女性の幽霊が姿を現した。
幽霊はいつも通り、感情のない目でじっとこちらを見つめている。もう彼女にも慣れ始めた私は、気にせず洗濯を続けることにした。しかし、いつもならすぐに消える幽霊は今日に限ってなかなか消えない。
「……あの、何かご用でしょうか……?」
じっと見つめていられるのに耐えられなくなり、思い切って尋ねてみる。すると幽霊は目をぱちくりした。
それからすぅっとこちらに歩いてきて、洗濯物の入った鍋の横にしゃがむ。
不思議に思って見ていると、幽霊は鍋の下を指さした。
「……?」
つられるように視線を動かすと、鍋の下の台になっている部分に、引き出しがついているのに気がつく。ただの台だと思って、そんなところまで見ていなかった。幽霊はこれを開けろと言っているのだろうか。
どきどきしながら開けてみると、そこにはいくつも石鹸が入っていた。手に取ってみると、少し古びてはいるようだけれど、問題なく使えそうに見える。
「あの……もしかして石鹸の場所を教えてくれたんですか?」
尋ねると幽霊はこくりとうなずいた。呆気に取られて目を瞬かせる。お礼を言う前に幽霊はぱっと姿を消してしまった。
「あの幽霊……もしかしていい人なのかな……?」
私は見つけたばかりの石鹸を握りしめ、思わず呟いた。
***
それから幽霊は、これまでより頻繁に姿を現すようになった。
たとえば私が料理していると、いつの間にか横に立っていて、料理の様子をじっと見ているのだ。
不思議に思ってお皿を差し出してみたが、首をふるふる横に振られた。私があまりにも下手な料理を作るので、気になったのかもしれない。
そう思っていたら、次の日はレシピ本を見ている最中からじっとこちらを見ていた。
私が野菜のクリーム煮のページを読んでいると、眉をひそめて難しい顔をする。彼女が無表情以外の顔を見せるのは初めてなので、少し戸惑った。
ちょっと気まずくなりながら次のページをめくると、幽霊の眉間のしわが深くなる。私はなぜ彼女を不機嫌にさせてしまっているのだろう。
ページをめくり続けると、ようやく彼女の顔から険しさが消えた。そしてうっすら透ける指で開いたページを指さす。そこにはサンドイッチのレシピが書かれていた。
「これを作れってことですか?」
尋ねると、幽霊はこくりとうなずいた。
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