第25話
洗濯室の次は一旦寝室に置いてあった食材を取りに戻り、厨房にやって来た。
今日は料理にも挑戦してみよう。紙袋を開け、食材を全て外に出す。
ここのところ毎日食べている黒パンのほかに、野菜と果物、小麦粉、油、保冷用の箱に入った卵がある。三日も経っているので野菜はしなびかけていた。
早めに使っておいたほうがいいかもしれない。私は料理の本を開いて、紙袋に入っていた野菜が多く入っているレシピはないか探し始めた。
「あ、キッシュなんていいかも!」
これなら野菜をたくさん入れられるし、混ぜて焼くだけみたいだから簡単そう。私はさっそくレシピを見ながら作ってみることにした。
……簡単そうだなんて考えたのが間違いだった。
まず、野菜の皮むきからして全然簡単じゃない。
前にお屋敷の厨房でキッチンメイドたちが皮むきをしているのを見たときは、するすると簡単そうに剥いていたのに、実際やってみると野菜が固くてなかなか刃が通らないし、通ったと思ったら厚く切り過ぎるしで、全然うまくいかなかった。
途中で刃が指にあたりそうになり、何度もひやっとさせられた。
それから温めるのがまた難関だった。かまどは横の小さなプレートに赤い魔石を置くと火魔法で温めてくれる造りになっている。
なんだ、自分で火を起こさなくていいんだと油断して適当に温めたら、表面だけが焦げて中は生焼けになってしまった。
出来上がったのは生地がべちゃべちゃで、野菜が中途半端に温まった、キッシュと言っていいのかわからない代物だった。
「た、食べられるわよ。ちょっと生焼けなくらい」
自分にそう言い聞かせ、食堂までキッシュの入ったお皿を持って行く。布巾で簡単に拭いてからテーブルにお皿を載せ、食べてみることにした。スプーンを入れると、ぐにゃりと不安になる感触がする。
それでも口に入れてみる。
「味……薄い……」
焦げと生焼けの混じった味は覚悟していたが、口に入れた瞬間味のなさに驚いた。そこでやっと調味料を入れていなかったことに気づく。
多分、レシピにはちゃんと書いてあったと思う。野菜を切るのと生地を混ぜて焼くので頭がいっぱいになっていて、調味料について見落としていた。
「うぅ……おいしくない……」
それでも貴重な食料を無駄にするわけにはいかず、私はなんとか味のないどろどろのキッシュを食べきった。
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