第39話
「じゃあ、早速薬作りやってみます!」
薬草のいっぱいに入ったバケツを持って厨房に来た私は、元気に宣言した。ずっと消えないままのベアトリス様は、複雑そうな顔をする。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ベアトリス様」
そう言いながらメモ書きを取り出し、ぱらぱらめくる。どれがいいだろう。疲れに効く薬や風邪を治す薬、眼病に効く薬など、さまざまな種類がある。
見ている最中、ベアトリス様のうっすらと透ける手で視線を遮られた。
「ベアトリス様?」
尋ねるが、ベアトリス様は手をどかしてくれない。不思議に思っていると、もう片方の手でメモの束の後ろのほうを指さした。
「これですか?」
後ろのほうのメモを見ろという意味なのかと思い、取り出してみると、彼女は満足げな顔をした。そのメモには、薬草茶の作り方が書いてある。
「これを作れということですか?」
前にもこんなことがあったなと思いながら尋ねると、ベアトリス様はこくんとうなずいた。
お茶の作り方と、先ほどまで見ていた薬の作り方を比べてみる。
薬のほうは分量が細かく書かれていて作り方も複雑なのに対し、お茶のほうは大雑把に言えば乾燥させて煎じるだけだった。
ああ、ベアトリス様は初心者なら薬じゃなくてまずはお茶にしろと言っているのかもしれない。
「わかりました、ベアトリス様。まずは薬草茶を作ってみます」
そう言うと、ベアトリス様は若干ほっとしたような顔をしていた。
改めて薬草茶の作り方の書かれたメモを読む。
まずは薬草を三日ほど外に干し、乾燥させる。水分が飛んだのを確認したら、それを小さく切る。細かく切った薬草を鍋に入れてあぶり、ティーポットに入れてお湯を注いだら完成。
時間はかかるみたいだけれど、作り方は随分簡単そうに見える。これなら私にもできそうだ。
早速倉庫から紐を探して来て庭の木に結び、糸で種類ごとに分けて薬草を吊るした。
ちなみに、糸はベアトリス様の物らしいトランクに入っていた裁縫箱からお借りした。ベアトリス様に使っていいか尋ねたら、快くうなずいてくれたのだ。
薬草を全て干し終えたときには、すっかり日が落ちていた。
「うまくできますかね、ベアトリス様」
後ろを振り返って尋ねると、ベアトリス様は干された薬草をちらっと見てからうなずいた。それからふっと消えてしまった。
今日はほぼ一日中私の後をついてきたのに、消えるときはいつも通りあっさりだ。
「完成したらベアトリス様にも飲んでほしいなぁ」
幽霊がお茶を飲むなんてできないのだろうけれど。思わずそう呟いてしまった。
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