第12話

「それでは、また七日後に」


「あの、ロイクさん!」


 お辞儀をして去って行きそうなロイクさんを慌てて引き止める。ロイクさんは振り向いて「なんですか?」と尋ねる。


「ちょっと屋敷でおかしなことがあったんです。その……」


 昨日屋敷で起こったことを思い出す。ひとりでに閉まるドア。突然棚から落ちた日記。頬を撫でた風。なにより一番は……。


「昨日、お屋敷の部屋を回っていたら、二階の奥から二番目の部屋で手紙を見つけたんです。そこには『お前たちを許さない』って……血のような赤黒い字で書かれていました」


 思い切って昨日のことを伝える。いくつかあった違和感のうち、これが一番はっきりしているものだ。


 ロイクさんは私の言葉に目を見開く。


「そんな手紙があったんですか? 部屋のどこに?」


「机の上に置いてありました」


「おかしいな……。屋敷に人を入れる前には、管理人数人で入って中を確認するんですよ。もちろん、その時には手紙なんて置いてありませんでした」


「そ、そうなんですか?」


「はい。ここは人が侵入してこないように厳重に障壁魔法がかかっているから、外から人が入って来るなんてできないはずなんですが……」


 ロイクさんは顎に手を当て、難しい顔をする。そして真面目な顔をして言った。


「その手紙を持ってきてもらうことはできますか。事務所で報告しておきます」


「えっ……」


「? 難しいですか?」


「いえ、ちょっとあまり近づきたくなくて……」


 私がそう言うと、ロイクさんは気の毒そうな顔になった。


「わかりました。それなら大丈夫です。確かにそんな手紙に近寄りたくありませんよね。そんなことがあったなら一旦お屋敷から出してあげたいんですが、俺にはそんな権限はなくて……」


「いえ、大丈夫です。実害はないですから」


「すみません。難しいと思いますけれど、一応考慮してもらえないか確認しておきます」


 ロイクさんはそう言ってくれたが、手紙が置かれていたくらいで一旦出してもらうのは無理だろうと思った。


 多分、そういう不可解なことが起きるのを承知で閉じ込めているのだろうから。そうじゃなければ、呪われているという屋敷に幽閉したりしない。


「心細くなったら、いつでも連絡してくださいね」


 ロイクさんは励ますようにそう言うと、軽く手を振って去って行った。


 再び静寂が訪れた屋敷で、少しだけ名残惜しい思いをしながら扉を閉める。

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